大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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番外編:坊ちゃま黒豹と無自覚子栗鼠のとある一日 4

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「あーやっと終わった。総帥の暗器は特に丁重に扱わないと後が怖いから緊張したー」
「その割には鼻歌歌っていたな」
「うん。緊張しないようにねー」


フェリウスとイアンは魔術隊施設一番奥にある総帥専用の個室から出て長い廊下を歩きながら話す。


「もう少しでイリエちゃんくるの?」
「ああ。門の前で待てと言ってある」
「え?皆に紹介とかしないの?」
「する必要が無い」
「えー…」


イアンは親友な相方の相変わらずの重苦しい執着を垣間見てドン引きする。


「別にちょっと自慢するくらいな感じで会わせても良いのになぁ」
「お前が余計な情報をくれたからな」
「いやいや、フェリウスが無理矢理聞き出したんでしょ」


以前イアン経由で聞いたと、周りから騎士隊始め食堂に通っていた者、石鹸屋で見かけた者などイリエ狙いがいたという不愉快な情報が流れてきて問い詰めた。

イアンとしては既に二人は番縁であり必要な情報ではないと判断し話していなかっただけなのだが、完全なる能面なフェリウスによって全部吐かされたのだ。


「イリエちゃんはフェリウスしか見ていないじゃない」
「…」


勿論イリエから伝わる想いは十分理解してるし微塵も疑ってはいない。要はフェリウス自身が他の雄と話したり関わったりすることそのものが全て許し難いだけなのだ。

今までにそういう感情が動いたことが無いフェリウスは、どう制御したら良いかもわからず、そもそもイリエに関してはこのままで良いとすら思っている。


ふと先を見ると廊下の突き当たり正面にある暗部部隊室の扉が全開に開いており、そこからわらわらと同僚達が出てきた。何故かその手には同じ紙袋を持って。

廊下から休憩場所の庭に出られる通路を目指して歩いていたのはバルトガだ。こちらに気づきにこりと微笑む。その笑みがいつも以上に胡散臭い。


「フェリウス、イアン。お疲れ様です。お先にいただいてますよ」
「?」
「持ってるの何ー?」
「おや。知らされていなかったのですか?フェリウスの伴侶が作ってくれたサンドイッチです」
「「は?」」


カルロから確認してる筈のバルトガは敢えて知らない振りをしながら美しい笑みを継続させる。


「まるでちょっとした露店販売のようでした。見事な手捌きで軽快に動いていてまるで子栗鼠のようだ。とても可愛らしい方ですね」
「…もしかして僕とフェリウスが指示された暗器のやつって…」


イアンが恐る恐るフェリウスを見るが、もうイアンもバルトガの声も彼には届いていない。

開け放たれた扉付近の人は減り、見えた部屋の奥からはイリエがまるで食堂のように手際良く動きながら差し入れを渡している風景が目に入る。

フェリウスの表情は身も凍るような冷酷で温度のない瞳―――と思ったら物凄い勢いで走り出して行った。


「やれやれ。来る情報を得ていた総帥が何もしないわけがなかったかー…」
「そんな裏があったのですね」
「よく言うよ。知っていた癖に。…あーあ、僕はイリエちゃんから直接もらえないだろうなぁ」


イアンは溜息を吐きながら胡散臭そうなバルトガの笑みを見て苦笑した。




最後のメンバーにサンドイッチを渡したところで、部屋に突風が吹いたかのように戻ってきたフェリウスが目に入りイリエはパッと満面の笑みを―――返そうと思ったら体が宙に浮き上がった。

そして今いる場所はフェリウスの片腕の上だ。

あまりの一瞬の出来事に目を丸くしたイリエに対し、凍えるような視線をカルロとジュダに向けたフェリウスがいつもより数段低い声で呟いた。


「覚えとけ。この礼は必ず返す」
「うむ。妻と会ったら嫌なこと全部忘れちゃうから難しいかな」


悪びれないカルロの側ではジュダはこれ見よがしに慇懃無礼に一礼していた。

どうしてそんなに急いでいたのだろうとイリエは首を傾げながらもフェリウスに声をかけた。


「フェリウスさん?お疲れ様です。お仕事―――わっ」


言い終わらないうちにフェリウスはテーブルからおもむろにサンドイッチを掴み外に出て行く――のを見越していたジュダがさっと小さなバスケットを取り、連れ去られるイリエに渡した。流石侯爵随一の気遣いを誇るジュダである。

そしてフェリウスの行動を目の当たりにした隊員達は信じられない光景に唖然としていた。




中央に大きな噴水があり休憩場所として使われる庭。
一番奥まった人気のない場所のベンチに座っていたフェリウス…の上に座っているイリエはずっと腰をホールドされながらイリエの肩に顎を乗せたまま黙っている彼を暫く好きにさせていた。

少し不貞腐れているような感じを前面に出しているフェリウスすら愛おしく感じるイリエは、ゆったりとした口調で話しかけた。


「フェリウスさん。お腹空きませんか?もしかして自分の物がなくなると思ってサンドイッチを持ってきたのです?」
「…」


フェリウスはまだご機嫌が治らないのか、今度は頭に顔を埋め込んでいる。それすら可愛くてどうしようもないイリエは、持っていた小さなバスケットを持ち上げる。


「皆さんにはサンドイッチの差し入れを、フェリウスさんには特別仕様の差し入れを別に持ってきているんです」
「…特別?」


ぽそりと掠れた低音でフェリウスが反応を示す。


「はい。サンドイッチは三種類作ってそこから選んでもらいましたが、フェリウスさんのものは三種類全部と、フェリウスさんだけに作ったスープを保温カップに入れて持ってきたんです」
「俺にだけ?」
「フェリウスさんだけですよ」


ようやく顔を離しイリエを見るフェリウスの顔はちょっと悪さをして謝れない子供のような表情でイリエは悶えそうになる。

配っている時にカルロから「フェリウスがイリエちゃんを皆に合わせずに門前って言ったのは、他の人に愛しい伴侶を僅かにでも見せたくないし関わって欲しくないからなんだ。頭から爪先まで全て俺だけのって感じかな。若い頃の私にそっくりだ。連れ去られても許してあげて」と言われていた。もうそれは嬉し過ぎるし萌え要素でしかない。


「料理長さんにお願いして特別に作らせてもらいました。カルロ様には内緒ですよ」


そう言って人さし指に手を当てて微笑むとフェリウスの顔から力が抜け、やっと腰に回った手を緩めイリエの頬を指の背で撫でる。


「何のスープ?」
「ベーコンとほうれん草のクリームスープ、今回は特別に大きなマッシュルームも入ってます!」


フェリウスの片眉が僅かに下がり微笑む。イリエが大好きな表情だ。ごそごそとバスケットからフェリウス限定ランチを取り出す。


「持ってきたサンドイッチは私が食べるのでフェリウスさんはこちらをどうぞ」
「ん」


フェリウスはイリエを膝に乗せたまま、スープを飲み始めた。やはり下ろす気は無いのだと思いながらも少しばかり恥ずかしくはあるが食べ辛くなく彼が落ち着くならいいやと、イリエもフェリウスが掴んで持ってきた海老アボカドのサンドイッチをぱくりと食べる。


「美味い…本当にこれ好き」
「ふふ、それは良かったです。また料理長さんの邪魔にならない時に作らせてもらいますね」
「うん」


フェリウスはお腹が空いていたのか三種類のサンドイッチも「全部俺の好物。全部美味い」と言いながらあっという間に平らげてくれた。

フェリウスの少し拙くなる話し方はイリエだけに向けられるものだ。それがこの上なく嬉しくてついついにこにこしてしまう。


「…何?」
「幸せだなぁと思って」


すると、すっとフェリウスの顔が近づいてきてちゅっと口に軽く触れ、ぺろりと舐められる。


「っ」
「作ってくれてありがとう。でもイリエの口が一番食べたいんだよね」
「っ!」
「でも周りにイリエの感じる顔見せちゃうから我慢する」
「っ!!」


甘いとろりとした表情で首を傾げながら己の掠れた声音と顔の使い方を存分に理解している目の前の旦那様に、イリエはさっと鼻元に手を当てた。


「い、今はスープを!」
「うん。じゃあ夜にたっぷりね」


瞬く間に夜のアレの言質を取られたイリエである。

更にはフェリウスは当然気づいていたが、彼らの周りには己の技術を遠征レベルで発揮させ覗き見る者達がわらわら居たことをイリエだけが気づかなかった。

その後食べ終えたフェリウスはイリエを下ろすことなく、片腕に抱っこしたまま魔術隊施設から恐ろしい早さで立ち去り、それらを全て想定していたであろう馬車の前に佇む執事にバスケットを放り投げ、物ともせず受け取るジュダも流石である。


そのままの状態で二人は街へ向かった。
イリエは今日殆ど歩いていないなと思いながら。





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