余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

文字の大きさ
96 / 110

番外編:使用人は見た!公爵家夫妻の情事と癒しの現場【限定婚姻編】3






「抱っこ」


過去公爵家当主のバウデンに一端の大人でこんな台詞を言えた者は当然一人も居ない。

嫡男のキリウですら七歳を超える頃にはもうしっかりと公爵家後継者として弁えており自分がどう見られるのかどう行動すればかを理解していた。


「抱っこ」


だが期間限定婚姻で公爵家に住んでいる齡二十七歳のスーランにはその常識というものが一切当てはまらない。

先日庭で居眠りをしていたスーランをバウデンが抱っこしてあげてからというものの、味をしめたのか眠くなった時、かったるい時に公爵家当主を移動手段に使うという物凄い行動を悪気無く堂々と実行する。


「バウデンさん。もう動けなくなりました。抱っこ」
「お前な…どうしてそこで力尽きる」


その日は夕食の後、とてんとてんといつもより緩慢な動きで戻ろうとしていたスーランが二階に上がる階段の数段目で力尽きたように座っていた。


「思ったより食事のボリュームというかあとからお腹に溜まったのでしょうか。もう歩けません。そしてお腹が満たされれば眠くなります」
「…お前なぁ」

 
肩を落としながらも、バウデンは少し屈み軽々とスーランを抱き上げる。スーランはすぐに首元に手を回しバウデンの肩にこてんと頭を乗っけて「頭使うと重たくなるんですよねー」と本日休みだったのにも関わらずしれっと宣っていた。

その後案の定スーランを部屋に連れて行ったバウデンがすぐに出てこなかったので、食後の運動云々で丸め込まれて捕食されてしまったのだろう。

スーランの行動は最早わざとなのか通常なのか分からない。

だが一刻後にやれやれという顔で出てくる当主の表情はすっきりしていて、機嫌も悪くないのだからそれなら良いのかを使用人一同は思わざるを得ない。



またある日には応接室のソファでいつの間にか眠ってしまったスーラン。

イーガンやグェンが起こしても寝返りは打っても一向に起きなかったのに、帰宅後のバウデンが肩を諌めながら声をかけるとスーランは手を伸ばし「お帰りなさーい。バウデンさん抱っこ」と宣う。

そして誰もがまたもや主が捕食されてしまうのかと思っていたが、何故かすぐにバウデンが降りてきたのでイーガンは片眉を上げた。


「おや。すぐに食事でよろしいでしょうか?」
「ああ」
「スーラン様は?」
「部屋で寝ている」
「珍しいこともありますね」


そんな日もあるのかとグェンが呟くと「…私の部屋で寝ている」と補足した返しを聞き、二人して「…ああ、なるほど」と納得してしまった。

だよな、と。

流石に遅くに帰ってきたバウデンに対しての最低限の配慮はあるのだと。

そんな我が主は溜息を吐きながらも食事をいつもより少し速いペースで食べているのをイーガンとグェンは何となしに顔を見合わせて厳かに頷いた。


******************


ボーグは寒さが本番になる前にある程度一通りの植物の剪定を終えた。これで最低限の栄養分で植物達は冬を越せるだろう。

ずっと屈みながら仕事をしていたので、ゆっくり腰を上げぐっと逸らす。陽が少し傾き始めていたので、道具を仕舞い手を洗って屋敷に戻ろうとした時のことだ。


(…おやおや)


栽培している薬草の区画の近くで敷物の上で厚めのブランケットを被ってスーランがいつものように昼寝をしていた。

そしてそこには早めに仕事から戻ったらしいバウデン。

陽を遮らない位置に立ち声をかけているようだがスーランが起きる気配は無い。

そのまま立ち去るかと思いきや、バウデンがその場にしゃがみスーランの解けた琥珀色の髪を一房摘みくるくると指に巻き付け、それを繰り返している。

バウデンは元々興味がないこと、時間を無駄にしない為余計なことに時間を割くことはしないイメージだ。

ボーグは気づかれないように屋敷に沿って静かに玄関から入ると扉付近にイーガンとグェンが居た。


「ボーグ。剪定の方は?」
「大体終わりました。明日もう一度確認して今年はもう問題ないと思いますよ」
「お疲れ様です」


グェンから労いの言葉とタオルをもらい、イーガンは一つ頷き玄関の近くにある小窓から外を覗いている。


「旦那様は基本無駄な時間を過ごされませんよねぇ」
「そうですね」
「今の旦那様にあの時間は無駄ではないんでしょうねぇ」
「…そうかもしれません」
「今日はスーラン様がなかなか起きませんね」


そう言いながら外を見つめ続けているイーガンの目は優しい。グェンも面白そうに小窓から覗いている。

バウデンが幼い頃からずっと共にいるイーガンだ。

バウデンの人となりを誰よりも知り、イーガンの表情が何を物語っているのか代々ここで庭師をしているボーグにも何となく理解できる。


「我が主は今まではあまりに…公爵当主として、統括総帥としての役割だけで邁進されていた。――――今ようやく自分の為にと、…最近感じるようになりました」
「ですね。スーラン様に振り回されながらも楽しそうに見えます」
「はは!確かに」


笑いながらボーグも小窓から外を見る。

ようやく起きたらしいスーランはまだ眠いらしくバウデンに背を向けているのをバウデンがスーランの正面でわざと陽を塞ぐようにしゃがんだ。

そしてスーランが両手を差し出し、がくりと肩を落としたバウデンが軽々とスーランを抱き上げている場面に何故か三人ともほっこりする。

そしてイーガンとグェンは屋敷に向かう主を迎える準備に入り、ボーグはひと風呂浴びる為に部屋に戻った。





あなたにおすすめの小説

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。