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大好きな人とお揃いの痕 終
しおりを挟む翌朝。
イリエは生まれて初めて、足腰が立たないという経験をすることになった。
二度目の性交が終わるまでは何とか記憶にはあるが、そこから先は定かではない。
目覚めると身体中が重く気怠いだけでなく、腰から下が震えてしまい力が殆ど入らない事態に陥り、何なら生まれたての子鹿より酷い。起き上がれず寝台で弱々しくのたうち回っているとカチャリと浴室の扉が開き、何故かイリエと正反対の状態で艶々と美しいオーラを放つフェリウスが少し寝乱れた姿で戻ってきた。
「ん、起き上がれないね」
「フェリウス、さん…腰が…」
「うん。まあわかってやっちゃったけど。俺が全部やるからね」
そこからイリエはまるで生まれたての赤ん坊の如く全てをフェリウスに任せることになってしまった。
何度か自分でと懇願してみるが、どうみても嬉々として喜んで動いているフェリウスを見ると、先日リグリアーノから聞いた世話を全て焼きたがると言っていたことがあながち嘘ではないのかもと思わざるを得ない。
腰の不安定さから片腕抱っこではなく、お姫様抱っこにて浴室に連れて行かれ共に湯に入り、全身を洗われ、少し悪戯を施された。イリエが快感と湯で茹だる手前で上がり、体と髪を丁寧に拭われ、保湿剤で体中ケアをされた。項付近を殊更集中して。
いつの間にか新しく変えられていたシーツの寝台で座位すら保てない赤ちゃんイリエは口移しで果実水を与えられ、ふわふわのミルク蒸しパンや冷涼のデザートも寝たままの体勢で実行するようだ。フェリウスの蕩けるような表情で給餌する姿勢に、最早虚無の眼差しでイリエは雛鳥の如く口を開けた。
起きた時は既に昼過ぎで、食事後もまあ長い長い前戯を経てフェリウスにどろどろに溶かされ、夜も同じような流れになり、辛うじて起きている時でも殆どが寝台で怠惰にうとうとしてしまい、都度フェリウスが寝台に入ってイリエを抱き締めてくれる。
頭に顔を埋めながらすりすりしてくるフェリウスは大型の猛獣のようだ。
そう言えば原祖は猛獣だった。
再度イリエが起き上がれるようになり、ずっと気になっていた紋印を見たいとお願いすると、抱っこで洗面台まで連れて行ってくれた。
夜着を開けさせ鏡を背に手鏡を渡されて見ると、イリエの項から左下に豹柄の模様と黒百合のような花が混ざりあう様の小さな拳大の美しい紋印が顕現していた。
「…綺麗、です」
「紋印の神秘だね」
「あの、」
「うん?」
「紋印の周り…」
紋印の周辺。
肩から肩甲骨にかけての夥しい鬱血痕の多さにイリエは驚いていた。
「はしゃぎ過ぎてつけ過ぎた」
「…お揃いみたいです」
イリエの言葉ニフェリウスが目を丸くする。
「フェリウスさんの肩の模様とお揃いみたいで、嬉しいです」
惚けたように手鏡越しに自分の背中を見ながら微笑むイリエに、フェリウスは堪らずそのまま寝台に直行し愛でてしまったことは仕方のないことだったと後に主張した。
その翌日にイリエに会いたくて突入してきたレリエルは、項周辺の鬱血痕を見て「戯け者が!こんなに鬱血痕を付けおって!そんな所だけ親子で似るな!」と物申すのを、フェリウスはメイドが運んできたコーヒーを飲みながらしれっと流していた。
母子がやいのやいの言っている中、再び寝台で赤ちゃん状態だったイリエはレリエルも同じ状況になったことがあるのかと何だか心から安心した。
イリエがフェリウスの部屋から出られない日は三日間続いた。
フェリウスは蜜月有休を一週間しっかりと取得していて、彼曰く他の種族よりは蜜月期がまだ短い方だと宣った。
それを聞いたイリエは日数ではないのだと断固として抗議したい。
フェリウスとの性交は一度がとても濃厚で長いのだ。甘くも苦しく悶える時間の中、途中で気持ち良すぎてひんひん泣きそうになったことは数知れず。それなのにフェリウスはそんなイリエの姿を恍惚とした表情で見ているのだからもうお手上げだった。
そして四日目の夜。
何とフェリウスが動けないイリエの為にララとジェフを侯爵家の夕食に招いてくれたのだ。食堂の夫妻も声をかけたが、後日二人で食べに来てくれと言われ丁重に辞退したらしい。
抱き上げられた状態で再会しイリエを見たララは胡乱げにフェリウスを見るが彼はどこ吹く風だ。
夕食を共にした侯爵夫妻にララ達はいつも通りで何も態度が変わらない。そんな二人に対して侯爵夫妻の方も変わらず楽しく会話しているのを見て器が大きいと感じざるを得ない。
ジェフの気持ち良い食べっぷりにカルロは賞賛し、機嫌良く当たり年の葡萄酒があるから開けようと言った時の彼の返しは「あざっす」のみだった。大物だ。
それらの様子に驚きを示していると、フェリウスからララ達は騎士隊でも忖度のない人物で上官からも覚えも良く有能な人材なのだとか。詳しい内情を知らないイリエは流石二人だと感心するしかない。
そして間違いなく波長が合うと思ったのがレリエルとララだった。
二人は何やら良く分からないがイリエ守り隊を結束したらしい。
「ララとやら。お前の考えは私の思考に近いものがある。共にイリエを脅威から守ろう」
「マジ助かります。お屋敷内は流石に私の目が届かないので。外はお任せを」
イリエとしてはこれでも一般成人女性なのだが、同年代なのにお姉さん的存在のララと、その辺の男性よりも格好良いレリエルに構ってもらえるのは恥ずかしくも嬉しい気持ちもあり、好きにしてもらおうと思う。
帰り際にララとレリエルから今夜だけは酷使するなときつく言われていたフェリウスは、不機嫌になるかと思ったが、本人的にも流石にやり過ぎたと思っていたらしい。ずっとくっつきながらも反省しているようだった。
イリエとしては自分は確かにフェリウスと違って小柄で体力も無い。それでもフェリウスと肌を合わせて気持ち良くなりたいと伝えると、両手で顔を覆ってしまったフェリウスだったが耳を赤くしながらも、濃密さを少しだけ減らした緩やかな性交を長時間してくれた。やっぱり長時間だった。
何とか持ち堪えたイリエに、二人で湯を浴びた後楽しみにしていた黒豹になってくれるというご褒美が待っていた。
フェリウスから「言っていることは分かるけど言葉は話せないよ」と言われ、体内から湧き出るような煌めく魔力に纏われフェリウスの身体がぐにゃんと変化して漆黒の艷やかな毛並みの黒豹に変化した。
靭やかな体躯と銀色の美しい瞳。毛並みをよく見ると豹と同じようなレオパード柄の模様が見える。細長い尻尾は自在に動き、寝台で魅了されていたイリエの後ろに飛び乗ってすぐ傍に黒豹フェリウスが座った。
フェリウスとしては恐れられるかもと一抹の不安があったが、あまりにキラキラと目を輝かせて喜ぶイリエにほっとする。イリエは素晴らしい毛並みに触れさせてもらいながら、顔から耳、首周りと順に撫でていく。
「黒豹は猫科になるのですか?」
「グルッ」
もうその獣返事だけでも悶えそうになったイリエは、獣化も出来る愛しの旦那様にご奉仕を続ける。
「じゃあ顎の下や額とか首周りが気持ちいいのです?」
「クルル…」
イリエはのたうち回って寝台をばんばん叩きたいくらいに大好きな人の獣化姿に萌えまくる。
存分にもふもふ感を堪能していると、あまりに気持ちよかったのか、フェリウスは伏せの状態からしどけなく横たわり、ゴロゴロ喉を鳴らしながら最終的にはちょい腹見せ姿まで披露している。しかし尻尾だけは常にイリエに巻きついているという執着ぶりだ。
「…鼻血出そう」
イリエはフェリウスとの猛烈な萌え癒され時間に思わず鼻元を押さえた。
撫で回されたフェリウスはピスピスと鼻を鳴らしながら眠ってしまったらしい。その姿に微笑みながらイリエも傍に寝転ぶと、尻尾がくるんとイリエの腰に巻き付いた。
毛皮から伝わる熱はとても温かい。とても幸せだ。ゆっくりと撫でながら、もふもふを存分に堪能させてもらいイリエもうとうとしながら温かい毛皮に包まれてそのまま眠りについた。
朝起きるとフェリウスは人型に戻っていたが、何故かご機嫌が麗しくない。
何でも満面の笑みで撫でまくっていたイリエを見て獣化した自分に嫉妬して拗ねるという、あまりに可愛過ぎる萌え行動を発動させていたのだ。
怜悧で無表情が通常仕様だったフェリウスの不貞腐れたような顔に、イリエは我慢など出来ずに大好きな人の胸に飛び込みぎゅっと抱き締めてそのまま二度寝に誘う。
何度寝て起きてもフェリウスが傍に居てくれる至福を噛み締め、イリエは愛しの伴侶の温もりを分けてもらいながら微睡みに沈んでいった。
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