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褒賞に望むもの 2
「今まで番消しの薬や番避けの薬、避妊薬の調整など、まあ小さなものも入れるとそこそこ貢献してこれたのではないかと思ってます」
「うん。そこそこどころではないよね。スーランの副作用の少なさに特化した薬は専売特許レベルでいくつもある」
「元は私個人がこういう薬があればと精製した趣味の一環のようなものでしたが、世の女性に役に立てたなら僥倖でしたということで、今までの褒賞をまとめて一つのお願いができました」
「おや、なんだろうか」
スーランから薬関連以外で要望を出されたことがなかったガブリアルノが少し身を乗り出して聞いてくる。ギュスターも珍しいものを見たという感じで僅かに首を傾げた。
「期間限定…一年、ではなく半年間。婚姻してみたいです」
「…え?」
「は?」
スーランのあまりに唐突で予想もしなかった願いに二人が一文字応答で言葉を失くす。
「ですから婚姻してみたいです」
「え、…婚姻、かい?そもそも興味があったの?」
「いえ、最近までは全然。誰かと共に暮らしたり寄り添うことがまず私には困難ですから」
「でしょうね。貴女は精製や魔術には長けてはいますが、他…特に生活能力が皆無だと聞いていますから」
「用を足すくらいは一人で出来ますよ、失礼な」
「それは人として当たり前の範囲です」
「ぶふっ、二人共もう良いから。スーラン、その要望をここで頼むということは相手が相手なのかな?」
「まあ多分」
ガブリアルノが面白そうに体を更に前に傾ける。
「誰?凄く気になる」
「バウデン・ホークル統括総帥」
「「は?」」
国王と宰相の言葉が今度は綺麗に重なった。
「あの人との半年間の婚姻を私の褒賞として望みます」
暫しの静寂。
「…うん、えっと。スーラン?」
「はいはい」
「はい、は一度」
「ギュスターちょっと黙ってて、それやると長引くから。―――スーラン、バウデンかい?」
「そうですね」
「なんでまた彼なの?」
そう聞かれてスーランは僅かに首を傾げた。
「何で…何となくでしょうか」
「え、そんな理由で褒賞の希望?何かこれだというのは無いの?君より結構年上だよね?しかも前の奥方とは死別していて」
「そうですね」
「しかも息子がさ、」
「私の弟子ではありますね。何故か懐かれていますが」
ガブリアルノも驚いた相手とは。
この国の王国魔術隊の最高権力者。統括総帥であり三大公爵のうちの一つ、鷹族のホークル公爵家の当主でもある。年齢は確か今年三十八歳で二十七歳のスーランとは一回り近く離れているはずだ。
「そうだよね。何でまた…最高峰の権力とか身分…?」
「それが理由なら先ずは魔術隊で役職もらってます」
「だよね。散々足蹴にしてきたからね」
「…なら何故彼を選んだのですか?」
ギュスターが理解できないという風に聞いてくるので、スーランも首を傾げた。
「…理由。年上で魔術師として有能で、…あとなんでしょう」
「それだけ!?」
「顔とか、背とか…?あと…うーん」
「疑問系でしかも付け足してもそれ!?」
「いえ、何となく昔から気にはなっていたんですよね」
「それは異性としてという意味ですか?」
「うーん、どうでしょう。年上で、…魔術隊全体の統括をしていると認識はしていて…、だからといって今までは感情が動いて何か行動しようとか感じたことは一切無く、そのあたりはちょっと自分でもわからないというか」
実はスーランも望んだ割にはこれといった何某かの強い感情があるわけではないしまとめると分からなかったりする。元々感情がどちらかというと動かない方で、精製や治療魔術に興味はあるが、それ以外は基本どうでもいいという偏った思考だ。
そして人へ思う感情。
恋愛感情のような焦がれるという経験は皆無であり、初めて性交した相手も確か年上の誰かだという記憶しか既になく、他もその程度の認識だ。
唯一わかっているのはそういうことをした相手が全て年上だということだけはわかっているので年上好きではあるのだろう。そういう意味ではバウデンは当てはまっているのだが。
「それはバウデン個人じゃないと駄目ってこと?年上っていうならギュスターもそうだけどその範囲になるの?」
そう聞かれ、スーランは無表情の三白眼ではあるが美しいと言われているギュスターをちらっと見て、直ぐに戻す。
「ないですね」
「無論こちらもお断りですが」
「…えー、あとは何だ…体外魔力放出の多さとか?」
「ああ、それはあると思います。なんせたっぷり濃そうなのを貰える気はしますよね。体液から変換した魔力―――」
「黙りなさい」
「ド直球できたなぁ」
「でもそれだけなら別に総帥でなくてもそこそこいるかなって話なんですけど、それと婚姻を併せて前提と考えるなら何故か彼が良いと思ってます」
国家権力上位の二人が顔を見合わせてまたこちらに向き直る。
「何か胸がどきどきするような逸る気持ちとかになることはないの?」
そう尋ねられ、スーランはバウデンを頭に浮かべ自分の胸に手を当ててみるが鼓動は通常通りである。
「そうじゃないみたいですね」
「そのような感情が無いのにバウデンを望むのですか?」
ギュスターの言う通りだ。
スーランは再度胸に手を当て首を傾げながらバウデンではなく他にいる年上の男性を思い浮かべるが鼓動は変わらず、ならばやはりバウデンが良いという結論に戻ってきてしまう。
「そうですね。よく分かりませんけど婚姻は総帥としたいと何故か思いますね。何故でしょう」
「こちらがよく分かりません…」
ギュスターは溜息を吐きながら額に手を当てる。
「まあまあ、ギュスター。スーランは元々その辺の感情が希薄だから。たださ、スーラン」
ガブリアルノがスーランを呼ぶ。
「褒賞としてバウデンを望むことはわかった。打診はしてみるけど相手はスーランと同じで人だから、拒否される場合も当然あるよ?」
「それは勿論。何としてでも言い負かしてみせます」
「いや、そうでなく…というか、ずっとではなく期間限定だって言っていたけどその理由は?」
当然そこに辿り着くだろう。『期間限定』の婚姻希望なのだ。
今までのスーランならば、こんな煩わしい手順を踏んだ行動はまず起こさない。
何より面倒だからだ。
それでも―――――――――――――
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