余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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バウデン 7





昼を少し過ぎ、バウデンは食堂へ向かおうとするが、いつも共に来るテゼル珍しくが居ない。そのまま食堂に向かうと何故かテゼルとスーランが共に奥のテーブル席に座っていた。

そのことが無性に面白くなく、テゼルがテレサのことを想いスーランを厭っているのは流石に気づいていたので、足早に向かうとスーランは適当に流そうとする。

バウデンはそれが二人の秘め事に見えてしまい、胸の中が凝ったような不快な気持ちになった。

バウデンが納得しないことは分かっていたようで、話を変えてきたスーランは髪を刈って良いかとまるで草刈りのような言い回しに呆れながらも、見上げるスーランの顔を見て少し胸の淀みが薄まり、ドリス達が綺麗に保っている髪の毛先を掴んだ。

スーランから友人が作る髪の香油を唯一ずっと使っていると聞いていた。

琥珀色の髪はいつも艶があり滑らかで甘くも爽やかな香りが彼女にぴったりだと、バウデンは不意にこの髪に顔を埋めて寝られたらと思ってしまう。

それにスーランのゆるりとうねる長い髪がバウデンは嫌いではない。スーランが情事に掻き上げる仕草やバウデンの上で腰を動かしながら乱れる髪が恐ろしく淫らで美しいのだ。寝台に広がる琥珀色を見ながら性交するのも一興である。

バウデンは毛先を整える程度だと一貫し、がっかりしながら去ろうとしたスーランから殆ど残っていたランチプレートを奪った。


「テゼル。お前も昼はまだだろう。持って来い」
「…総帥は、」
「これで良い。パンだけ追加で持ってきてくれ」
「わかりました」


バツの悪そうな顔をしたテゼルが離れ、バウデンはスーランの残したランチプレートを平らげていった。


「何か言いたいことあるなら私に直接言え」
「っ!」


食後のコーヒーを飲みながらバウデンは切り出した。


「…総帥には、…何も」
「じゃあスーランに言っていた内容を全てそのまま聞かせろ」
「…」


テゼルは下を向いたまま黙っている。


「スーランがお前個人に何か言ったのか」
「…いえ。―――ただ、総帥は…テレサを…」
「テレサが望んでいたことを前に話したな」
「…はい」
「彼女は屋敷の者にも同じことを言っていたそうだ」
「…」
「私はそれでもテレサに操を立てないといけないのか」
「っ!」


テゼルは何も答えない。
前から思ってはいた。キリウからも何度かテゼルがバウデンを神格化していると聞いたことがある。

憧れる相手がいて仕事などに良い影響を与えるならと特に何も言わなかったが、スーランに矛先を向けるのは我慢ならない。


スーランを悪く言われるのは許し難い。


会話中にバウデンが焦ると楽しそうな顔をするスーラン。
手を引っ張って起こしてという面倒臭がりのスーラン。
膝枕の上で堂々と涎を垂らすスーラン。
抱っこするとすぐに首に手を回し肩に頭を乗せるスーラン。
隙を狙っていつもの動きは偽物かと思うくらい素早くバウデンの雄を咥えに来るスーラン。


普通の女性…が良くわからないが少なくともバウデンの想像からかけ離れたスーランの行動は、驚き、焦り、困り、呆れはしても、不思議と嫌ではない自分が居る。


何なら楽しいとさえ感じている。


その言葉が脳裏にすっと抵抗なく感じたことにバウデンは思っているよりもスーランとの生活を楽しんでいると改めて認識した。


「私は思ったよりスーランとの生活が楽しい」
「!」
「キリウや屋敷の者も率先して世話を買って出るくらいだ。お前が思うほど無礼でもない。今後は一切口を出すな」


それだけ言ってバウデンはトレイを持って去った。


この頃にはバウデンにもガブリアルノがスーランを気に入っていた理由、キリウが慕う理由、寮の者や屋敷の者が世話を焼きたがる理由が理解できるようになってきていた。

バウデンも抱っこをしたりと、スーランが甘える内容が何とも可愛いものばかりで、仕舞いには自分が面倒みてやらないとという気持ちにさせられてしまう。

更にはキリウや周りから言われるバウデンだけに甘える仕草があると言われ、そのことに想像以上に心が満たされた。

スーランの表情や行動を一番変えられるのは自分だと。
同時に自分の表情や行動もスーランだけに違うのだということをキリウ始め屋敷の者は敢えて黙って空気を読み口を閉ざしていたことを本人は知らない。





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