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トラウマに全身全霊で抗う 4
「そんな薄汚れた私にも…奇特な人が居て、ね」
もう離れてしまうかもしれないけど。
「その人は、今の私を望んでくれて、怖い、夢を見ても起こしてくれるの。私が居るとぐっすり眠れるって…私の過去もいつか…数十年後とかでも良いっていうんだよ?ふふ、よぼよぼになっちゃうよ」
「まあまあ良い雄じゃないか」
「うん。―――今の私を、今の私だから望むんだって、…番、縁…まで。―――小さな、二人で住める家、と…周りには、沢山の、は、花に…囲まれて、一緒に、住もう、って…」
ここでシュナの心がぐわりとざわめきおかしくなる。
だってもうこの嬉しい幸せな未来は閉ざされるかもしれないからだ。
「っ…でっ、でも、ほら、ね?私は、また、糞、野郎に捕まって、っ、…っ―――だから、もう、それも、ぜ、んぶ、や、約、束…消えちゃ、うかも、しれない」
ぼやけていた視界が更にぼやけ、目尻から熱いものが次々に流れていく。
喉が震え、スーランが治してくれているのに、身体までが震えてくる。
「それでも、あいつが、ずっと、毒のある、言葉を流し込んで、きても、か、彼、との―――イア、ン、との約束が、何とか私が、お、おかしく、なる前に、留めて、くれた。何とか、踏ん張れた。お、おかしく、なら、な、…ように、なんとか、踏ん張って…ま、まえ、前を、向い、てっ…っ」
言葉が途切れ途切れになり、喉がひくひくとなりながらも、それ以上に心臓がどうしようもなく苦しくて、辛くて、もうどうしていいかわからない。
「―――イ…アンが、知っ…たら、汚い…って、去っちゃう、かな…?…暫く、…ちょっと、だけ、離れて、少し、また、穢れ、が少し、だけでも、薄れて、また頑張っ、…て、さ?持ち、堪えたら、もしかしたら、少しは望み、あるかな?一年…、…す、数ヶ月、な、ら、待って、くれな、い、かな?も、もう、一、回、だけ、が、がん、頑張っ、…て、みて、も、だめ、かな…?」
ひっくひっくと咽び泣きながらも、シュナは何とか自分を鼓舞するように、何とかもう一度頑張れば、もしかしたら僅かにでも奇跡が起きるかもしれないと、起こって欲しいのだという気持ちを込めて、言葉に出して自身に言い聞かせる。
「イ、アンと…一緒に、イアン、とっ…居たいって望んじゃ、もっ…う、だめ…か、な……?」
もうイアンが居ない未来は心を寄せてしまったシュナにとっては、色の無い世界に変わってしまうのだろう。
カシャンと両腕の錠が外れ、スーランの温かい手が冷え切ったシュナの腕を布の中に入れてくれる。そしてさらりと汗ばんだ額からあの男が唯一触れないバターブロンドの髪をさらさらと撫でてくれる。
「余裕っしょ。杖突く爺になってもいけるね」
「っ、ふふ…私も、む、ねが垂れる、婆になる、まで…?」
「そうそう。ぴちぴちの間にいけるよ」
散々な目に遭ったシュナの気持ちを慮って優しい労る言葉をかけてくれるスーランに、シュナはぼろぼろと涙が止まらなくなり嗚咽も止まらない。
もう、本当に、苦しい。
すぐ傍に見えていた輝く未来が潰えるのは。
本当に、辛い。
スーランがぼやけた視界を手で覆いシュナの目を閉じさせた。疲労からか彼女の魔術なのか目が開かなくなってしまう。
「愚痴、聞いて、くれて、…治療して、くれてありがと、スーラン」
「うん。腕を拘束していた擦り傷、シュナの唇の裂傷と身体の修復と屑の小汚いもの全般の除去、下手くそな鬱血痕と浄化魔術まで完了。あいつの痕跡は全部排除して何一つシュナの身体には残ってないから。そしてあの屑は二度とシュナの前に現れない。私が保証する」
「っ…あり、が…と」
それでも犯された事実は変えられない。
「口開けて。一応避妊薬」
シュナは震える唇を開け、錠剤と差し出されたストローから冷たい水を何とか飲み込む。
「それと媚薬の中の弛緩剤は抜けたけど、媚薬そのものはなかなか難しい。だから厄介」
媚薬だけならどうにでもできる。
怖いのは動けず何も抵抗出来ないことだ。
体は気怠いがようやく思考がある程度動いてきたシュナは、話さなければならないことがあったと口を動かす。
「スーラン。言わなきゃ、いけないことがある。媚薬…今まで私が投与されていたのは、弛緩剤が入ったもの。そしてさっきあいつが言っていたのは、最近完成した更に卑劣なもの――――人族が孕みやすくなる媚薬で、幻覚が見えて性交した相手が自分の想い人に見えるって言ってた」
「は?マジ?最悪じゃん」
「マジ、最悪。莫大な金に、なるから保管して、あるって。これから取りに行って、私に使おうとしてた。ここは地下で、合ってる?」
「うん」
「じゃあ、更に地下の金庫。そこの番号が、二九一五。ダイヤル式なら右左右左。数字はあいつと私が離れた年。馬鹿じゃない」
「馬と鹿にも失礼だな」
「ふふ。本当失、礼…それだけ伝えないとって。あいつは媚薬密売の一人だと思う」
「了解。物凄く良いこと聞いた」
「…良かった」
シュナの未来はまたしても苦しくなるが、破裂する前にスーランに話したことで、色味がない世界だとしても何とか持ち堪えられそうだと安堵する。
「シュナ。治療で媚薬の時間を遅らせたから、これから数刻くらい眠らせる。起きて少ししたら媚薬効果発動するから」
「よ、よっゆー…自慰でやり過ごして見せる」
「いや。まあまあな雄を使おうか。じゃあ、睡眠魔術かけるよ―――――良く頑張った。シュナは最強」
スーランの優しい声音と嬉しい言葉の直後、シュナは意識がすっと沈んでいった。
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