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決め手は髪の香り 1
しおりを挟むこの日シュナは朝から香油作りに精を出していた。
この国に来てからずっと毎朝習慣で飲み続けている番避けの薬と避妊薬を飲み、ぶっ続けで精製をする。
番避けの薬を開発したスーランの意図を聞いたシュナは大いに賛成派であるし、シュナには絶対に番なんて要らないという確固たる気持ちがある。そして女性に優しい避妊薬も本当に有り難いことだった。
エリック専用の髪の香油の精製から始め、ある程度集中して作っているとあっという間に陽が傾いていた。
家に食べるものが殆ど無かったことに気づいたシュナは、買い物に行くついでに出来たてほやほやの香油をエリックに届けに行くことにした。
「こんにちはー」
「あら。夕方に来るなんて珍しい」
「今日は一日精製してたの。買い物がてら作りたての香油持ってきた」
シュナがそう言ってことりと二瓶の香油を渡す。
「助かるーもうすぐで無くなりそうだったから」
「間に合って良かった。調合内容はいつものシダーウッドメインでムスクも」
エリックは瓶の蓋を開けて香りを嗅ぎ、微笑んだ。
「これこれ。相変わらず良い物作るね。本当にこれ好き」
「ふふ。良かった」
シュナがエリックからお代をいただいた時、寂れたドアベルが鳴った。
「やあ。エリック。この前頼まれたことなんだけど―――」
声が耳に入ったシュナはヒュッと息を呑みそうになったが、何とか持ち堪える。
最近聞いた甘めの軽やかな低音。
「あら。イアン。もう分かったの?」
「あれくらいなら仕事の合間に余裕。―――っと、ごめん。お客がいたんだね」
そう言ってコツコツと靴を鳴らしてこちらに向かってくる。
シュナは気づかれないように一呼吸してからエリックを見た。
「じゃあ私はこれで。買い物しないと」
「わかった。シュナ、いつもありがとね」
「またね」
そう言って振り向くと、想像通りにそこにはイアンが立っていた。
今日の彼は仕事帰りらしく、ダークグレーの軍服を纏い肩まであるグラデーションがかった美しい髪は軽く後ろに結っていた。
シュナは目線を合わさずに「失礼します」とだけ軽くお辞儀をしながら横を通り過ぎ外へ出た。
そのまま後ろを振り向いて確認したいのを我慢しながら、買い物をする方面にひたすら歩いていく。
(エリックの所にはいつも午前中に行っていたから今まで会わなかっただけ?こんなに近くに居るなんて思わなかったな…)
シュナがリアだということを知られたくはない。
シュナとリアの容貌があまりに違うので大丈夫だとは思うが、今後夕方に行くのは控えようと今夜の夕食のメニューを考えながら店に入っていった。
*****************
「あ。シュナさんいらっしゃい!」
シュナはいつもの花屋に訪れていた。だいぶ慣れてきたポックの接客もかなり上達しているようだ。
「ポック、こんにちは。今日は何仕入れてる?」
「今日は切り花がメインだったんですけど、前にお願いされていたベルガモットとレモンを仕入れてますよ!」
「マジで!嬉しいなぁ。果物系はなかなか良い物がなくて。助かる!」
「いえいえ。丁度仕入先の隣りが果物専門の仕入れですからね、ついでです!」
「ありがとー!じゃあ、今日仕入れたのは…このクリスマスローズとアネモネかな?」
「当たりです!」
「この二種類もよろしく。アネモネの色はお薦めで」
「はい!毎度ありがとうございます!」
アネモネはシュナが大好きな花の一つだ。ポックは慣れた手つきで器用に動く。その表情はとてもきらきらしていて、本当に花が好きなんだなと花好きのシュナも嬉しくなった。
シュナの髪の香油は決まっていてラベンダーとベルガモットの組み合わせだ。
ラベンダーは多めに精製して瓶に保存してあるが、ベルガモットがそろそろ底を尽きそうだったので助かった。レモンも刺激は強いが、精製するのは香りだけなので意外に使い勝手が良い材料である。
シュナはほくほく気分で帰路に着き、薬屋隣の階段を上がろうとした時のことだった。
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