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互いの異名返上 2
シュナはイアンの過去の暴露に驚愕する。
だがイアンの表情は虚ろな瞳をしておらず話し方も序盤と変わらず淡々としていた。
「十五歳だったからそれなりにそういう知識はあったけど、まさか義理の姉に犯されるとは想像しないよね。その女はね、端正で美しいけど真面目で実直な兄よりも、当時は少年のように幼さを残した甘い顔なのに体を鍛えていた僕の体を欲したんだ。翌年から特殊部隊に入る予定だったからそれなりに鍛えていたし」
とんでもない過去の話をしている間にも、イアンの手が優しくシュナの頬や耳の後ろを撫でてくれている。
「僕は動けないなりに全身全霊で暴れた。それでも体は初めての快楽に屈して一度は女の中に吐き出してしまった。恍惚とした彼女はまた腰を振ってまだ僕から搾り取ろうとしてきた。その時に僕の専属のメイドが異変を察知して突入して露見した」
シュナは瞠目しながら思わずイアンの頬に触れるが、「問題ないよ」と朗らかに微笑む。その表情は無理をしているようには見えない。
「元婚約者の女は、僕と一緒に居る時はいつも何かと使用人を遠ざけていたらしい。元から狙っていたんだろうね。それを敏感に察知したメイドがあまりに静かな部屋に疑問をもって突撃したってわけ」
イアンもシュナと似たような経験をしていた。
「でも僕はまだ十五歳だったけどそこそこ狡猾でね。孔雀族はある意味悪賢い習性を持つ者が多い。兄も真面目に見えるけど抜け目のない孔雀族の血をしっかり引いている。僕は犯されたけど、そのおかげで阿婆擦れの本性が露見したしね。更には僕との結合部分に鮮血はなく、彼女は純潔では無かった。婚約違反となる」
貴族同士の婚約には女性の方に純潔を求める風習はある。特に爵位を受け継ぐ嫡男にはそれが多い。
「彼女は僕の顔が好きだったみたいで、僕との未来を考えていたらしい。僕が情欲に溺れて一緒になるように惑わそうと画策するような女だったんだ。もう彼女の一族は末裔まで途絶えている」
エリックからの聞き齧りではあるが、ピーフォック家は伯爵ではあるが、突出した能力が生まれやすく代々特殊部隊や裏の暗躍、宰相の側近などが多いらしい。俊敏な動きと先読み、そして頭の回転が早く重宝されていると聞いたことがあった。
「兄から凄く謝られたけど、僕としてはあの女の本性がわかって汚れた血が混ざらなかったことに安心したし、寧ろそれがあったから兄は番絆と出逢えたんだから良かったとすら思ったくらい。そして性交によるトラウマも運良く無かった」
トラウマ。その言葉にビクリと頬を撫でていた手が動くがその手を優しく擦るようにイアンが撫でてくれる。
楽観的な話し方をするイアンの様子は無理しているようには見えない。
けれども。
「だけどその代わり僕は雌…まあ女性全般かな。可愛く可憐な見た目とは裏腹にずる賢くて一物抱えている、悍ましくて醜い生き物としか見られなくなった。要するに体へのダメージはなかったけど、そういう蔑んだ目でしか異性を見られなくなったんだ。これが僕がクズになった理由。婚姻は疎か恋人も作る気なんてさらさらなかったし」
いくら強靭な精神をしていたとしても、ダメージが無いことなんてそうあるものではない。
「でも体の欲がそれなりに溜まるから、手軽にお互いの気持ち良さ、一時の快楽だけを求めた。楽だったし、今後誰とも添い遂げようなんて気持ちは微塵もなかったからね」
「…眠れないのは」
「元々もあるし仕事柄もある。でもその影響もあるのかもね」
眠っている間に犯された。
状況は違えどイアンだって実際当時はそれなりに苦しんだはずだ。彼はそれを良い方向に切り換えて持ち直しただけに過ぎない。
傷は消えない。
一生。
シュナの頬を優しく撫でてくれているイアンの手を包む。手から伝わる温かさで心が解される。
そして『雌』であるシュナの手が振り払われることはない。
「無駄に精巧な造りの顔でそれなりに対応も慣れたものだからさ。女の子はほぼ百発百中で落ちてきた―――――たった一人を除いて」
イアンはにっこりと微笑み指の背でシュナの頬をするりと撫でる。
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