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条件変更 1
頭に小さな熱、そして優しく撫でてくれる感覚にシュナはほうっと溜息を吐く。いつも蹲っている筈の体は今日は何故かとても温かい。
瞼が上がると目の前には淡いクリーム色の夜着。それが一定のリズムで上下している。
その夜着にかかる桃色の毛先。そしてそれに連なる朱色の美しい髪。顔を上げるとそこには僅かに口を開いて気持ち良さそうに眠っているイアン。
そして彼の腕はシュナの腰に回りながら無意識のようにゆっくりと背中を擦っている。
その光景と現状にシュナは瞬きすらせず固まっていた。
(え…夢……見なかった…?)
昨夜飛び起きてイアンから飲み物を貰い、二人で横になり。
ほぼその体勢のままでシュナは眠っていた。その間に夢は見ていない。
こんなに爽快な目覚めはここ暫く無かった。
汗を掻かずに心臓が穏やかなことなんて無かった。
ゆっくりと瞼を上げることなんて無かった。
シュナの手は自分の胸にある。目の前にイアンがいるから蹲れなかったのだろうが、それが不快にもならなかった。
寧ろ目の前にいる存在に安堵している自分がいる。
もう一度ゆっくり見上げると、本当に気持ち良さそうに眠っている。もしこれが演技ならばシュナは彼にはずっと勝てないだろう。
それでも良いと思ってしまった。こんな穏やかな朝を迎えられたのだから。
シュナの心臓はとくとくと脈を打っている。
それは酸素を取り入れようとする激しい動きではないが、いつもより少しだけ早い。それは何故だろう。
でもこの心音が不快でなく、心地良く感じる。
飛び起きた時のように手先が冷えてなく温かい。
温かい。
「――――ん…」
イアンの鼻の抜けるような声と、同時に背中に回された腕がゆっくり上がり頭を軽く引き寄せられて頭部に熱があたる。
それはイアンの唇。
心臓の音がまた少し速くなる。
不快じゃないが甘苦しい心音。
その音が何に繋がるのかシュナには何も分からない。
恋をしたことなんてない。
どきどきしたことなんてない
する前に全ての芽を摘まれたからだ。
そして目の前にいる人物は。
シュナと同じ系統の人だ。
事情は知らないがシュナと同じ特定を作らない。
その事実に今度は心臓が嬉しくない速さで脈を打つ。
(…今日、だけ)
そう。
十年以上ぶりにこんなに穏やかな睡眠が摂れた。
それはイアンのおかげだ。
そしてそれは決して継続されるものではないこともわかっている。
シュナは頭部に感じる熱を享受しながらも、これが続くものではないことをしっかりと言い聞かせた。
たまたまこんな機会が訪れただけなのだと。
汚れたシュナへのちょっとしたご褒美。
シュナには似合わない幸せな空間だ。
それを考えるとまた心臓がしくしくと苦しくなる。
弁えないといけない。
シュナが胸で握っていた手をぐっと更に握りしめて無意識に自分を守るべく蹲る体勢になった。
すると腕が背中から少し離れたのを気づいたらしいイアンが「…ん…んー」と体をもぞもぞと動かして綺麗な橙色の瞳がシュナの前に現れた。
「…シュナ?」
「ん」
「見なかったみたいだね。夢」
「…うん」
起き抜けのイアンが瞳をとろんと下げて甘く微笑んだ。その笑みは壮絶に艶めかしくて綺麗で。
そして優しくて。
シュナの心臓がまたもやとくとくと速くなる。
「…久しぶりに見なかった。…ありがと」
「それは良かった。でも向かい合わせになっていてもシュナは少し丸まっていたけど。そのうち体を伸ばせて胸を守る手が僕の背中に回ると良いけどなー」
イアンがゆっくりとシュナの頬を包むように撫でてくれる。
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