絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種

たまに何かを書く人

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第2章 初レースと手にした自信

第一節 本番の朝、全力で

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体力テスト当日の朝。
空はどんよりと重く、今にも泣き出しそうな雲が校庭を覆っていた。

「雨、持ちこたえてくれるといいけど……」

昇降口で顔を合わせたさちに、ユキが声をかける。

「うん。でも、今日は行けそうな気がする」

ハルもにっこりとうなずいた。

「やれることは全部やったもんね」

「うん。あとは、楽しむだけ!」

三人は拳を合わせ、静かに気合を入れた。



1時間目、体育館での「上体起こし」。

マットに背中をつけると、冷たい感触が緊張を呼び覚ます。
先生がタイマーをセットする声が響く。

「20秒間で何回できるか。よーい、スタート!」

「いち、に、さん……!」

ユキが足をしっかり押さえてくれている。隣ではハルも、別の子の足元に座っていた。

最初はリズムよく体を起こせた。
トレーニングで学んだ“腹筋を使う動き”を意識する。

――けれど、20回を越えるころから、お腹がじわじわと焼けるように熱くなり、呼吸も荒くなってきた。

「がんばれ、さち! そのまま、リズムで!」

ユキの声が飛ぶ。顔を上げるたびに、彼女の目が見える。

(苦しい……でも、私、やれる!)

タイマーが止まる。

「……28回!」

「やった……!」

息を切らしながら、さちはマットに寝転がった。

隣でハルが笑顔で立ち上がる。

「私、30回いった! でも、さちもめっちゃ良かったよ!」

「トレーニング始めた頃は10回くらいだったのに、倍以上じゃん!」

ユキの拍手に、三人の表情が明るくなった。



3時間目。校庭での「50m走」。

湿気を含んだ空気が、じわりと体にまとわりつく。スタートラインに立つと、靴の中が少し濡れていることに気づいた。

「位置について、よーい……」

ピッ!

笛の音と同時に、地面を蹴る。

(腕! 腕を振る! 膝を上げる!)

全身を前に投げ出すような感覚。
横から、ハルとユキの応援が聞こえる。

ゴールのラインが近づき、ラストスパート。

――ゴール!

「……はぁ、はぁ……!」

先生がストップウォッチを確認し、目を丸くする。

「白川、8秒7!」

「えっ……?!」

周囲がざわついた。

「私、10秒台しか出したことなかったのに……!」

「すごいじゃん!」

ハルとユキが駆け寄り、手を叩いてくれた。

「さち、本当に速くなってるよ!」

「毎日続けた努力、ちゃんと結果に出たんだね」

さちの目に、うれし涙がにじんだ。



昼休み後の「握力測定」。

「さち、次の番だよ」

ハルに肩を叩かれ、銀色の握力計を見つめる。

「練習のときより、ちょっと手を前に出して。肘は伸ばしすぎないほうが力が出るよ」

ユキがそっとアドバイスをくれた。

「うん……ありがとう」

深呼吸して、力いっぱい握る。

「……ふっ!」

針が勢いよく動く。

「18.7キロ!」

「すごい! 前より2キロ上がってる!」

頬を紅潮させたさちに、ハルが嬉しそうに言った。

「ちゃんと力、ついてきてるってことだよ。がんばってきたもんね!」



最後は「シャトルラン」。

体育館の両端に置かれた赤いコーンの間を、合図に合わせて走る。

ピッ――!

最初の数往復は軽やかだった。
でも、回数が増えるごとに息が切れ、足が重くなっていく。

(もっといける……まだ、いける!)

「さち、がんばれ! ここからが勝負だよ!」

ハルの声。
隣ではユキが、一定のフォームで走り続けている。

さちは、体の奥に残った力をかき集めて、足を動かした。

ピッ――ピッ――

「……27回!」

ラインを踏んで、その場にしゃがみ込む。

「……これが、私の今の全力……」

すぐにハルとユキが駆け寄る。

「ナイスラン!」

「最後まで走り切った。それが一番すごいよ!」

ハルが水筒を差し出し、ユキが背中をやさしくなでてくれた。

「ありがとう……二人がいたから、がんばれた」

天井を見上げながら、さちはふっと笑った。



放課後、三人は体育倉庫の裏でひと休みしていた。

「ねえ、今日までに、私たちどれだけ変われたと思う?」

「すごく変わったよ。体もだけど、気持ちも強くなった」

「うん。また明日からもトレーニング、続けよう。Aじゃなくても、自分たちの“最高”を目指して」

三人はそっと肩を寄せ合い、笑顔を交わした。

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