絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種

たまに何かを書く人

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第2章 初レースと手にした自信

第四節 水のなかで見つけた目標

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スイミングスクールのプールに、水音が静かに響いていた。

水面の光が天井にゆらめくなか、さちは壁際に立ち、ゴーグル越しに水面を見つめていた。足を水に浸すと、まだ少し緊張する。

「今日はクロールで25メートル、がんばってみよう」

コーチの声が響く。ハルとユキはすでに水の中。スタート位置でアップを終え、流れるように泳ぎ始めた。

(すごいな……)

プールの向こうから、ハルの力強いストロークが近づいてくる。水をかく手の動き、無駄のないキック、自然な息継ぎ――すべてが美しかった。

ユキはそのあとを静かに追いかけていた。フォームはなめらかで、水と一体になっているようだった。

(いつか、あんなふうに泳げたら……)

さちは深く息を吸って、水に入る。

「いくよ……!」

壁を蹴って、スタート。

最初の数メートルは思った以上に進んだ。けれど、すぐに息が苦しくなって、腕と足がばらばらになっていく。

「ぷはっ……!」

15メートルを過ぎたところで水を飲みそうになり、慌てて立ち上がってしまった。

プールサイドのコーチがタイムを止め、声をかける。

「途中までは良いリズムだったよ。でも、力の入れどころと抜きどころのバランスを、これから覚えていこう」

悔しさを押し殺し、さちはうなずいた。

「はい……!」

プールから上がると、ハルがすっとタオルを差し出した。

「最初の方、かなり良かったよ! 水の中での姿勢が安定してた」

「でも、結局最後まで泳げなかった……」

「それでも、昨日よりずっと進んでたし!」

ユキもにっこり笑った。

「さちは努力型だもん。毎回、少しずつ前に進んでるよ。私たちだって、最初はそうだった」

その言葉が、さちの胸にすっと染みこんだ。

(遅くたっていい。いつか泳ぎきりたい)

トレーニングルームに戻った三人は、濡れた髪をタオルで拭きながら、ホワイトボードの前に並んだ。

「次の目標は“25メートル完泳”だね!」

「うん。夏のあいだに達成できたら、自信になるよ」

さちはペンを取り、「25m完泳 目標:7月中」と書き加えた。

そのとき、ユキがふとトレーニング表を見つめてつぶやく。

「……わたしたちも、そろそろ真剣に考えないと」

「うん。あと2か月で県大会。タイム、縮めないと予選通過できない」

強化選手クラスのハルとユキは、50メートルと100メートル自由形のエントリーを控えていた。

「でも、どう縮める? ただがむしゃらに泳いでも、限界感じてるよね」

「だから、次は“技術”も意識しようよ。たとえば、スタートやターンの質とか」

さちは少し首をかしげる。

「泳ぐ速さって、体力だけじゃないの?」

「ううん。フォームと力の伝え方、そして水との“相性”。同じ体力でも、技術でぜんぜん違ってくるんだよ」

その話を聞いて、さちの胸にワクワクした気持ちが広がる。

「なんだか面白そう。泳ぎきれるようになったら、私ももっといろんなこと知りたいな」

ユキがホワイトボードに「フォーム練習」と書き加えた。

「さちがどんどん追いついてくるの、私たちも刺激になるよ」

「うん、三人で成長していけるって、すごくいい感じ!」

3人は、新しい目標に向かって笑顔を交わした。

水の中で、それぞれの夢が、ゆっくりと形になりはじめていた。

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