トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

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前を向いて進んで 2





笑みを引っ込めて改めて視線をしっかり合わせてきたシュナにエリックが僅かに首を傾げた。


「うん?何かしら」
「イアンが今遠征に続けて行っているって」
「そうね」
「詳しくは聞いてないけど、隣国の…薬関連だって」
「うん。そうね」


少しだけ視線を落としたシュナは一つ頷いてエリックを見る。


「今回エリック達が携わっているものと全然関係ないかもしれないし、お門違いかもしれないけど…私が出奔したロンダース国。その時の私はまだ幼くて世情のことなんて何も知らなかった」


それでももしかしたら今懸念している隣国の可能性も無くはない。


「シュリアナ」
「シュリアナ?」
「うん。私の元の名前」
「…シュナと、リア…か」
「そういうこと。そしてリアは…奴が好んで呼んでいた。……アーロ・オスモ」
「――――何?」
「アーロ・オスモ。私の義理父だった人で……トラウマの元凶」


視線をいつの間にか下げてしまったシュナは再度顔を上げる。エリックの表情は珍しく無表情だった。


「一代で財を成し男爵を賜った。約十年以上前にバロアス国を脅かした媚薬を流した、一人だと思う」


シュナが犯されてから、屋敷に増えた使用人と用心棒。時期的にはぴったりだった。


「その媚薬は…弛緩剤が投与されてるものだった。私が逃げる前に仲間らしき奴らと今の情勢が良くないって密談してた。…今生きているのか、どこにいるかもわからないけど、その時の家は…地下があって、そこによく仲間を連れて降りて行ってた」
「…あんたもその媚薬を?」


シュナは僅かに頷く。


「あいつがどれくらい関与しているかわからないし、現状がどうかもわからない。でもその時はかなり私腹を肥やしていたから、そこそこ先陣切って動いていたんじゃないかって今考えれば思う」


未だに裏でこそこそとしているとするなら、今後どうバロアス国に関与してくるか、いつ動こうとしてもおかしくない。


「…今まで弱くて、怖くて、…言えなくてごめん、なさい」


これには完全に目が合わせられずにシュナが下を向いてしまうと頭に乗せられていた手がゆっくりと顎に移り、シュナの顔を上げさせる。

エリックの表情は蔑みも憐れみもなく、やれやれという少し困ったようなお兄さんの表情で。


「…良く話してくれた。イアンと共に居ようと思ったあんたが前を見始めた証。私はシュナが本当に心から笑って前を向くのを望んでる。忘れないで」


いつもより、少し掠れた優しい声音で紡ぐ言葉にシュナの視界が緩むが、何とか踏ん張り頷いた。


「…うん」
「…はあ。私の可愛い妹が嫁ぐのかぁ。しかも相手があの狡賢い孔雀とは…―――だからこそかな」
「ふふ。お互いに年貢の納め時かなって」
「くくっ…確かに世間としては有り難い限りかもね」


エリックがまた頭に手を戻し今度はわしわしと撫でてくれた。


「シュナの幸せを願う」
「ありがと、エリック」
「これから買い物?」
「うん。いつもの公園ちょっと散策してから花屋行って食料調達」
「イアンは早くて明日の午前中には戻る予定」
「じゃあ、食事の下拵え早めにしておく」
「あら。良いね。奥さんって感じ」
「ふふ。番縁の申請もまだだよ」



イアンを受け入れた…刹那的ではない前を向き始めたシュナの心はとても穏やかで。

公園奥にある色とりどりの花壇さえ、先日見に行った時よりも煌めいて見えて心構えが変わるとこんなにも違うのかと驚く。

そしてふとカバンに目を落とすと、そこには畳まれたイアンのシャツ。
ついついイアンが戻るまでの精神安定剤のようになっていて、肌身離さず持ち歩いていることに思わず苦笑いしてしまった。



今日はどんな花が仕入れているのかと楽しみにしながら、シュナはいつもの花屋へ向かった。


「―――あ、シュナさん!いらっしゃい、お待ちしてました!」
「待っててくれたの?ありがとー。何かお薦め入荷でもあるのかなー」


シュナは気候が温かくなり始め、花屋に置かれている花々の色も暖色系統が増えてきたことに頬を緩めながら店内を見ていく。


「今日デリカさん達は?」
「二人とも昼食後くらいから来ます。最近は半日僕が一人でこなせるように今試験中です!」
「ふふ。ポックもそろそろ一人前かしら?」
「そうなれるように頑張ります!――それといつもご贔屓にしてくれているシュナさんに物凄いサプライズがあるんです」
「え、なになに?」
「いつも破棄される花がある裏口に行ってみてください!」


弾けるような笑顔で嬉しそうに微笑むポックに、なんだなんだと思いながらシュナは「じゃあお邪魔するねー」と声を掛け裏口の扉を開いた。



そこで見たものは。





「シュナさんの生き別れたお父さんとのご対面です!」





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