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互いの異名返上 4
しおりを挟む「それとね。シュナが自分をどんなに汚れているんだとか、自分は幸せになっちゃいけないとか思うのは自由だし否定もしない。でも僕から見たシュナはとても心が純粋で拙くて繊細で。傷だらけになっても頑張って前を向く健気な子にしか見えないんだ。そう思う僕を否定はしないでね」
イアンはいつもシュナが懸念するだろう心の先を読んでくれる。
「シュナを幸せにしたいんじゃなくて、僕が幸せになりたいからシュナを巻き込むよ。僕は今目の前にいるシュナが良い。今まで頑張ってきて流さなかった分の涙を、…止めることすら、止め方を知らないシュナが好き」
心にぶわりと広がるイアンの言葉が温かく浸透しシュナは涙は流れているのに視界が歪んで訳が分からなくなる。喉は震えひっくひっくと嗚咽が治まらなくなる。
「ね、眠れなくて…今まで何とかしてきたのに怖さが、増して…眠れなっ…弱くなっ――」
「違うよ。今まで頑張り過ぎただけ。限界がきてるの。もう心が悲鳴あげてるんだ」
イアンの手が後頭部と背中に回りゆっくりと撫でながらシュナの額を肩に置かせて耳元で囁いた。
「ずっと頑張ったね。一人で良く頑張った。これからは僕がずっと傍に居て怖い夢も全部起こして助けるから。他も僕が片っ端から排除していってあげるからね」
「っ…ぅ、ぅー…ひっく」
ちょっと物騒な心に響く言葉にシュナはもう嗚咽だけでなく、声も耐えることが出来なくなる。
それでも何とか伝えたいことを聞いてほしくてつっかえながら話す。
「わた、し…一人を、好きに、なっ、たことないけど、…今はイア、ン以外、と、した、くない。イアンじゃなきゃ、嫌。イアンが居れば、それで良いっ…の。この気持ちは好き?ってこと、になる?」
拙いシュナの伝え方に蟀谷に口付けをくれたイアンが「めちゃくちゃなるね」と答えてくれる。
「わたしき、汚い、けど…っ、いつか、話せる時…がっ、きたら、頑張って、話す、か、ら。できれば、…嫌い、に、なら…ないで、ほしっ――」
シュナの嗚咽混じりの言葉にイアンが背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
「うん。僕は異名もそうだけど、仕事上それなりに汚れてるし、シュナがどろどろのぐちゃぐちゃに汚れてても逃がす気は全くないから。僕は優秀な特殊部隊員だから逃げられないよ?もうシュナの言質はしっかり取ったからね?」
「ぅぅ…っく、ひっ…ぅ」
シュナは泣きじゃくりながら何度も頷く。
「毎日一緒に眠ろうね。お互い快適な睡眠でぐっすりだ」
「っ、…うん、っ、う、んっ…」
イアンの心遣いにシュナの涙腺が崩壊する。
イアンの幸せがもれなくシュナも幸せにしてくれる。
「ちょっと相手が動き始めてさ。明朝明け方前にまた出ないといけないんだけど、今夜はシュナの部屋で少し眠らせてくれる?」
「っ…っ、う、ん」
「そうだ。今度の遠征終わったらシュナが住みたい家を探しに行こ?二人が住めるくらいの大きさで、庭があって沢山花を育てられる場所。僕は仕事帰りにいつも花に囲まれた可愛い伴侶が待つ家に帰れるんだ」
イアンの言葉にシュナは嗚咽と涙が止まらず肩の軍服が色を黒く変える。
「ぅぅ…、ひっ…く、う、ん…」
「もらってない褒賞が結構貯まってるから、先に出しとく。シュナは律儀だから半分ずつね。毎年少しずつ何十年もかけて返してね?」
「っ…ぅ、っく、うん…!」
「あー楽しみ。早く遠征終わらせて帰ろー」
イアンが頬を寄せてすりすりとシュナの頭に擦り付ける。頭にあたる温かさにシュナは心から安堵し急激に瞼が重くなってくる。
イアンは話さなくなり嗚咽だけのシュナに対しずっと背中を擦ってくれていた。
そしてずっと怖くて眠れなかったシュナの意識が薄れていく。
そのまま寝落ちしたシュナをイアンはそれはそれは愛しそうに微笑みながら未来の伴侶を抱きかかえて帰路に戻って行った。
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