大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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声を出させる方法 1

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翌朝起きると、当然のことだがフェリウスはもう居なかった。それでもイリエが寝付くまでいてくれたのだろう。喉は昨日よりも痛みは治まり、倦怠感は少し残っているが熱は微熱程度まで下がったようだ。

かなり汗をかいていたので、イリエはシャワーを浴びようと浴室に向かう途中、テーブルの前に見知らぬ小さな紙袋が置いてあることに気づく。

袋のロゴマークを見ると王都でも有名な菓子店のものだった。


「っ、お菓子…だ。買ってきてくれた…」


昨夜訪れた時にはこの紙袋は無かった。恐らく他に買ってきてくれたものと同じ大きな袋に入っていたのかもしれない。

イリエは可愛い桃色の紙袋から小さな紙箱を取り出す。紙箱は紙袋よりも濃い桃色で紅色のリボンが巻かれている。するするとリボンを解いてからぱかりと箱を開けると、そこには個包装された一口サイズのガレットが入っていた。


「嬉しい…」


イリエはほうっと溜息を吐きながら笑みを零す。フェリウスのお薦めとお願いしたので、きっとガレットが好きなのだろう。


「美味しそう。いつか、作れるようになると良いなぁ」


イリエは箱の裏を見る。賞味期限は十日後だ。


「一、二、…八個。食べきるまで十日しかないのかぁ」


箱は残るがフェリウスが贈ってくれた菓子はたった十日しか保たないことにイリエはとても悲しく感じながら箱を閉め浴室に向かった。

汗を流しさっぱりしたイリエは冷蔵庫を開けて果実水を飲んだ。昨夜フェリウスが買ってきてくれたプリンを出し、「いただきます」と声をかけて有り難くいただいた。

薬を飲んでから、イリエはまたテーブルに置いてある箱が入った紙袋に目を向ける。


「…飾っておいたら気持ち悪く思われるよね」


イリエは一つだけガレットを取り出して、残りが入った紙袋を部屋の深めの引き出しの一つに仕舞った。

まだ食欲は無いが、小さな菓子なら食べられそうだ。イリエはソファに腰掛けてピリッと包装を破ると、芳ばしいバターの香りがふわりと鼻腔を擽った。

さくりと一口齧ると口の中に芳醇なバターと甘みが広がる。バターの塩気がアクセントでとても美味しい。


「…あと七回、か」


あと七回で終わってしまうことを残念に思いながらイリエはちょびちょびと味わいながらガレットを堪能した。


寝台に座ったイリエは手前…フェリウスが横になっていた場所に触れた。さりさりとシーツを撫で、イリエはそこに横になり顔を埋めた。すうっと息を吸うとフェリウスが使っているティーツリーでなくイリエが使っている石鹸のフルーティーな桃の香りしかせず落胆する。

それでもここにフェリウスが居たのだ。勿論今までも彼と何度もこの寝台で性交しているのだが、終わった後恋人のように二人で寝そべるわけではないのだ。


「変態だわ…私」


フェリウスの匂いを追うとか知られたら一瞬で捨てられそうだ。それでも今だけはここから離れたくなかった。不意にイリエは石鹸の香りがこんなに持続するものかと疑問に思った。シャワーと浴びた後にここには来ていないので、昨日帰宅した後に浴びた時の香りということになる。イリエは首を捻ったが、他に要因が見つからなかったのでまあいいやとその場でうとうとし始めた。



翌日イリエは復活し、ダンジとマリーにお礼を言ってフルパワーで働いた。いつもの常連さんや騎士隊の人達からも心配していたと口々に言われ、何だかこそばゆかった。

それから二日後、フェリウス達が訪れた。イリエは真っ先にフェリウスにお礼を述べたかったのだが、それはできないのでいつも通りの接客モードで迎えた。


「お仕事お疲れ様です。ご注文はお決まりですか?」
「僕はAにしようかな」
「C」
「AとCですね。かしこまりました」
「イリエちゃん体調悪かったんだって?」


イアンが首を傾げながら話しかけてきた。その表情は心配しているように見えるが、石鹸屋での出来事は忘れていない。きっと策士系なのだとイリエは判断し、もし本当にそう思ってくれているなら申し訳ないが、常時警戒はさせてもらう。


「はい。体調管理不足で情けない限りです。改めて気をつけなければと思いました」
「気をつけても罹る時は罹るよ。あまりそっちばかりに気を取られていると人生楽しくなくなっちゃうからね」
「ふふ、そうですね。程々にします。少しお待ち下さい」


ぺこりと頭を下げてイリエは厨房に注文をかける。
何か含みを持った言葉でもかけてくるかと思ったが、肩透かしを食らった気分だ。それでもフェリウス本人から聞くまでは継続させておこう。

最近はマリーも少しずつイリエが居る時でも食堂に顔を出すようになっていて、ピーク時でもそこまで頭と体をフル回転する頻度も減っていた。彼女の立ち回りはイリエにはまだまだ全然敵わないが、阿吽の呼吸のようにとてもやりやすいのでイリエの疲労度も溜まりにくくなっていた。

フェリウス達にランチプレートを提供し、来たお客から風邪の話をまた心配され、どれだけ広がっているんだとちょっと恥ずかしくなる。


「ごちそうさまー」


イアンが手をひらひらと降るのを目にし、イリエは小走りで会計場所に向かう。

お釣りをもらったイアンが先に出てフェリウスがお金をあめ玉の包み紙を渡して来たので、イリエはこれでお礼も言えて会えることも確定したのだと思わず頬が綻んでしまった。

はっと我に返り、フェリウスを見ると少し目を丸くして固まっていた。イリエはさっと血の気が引き、すぐに表情を戻していつも通りの接客をして送り出した。


(あまりに嬉し過ぎたからって気を抜きすぎ。気をつけなきゃ)


自分の小さなミスがフェリウスの大きな何かに変わることは避けたい。イリエは頬を軽くパチンと叩き、仕事に戻っていった。





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