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エリック 4
そしてエリックの事情。
明らかに薬屋はついでであり、本業が胡散臭いことは分かっているだろうシュナだったが、「エリックがエリックなら何でも良いなーミステリアスなちょい隠しの見た目も良いし、そのオネエ言葉が個人的に好き。堪んない」とにっこりと邪気のない笑顔で言うのだ。
エリックの素性などどうでもよくエリックだから良いのだと個人を見てもらえることは存外心地が良い。
それはデュークも同じ扱いのようで、眼帯はしているが端正な整った顔をしている彼に対しても「デュークはデュークだもんね。未だにお子ちゃまカクテルを作ってくれるんだ。酒薄めだけどあれ好き」とにこにこしながら、雄を仕留めた後は必ずそのカクテルを飲むのだそうだ。
そして「マンダリンのこれって物がなかなか出回ってなくて。いつかデューク専用の香油作ってあげるんだ」とエリックと同様に身内として慕うように楽しそうに話す。
それ以降もデュークからユニュイスでの出来事を聞くが、小さな失態を犯しても一を学び十を知るようにものの数年経たないうちに、大方一人でほぼ対処できるようになっていると聞いた。
髪の香油も年々物が良くなり、薬屋に置いてもあっという間に売れ切れることが多くなってきた。「儲けてうはうはだー。いつか小さなお家買うんだー」と嬉しそうに渡した報酬の巾着をチャラチャラと鳴らすシュナは本当に可愛らしいとエリックはいつも頭を撫でてしまう。
エリックだけのシダーウッドをベースとした香油はもう他では物足りないくらいに気に入っている。
しかし十年経っても変わらないシュナの雄への刹那的な行動はずっと続いていた。
時折眠そうな表情で「最近ちょっと寝不足気味…」とぼやく時は、恐らく本人がぽろりと溢した悪夢に悩まされているのだろう。ユニュイスでも酒が入った時にたまに漏らす言葉。
そして報告から聞いた話の一つ。
王都中央公園の散歩コースである花壇付近で何時間も花を見つめているシュナの表情は虚ろだそうだ。
エリックは一度だけたまたま街に繰り出した時に見たことがある。
普段のシュナからは想像できないほど、まるで生きていない精巧な人形のような顔で花壇を一点に見つめている。
一人で居る時だけに見せるシュナの心の闇が垣間見える瞬間。
エリック達の前ではそのことを思い出さないようにして楽しく過ごしていることは分かっているが、あの表情を少しでも緩和できる相手が現れればと思い何年も経つ。
身内では無い、たった一人、シュナの全てを受け入れられ、トラウマを克服させられる器の大きい雄。
そして難攻不落のシュナの鉄壁を壊せる者。
そんな雄がいる訳ないだろうと思っていたが、意外に身近に居た。
エリックのもう一つの仕事に良く関わる特殊部隊暗部筆頭の一人、イアンだ。
彼は孔雀族でちょっと特殊な状態で生まれた。
代々ピーフォック伯爵家は暗部や裏の仕事、参謀など裏を牛耳るのに欠かせない人材である。
ピーフォック家の功績は侯爵家に連なる程であるが、代々の当主は伯爵の爵位だからこそ自由に動けて役に立てるという考えで陞爵を全て断っているほどだ。
イアンはその血筋を色濃く受け継いでおり、息を吸うように知能策略を積み上げ、状況を把握し俊敏に動き、先を見据えることに長けていて任務を円滑にいつも遂行していた。
そして甘く整った美しい顔を保ちながら淡々と行う拷問は、周りも戦慄くほどの凄惨さを併せ持つ。
そんなイアンの兄、ローアン・ピーフォックは宰相ギュスターの右腕だ。
華やかで遊び歩いているイアンとは対照的なローアンは顔の造りも共に生真面目に見えるが、その実しっかりと孔雀族の狡猾な部分を受け継いでいる。でなければ癖しかないギュスターの側近を務めることは不可能だからだ。
そんなローアンの元婚約者から襲われたイアンの件は国王始め若干名だけが知る所だ。
「本当にあの雌の血が混ざらなくてラッキー」
にこにこしながら話すイアンはそこまでダメージを受けていない印象ではあった。しかしローアン曰く元々眠りが浅いのが更に酷くなったとは聞いていた。
そして雌とはそういう生き物であるというように、数年後には『正統派クズ』という異名まで轟いた。
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