38 / 140
香りが傍にあれば 1
(うーん。これは素材は良いんだけどちょっと香りが強い。…こっちは泡立ちが良いけど肌への影響も強そう。無香料のものにしようかな)
シュナは家の石鹸の残りが少なくなり、エリックのところへ香油を卸しに行った後に石鹸屋に訪れていた。
王都に石鹸屋はここ一店舗だけでシュナも良く来るのだが、香油を作っているからかこだわりが強くなりどうしてもドンピシャのものが見つからない。
でも石鹸は必要なので妥協して無香料の肌に強くない泡立ちの良い石鹸を籠に入れた。
洗髪用の石鹸は香油を使っているのでいつもの無香料をと移動すると、そこにはシュナよりも少し小柄な人族らしき女性の先客が居た。
「…え。売り切れ…?」
その女性はいつも買っているものが売り切れているだろうことにショックを受けているようだ。
シュナがちらりと石鹸が陳列していただろう空の籠を見ると、ティーツリーの石鹸と記されている。
その女性は他の選択がないらしくうんうん唸っているので、シュナがちょっと話しかけてみた。
「あの、失礼ですけど、もしかしてティーツリーの石鹸を買い求めてますか?」
話しかけられた相手…シュナから見ても小柄ではあるが、全体のパーツが小さいという感じで、とても可愛らしく素敵な女性が頷いた。
「あ、はい。そうなんです。いつもこのティーツリーを。洗体用はあるんですが洗髪用が少なくなってきたので買おうと思ったんですけど…」
ベージュ色の胸元までの真っ直ぐに綺麗な髪、浅緑色のぱっちりとした綺麗な瞳の彼女を見た瞬間、シュナは首を傾げた。
「あれ…もしかしてタルカル食堂で働いています?」
「はい!…あ、今は辞めましたが働いていました。お客様ですか?」
シュナはあまり外食をしないので、昼間のランチタイムには数回しか行ったことがなかったが、彼女のことは覚えていた。
小柄なのに大きなランチプレートを危なげなく運び、とても軽やかに動き回っている記憶だったのを覚えている。
「お客様…まではいかないかな。数回しか行ったことがなくて」
「一度でも来て下さったならお客様です。またそのうちのご来店お待ちしています!」
「…ふふ。もう辞めているのに営業?」
「はい!ちょっと今は他のことでタルカル食堂とは関わっているのでがっつり営業ですね」
はきはきと軽やかな声音で答える彼女の笑顔はとても可愛くて眩しいくらい。
シュナは話しかけた理由を思い出して続ける。
「あ、そうだ。それでティーツリーの石鹸なんですけど、次の入荷が…二週間後って書いていますね」
「そうなんです…家には他にもあるはあるんですけど」
しょぼんとした表情は本当にこの香りが好きで使っているのだなと香り好きなシュナからするととても好印象だ。
「…商売敵、にはならないよね。一時的なものだし…」
「え?」
「ああ、ごめんなさい。私王都の外れにある薬屋に髪の香油を卸しているんです」
「髪の香油、ですか?」
「ええ。例えばここで無香料の石鹸を買って、そこの薬屋で私が作った香油…たまたま今日ティーツリーの香油も卸したんです」
「え、ティーツリーですか?」
「石鹸ではないけど無香料を使ったあとに数滴…貴女の長さならもう少し多めでも大丈夫かな…それを髪全体に馴染ませれば同じ香りを感じられるかなって思って」
シュナはそう言いながらティーツリーの石鹸が入っていた籠を取り少し香りを嗅いでから戻す。
「ここのティーツリーの香りよりも、もう少しスッとして清涼感の―――あ、」
シュナは思い出して自分の持っていたカバンから巾着袋を取り出した。
「えっと…あ、これだ。これにさっきまでティーツリーの香油を入れていたんです。まだ香りが残っています」
そう言って彼女に渡すと、「お借りします」と断ってからその巾着袋に鼻を近づけてくんくんしてから、パッと顔を上げそれは嬉しそうな表情で微笑んだ。
「これです!しかもいつものより―――」
ここでシュナは人差し指と口に当てて「ふふ。好みは色々あるので…」と暗に伝えると彼女はさっと口を手で覆い頬を染める姿が何とも可愛過ぎる。
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m