トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

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トラウマに全身全霊で抗う 3






部屋中に響く金属が破壊されるような音。

恐ろしい程にドスの効いた轟く怒号と咆哮、そしてシュナの上に覆われていたものが蛙が潰れるような声を出していなくなった。

続けて壁に叩きつけられるような轟音。
誰かと誰かが争う声。

その中でシュナの身体に掛けられた布と、淡々と話す落ち着きのある声音。


媚薬漬けにされているシュナの視界はぶれて濁ったまま意識も朦朧としてはいるが、辛うじてまだ正気は保てている。


「シュナ」


静かな声。

シュナの唯一の友人。
シュナをいつも遠くから見守ってくれている大事な人。


「っ…すー、ら、…?」
「うん。糞野郎はもう二度と近づけないから」
「っ…ゆ、め……?」


これは都合の良い夢だろうか。


「夢じゃないよ。この前蒸留酒一瓶開けたでしょ」
「っ、…夢、じゃ、な、い…?」
「うん。シュナは薬のせいで上手く喋れない。今から治療魔術を施す。私マジ一流だから根刮ぎ汚物排除できるから任せとけ。そのまま動かないでね」


なんて頼もしい言葉なんだろう。


「…っ、ふふ…動…、た、くて、…でき、な」
「…だね。その辺から鍵探して」


スーランが誰かに声を掛け、先ほどからずっと歯を食いしばるような軋む音が聞こえてくる。


そうだ。一人の声ではなかった。他にも居た。

シュナはビクリと身体を震わすが、「身体は首まで布被ってる」と言ってくれた。

どうみても陵辱現場であり、スーランは勿論他の人にもこんなところを見させて申し訳ないとは思うが、今更だとシュナは身を任せることにした。

ぼやけた視界の中、スーランの魔力なのか清涼な心地良い感覚がじわりと身体に浸透していく。

まるで悪いものが綺麗に浄化されていくよう。


(…このまま、…過去とさっきまでの穢れた全てが消え去れば良いのに)


そう思わずにはいられない。

何とかバロアス国に戻れるだろうことは朦朧とした意識の中、理解はしている。



それでも。
もう事態は起こってしまった。




イアンとの約束は。
叶えられなくなってしまった。



シュナがどうしようもなく穢れてしまったから。

そのことが心をぐしゃりと潰し苦しくさせる。



ふと先日スーランと酒場で話していたことを思い出したシュナは少し動くようになった口で話しかけた。


「スーラン…?」
「はいはい」
「ちょっと、だけ。破裂す、る前に…愚痴を、聞いて、貰えな、いかな」


その言葉にスーランの動く気配、そして寝台に腰を掛けて頭をさらりと撫でられた。


「良いよ。今回に限っては大盤振る舞いだ。好きなだけ吐け」
「…ふふ。あり、がと」


シュナは朦朧とする意識の中、凝っていた今までの思いをスーランに、そしてこれから先の意気込みを聞いて欲しくなった。


「私ね。小さい頃から、母だった女の、喘ぎ声を聞いて、育ったの。あんあん喘ぐ、声が、私の子守唄、ってやつ」


自虐的な言い方をしても今更だと笑えてくる。


「十二歳の、時に、再婚し、た相手が、さっきまで、私に乗っかって、いた男。その時から、私を欲して、いたって。月のものも、始まって、いない幼子…外道過ぎ。十三歳の時から…逃げるまでの十五歳までずっと、―――。大好きなホットミルクに、媚薬入れられて…。弛緩剤入りのやつ。純潔失ったことすら、気づかなかった―――ふふ…学校の授業で、習った時にはもう既に、だよ」


何だか話していると嗤いが込み上げてしまう。


「いつも動けなくさせて、無理矢理。それなのに、母だった女は、私を阿婆擦れだと、罵ってくる。お前のせいだ、悪女、泥棒って。だから逃げる時には、捨ててきた。…あんな嫌悪する存在なんて、要らない」


親に対して非情だと言われても、それ以上に愛情なんてものをただの一度も与えられなかったシュナがどうして思えるというのか。


「あいつは、媚薬の密売でもして、財を肥やしていたんだろうね。状況が芳しくない時に、私は逃げ出した。それまでは、散々慰み者に、なりながら耐えて、逃げないって信じさせた」


その頑張りが後の悪夢に繋がった。


「エリック、…スーラン、デュークに出逢って…私、何とか持ち直せた。あいつからね、ずっと呼ばれてた…リアって名前を敢えて使って呼ば、せて、…私はお前なんかに、負けないって。あいつに犯される夢を、見なくなるまではって…」


結局それはまだ克服出来ていない。


「正面から覆われるのも、…まだ克服できない。動けなくさせられて、…ずっと。…鬱血痕も、だめ。烙印みたいで、我慢出来なかった」


それでも他は克服するのだとシュナは何とか気張っていたつもりだ。


だからこそ、出逢えた。





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