大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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セフレ離れの先には 3

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「…そしてここは侯爵邸…ご挨拶もせず、酩酊してぐーすか寝て運ばれた…と。何たる失態…」


フェリウスのもう一回攻撃に屈したイリエは寝台で蹲りながら羞恥に耐えていたが、ふとここが何処かを思い出し今度は虚無の表情になる。そんなイリエをフェリウスはご満悦な様子で抱き締めながら頭に鼻を擦りつけていた。


「父はあの時の菓子店の子だと大喜びしていたし、母はひたすら小さくて愛でたいと煩かった。屋敷の連中は俺が初めて連れてきた相手ってことで何故か泣いている奴もいたな。気にすることない」


いや、気にする。普通は大いに気にするのだ。気にしなければいけない。


「ならこれから挨拶に行く?朝食時だし。イリエの親友から荷物を預かっているから着替えるか」
「…はい、是非とも」


流石にこのままでいる訳にはいかない。渡された荷物の中の服に着替えている間にフェリウスからララのその後も話してくれた。ジェフが迎えに行っているはずだと聞いて安堵する。

不意にイリエは着替え終わった今の格好を改めて見た。


「あの…私、この格好で大丈夫でしょうか。貴族の皆さんに合うような服を持っていなくて…」
「両親は元々貴族の華美な服が好きじゃないし、俺も同じ。公式の場だけは仕方なく着るけど、母を見たら驚くんじゃないかな」
「驚く?」
「ある意味な。行こう」


そう言ってフェリウスが手を差し出す。

もうこの大好きな人の手を迷わず取ってもいいのだ。

イリエは大好きな節くれだった長い指の手を握った。



緊張の面持ちで扉を開け外に出たところで、ちょうど二人の男女がこちらに歩いてくるところが目に入る。

壮年の男性は長身で黒と灰色の髪が以前会った時のように後ろに撫でつけておらず、前に流れていて若々しさを感じる。そしてダークグレーの癖のない肩までのボブカットに銀色の瞳の女性…なのだが、女性にしては長身で貴族のようなドレスはでなく、フリルブラウスにパンツワンピースを履いていて男装麗人のように美しい。

もしかしなくても、フェリウスのご両親に違いない。
イリエは息を整えて挨拶をしようと気合を入れる―――前に、女性…フェリウスの母親が駆け足にやってきて首を傾げながら小柄なイリエに目線を合わせた。


「イリエちゃんだね?」
「…は、はい。あの、ちゃんとしたご挨拶もせず失礼極まりな――――ひゃっ」
「っ、おい!」


最後まで挨拶出来なかったのは、突然フェリウスの母親がイリエの腰を持ち上げて抱きかかえたからだ。男装麗人のような人とはいえ、女性に抱っこされイリエは固まった。


「やあ、私はレリエル。そこの愚息の母親だ。イリエちゃんに会いたくて我慢出来ずに朝食を誘いにきてしまった」
「おい」
「レリィ、私も抱っこしたい」
「おい」
「カルロ、暫し待て。ようやく昨夜会えたのにフェリウスがさっさと部屋に連れて行ったことがこの上なく許し難くてな」
「何でだよ」
「酔っ払いだぞ。可愛いさが加算されるに決まっているだろう、戯け者が」
「確かにふにょんとしていたイリエさん可愛かったよね。レリィ、そろそろ代わってくれるかい?」
「ふ、ふにょん…」


一応成人女性として抱き上げられていることもだが、自分の記憶がない酔っ払った状況を公開処刑されるのもまた居た堪れない。


「まだだと言うに。ああ、なんて軽いんだろう。ちゃんと食べているのか?よし、私が食べさせてあげよう」
「じゃあ、私も一緒で挟んでやりたいな」
「仕方ないそこは譲歩してやろう」
「おい、いい加減に―――、待てって!」


フェリウスが止めようとすると、レリエルはさっと抱いたイリエごと華麗に踵を返しフェリウスの父カルロと共に階下に向かって歩いて行く。


「初いな。年はいくつだ?」
「二十一になりました」
「同じ人族なのにこんなに小さくて可愛らしいのか!」
「あの、ご挨拶をまだまともにしてなくて、一度降ろしていただけると―――」
「知ってるぞ。カルロから聞いている」
「うん。私が教えたね。はいはい、レリィ。いい加減代わってくれ」


階下に降りる手前で後ろからひょいっと脇を持たれ、今度は軽々とカルロの片腕に乗せられてしまい、イリエはきょとんとしてしまう。

カルロはまるで赤ん坊を抱いたようなほろりと優しい微笑みで「あの菓子店以来だね」といってうんうんと頷いているのを、再度フェリウスが追いついた。


「おい、待てって!」
「カルロ何をする。まだ私は抱っこしたい」
「階段は危ないし、レリィとイリエさんを怪我させるわけにはいかないからね」
「イリエを守りながらの受け身は取れる。侮るな」
「呼び捨て!」
「うん。受け身が出来るとかでなくそれ以前の問題だからね」


フェリウスが突っ込みを入れてくるが、一人息子に対しおざなりな態度のご両親はイリエに話し続けながらあれよあれよという間に食堂に連れて行ってしまった。

見も知らない人族の小娘が侯爵家の主に抱っこされているという由々しき事態であるはずなのに、モノクルをかけた執事らしき人物始め、使用人やメイドも何故か驚く素振りすらなく、どうぞどうぞと席に誘導されることは貴族では普通なのだろうか。異常ではないのだろうか。


食堂内は香ばしい匂いに包まれ既に朝食が並べられ用意されており、ある意味賑やかな食事が始まった。





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