筧 みなみ

文字の大きさ
4 / 9
第1章|温もりの記憶

第4話|秘密基地

しおりを挟む
空き地は、道路から一段下がったところにあった。舗装の切れ目に砂利が溜まり、踏むと乾いた音がする。周囲を囲むフェンスは途中で歪み、完全な形を保っていない。風が抜けるたび、金属が短く鳴った。音は一定ではなく、強さも間隔も揃わない。

一真は先に来て、地面にしゃがんでいた。土は乾いており、指でなぞると細かく崩れる。石をいくつか拾い、並べる。囲いのようにも見えるが、形は定まらない。置かれたままの石は、並びを主張しない。

足音が増える。間隔の違う三つ分。音の重なりは短く、すぐにばらける。

航が立ち止まり、空き地全体を見る。ひなは一真の横にしゃがみ、同じ地面を見る。少し遅れて、知恵もフェンスの内側に入る。影が地面に落ちるが、角度は揃わず、重ならない。影は長くも短くもならず、そのまま残る。

「ここ」

航が言い、フェンス際を指す。倒れた板と、使われていないコンテナが半分土に埋もれている。内側は見えないが、風を避けるには足りていた。

三人で板を動かす。板は軽く、端が欠けている。持ち上げると、溜まっていた土の粉が落ちる。粉は風に流され、すぐに形を失う。残るものはなく、跡も残らない。

コンテナの中は暗い。床には木片と空き缶が散らばり、踏むと音が出る。航が先に入り、手のひらで壁を叩く。鈍い音が返る。

「大丈夫」

それだけが置かれ、理由は続かない。音は壁の内側で一度反響し、すぐに消える。

一真は入口近くに腰を下ろす。ひなは隣に座り、足を宙にぶら下げる。靴先は床に届かず、揺らすと影が動く。知恵は内側に座る。航は壁際に背を預けた。誰の位置も、固定されない。

外では風が吹き、フェンスが鳴る。中では、その音が遠くなる。消えるわけではなく、形だけが変わる。音は境目で削られ、残りが内側に入る。

航が拾ってきた木片を並べ、簡単な棚のように置く。倒れないが、安定もしていない。ひなが小石を一つ置き、位置をずらす。動かした理由は示されない。棚は棚のままで、用途は増えない。

コンテナの隙間から光が入る。線のように細く、床に落ちる。時間が進むにつれ、その位置が少しずつ動く。動きは遅く、気にしなければ分からない。線は床から壁へ移り、途中で途切れる。

「ここ、秘密」

ひなが言う。声は抑揚がなく、壁に吸われる。言葉は返らず、そのまま残る。

航は頷き、一真も同じ動作を返す。知恵は何も言わない。それ以上の取り決めはない。決めた形も、合図も置かれない。

外の音に、子どもの声が混じる。遠くで誰かが呼び合っているが、言葉は届かない。声は近づかず、そのまま消える。内側では、音の種類だけが増える。

一真は地面に落ちていた針金を拾う。曲げると抵抗があり、金属音がする。形は定まらず、戻ろうとする。何度か折り、最後に土の上に置く。航も別の針金を拾い、同じように曲げる。二つは似ているが、同じ形にはならない。ひなは触れず、並んだ二つを見る。

時間が進む。外の光が強くなり、影が短くなる。コンテナの中も明るさが増し、床の凹凸が見えるようになる。見える範囲が広がっても、配置は変わらない。

ひなが立ち上がり、入口に近づく。外を覗き、何も言わずに戻る。その動作だけで、外の様子が共有される。説明は加えられない。

航は座ったまま、壁に手のひらを当てる。冷たくも暖かくもない。ざらつきだけが残る。触れている間、音は変わらない。

一真は入口と内部の境目に座り直す。外の風と中の静けさ、そのどちらにも完全には属さない位置。ひなはその動きを見て、姿勢を変える。知恵はその場にいる。

コンテナの外で、何かが落ちる音がした。四人とも動きを止める。音は一度きりで、続かない。確認はしない。

航が空き缶を横に倒す。転がり、短い音を立てて止まる。位置は偶然だが、そのまま固定される。音だけが残り、意味は付かない。

誰も名前を呼ばない。

外の風が強くなり、フェンスの音がはっきりする。中では反響して、少し低くなる。秘密基地は遮断ではなく、音を変える場所として残る。

影が再び伸び始める。光の線は床から壁へ移動し、やがて消える。

一真が立ち上がり、入口の板を少し戻す。航も同じ動作をし、ひなはそれを見て頷く。知恵も一緒に外へ出る。

外に出ると、空き地の匂いが戻る。土と草と、錆びた金属。中にあった静けさは、外では成立しない。

四人は振り返らずに歩き出す。秘密基地はその場に残される。誰も確認しないが、配置は崩れていない。

空き地には、風だけが通り続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...