トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

文字の大きさ
62 / 140

エリック 4




そしてエリックの事情。

明らかに薬屋はついでであり、本業が胡散臭いことは分かっているだろうシュナだったが、「エリックがエリックなら何でも良いなーミステリアスなちょい隠しの見た目も良いし、そのオネエ言葉が個人的に好き。堪んない」とにっこりと邪気のない笑顔で言うのだ。

エリックの素性などどうでもよくエリックだから良いのだと個人を見てもらえることは存外心地が良い。

それはデュークも同じ扱いのようで、眼帯はしているが端正な整った顔をしている彼に対しても「デュークはデュークだもんね。未だにお子ちゃまカクテルを作ってくれるんだ。酒薄めだけどあれ好き」とにこにこしながら、雄を仕留めた後は必ずそのカクテルを飲むのだそうだ。

そして「マンダリンのこれって物がなかなか出回ってなくて。いつかデューク専用の香油作ってあげるんだ」とエリックと同様に身内として慕うように楽しそうに話す。

それ以降もデュークからユニュイスでの出来事を聞くが、小さな失態を犯しても一を学び十を知るようにものの数年経たないうちに、大方一人でほぼ対処できるようになっていると聞いた。

髪の香油も年々物が良くなり、薬屋に置いてもあっという間に売れ切れることが多くなってきた。「儲けてうはうはだー。いつか小さなお家買うんだー」と嬉しそうに渡した報酬の巾着をチャラチャラと鳴らすシュナは本当に可愛らしいとエリックはいつも頭を撫でてしまう。

エリックだけのシダーウッドをベースとした香油はもう他では物足りないくらいに気に入っている。


しかし十年経っても変わらないシュナの雄への刹那的な行動はずっと続いていた。

時折眠そうな表情で「最近ちょっと寝不足気味…」とぼやく時は、恐らく本人がぽろりと溢した悪夢に悩まされているのだろう。ユニュイスでも酒が入った時にたまに漏らす言葉。

そして報告から聞いた話の一つ。
王都中央公園の散歩コースである花壇付近で何時間も花を見つめているシュナの表情は虚ろだそうだ。

エリックは一度だけたまたま街に繰り出した時に見たことがある。
普段のシュナからは想像できないほど、まるで生きていない精巧な人形のような顔で花壇を一点に見つめている。

一人で居る時だけに見せるシュナの心の闇が垣間見える瞬間。


エリック達の前ではそのことを思い出さないようにして楽しく過ごしていることは分かっているが、あの表情を少しでも緩和できる相手が現れればと思い何年も経つ。

身内では無い、たった一人、シュナの全てを受け入れられ、トラウマを克服させられる器の大きい雄。

そして難攻不落のシュナの鉄壁を壊せる者。



そんな雄がいる訳ないだろうと思っていたが、意外に身近に居た。

エリックのもう一つの仕事に良く関わる特殊部隊暗部筆頭の一人、イアンだ。

彼は孔雀族でちょっと特殊な状態で生まれた。
代々ピーフォック伯爵家は暗部や裏の仕事、参謀など裏を牛耳るのに欠かせない人材である。

ピーフォック家の功績は侯爵家に連なる程であるが、代々の当主は伯爵の爵位だからこそ自由に動けて役に立てるという考えで陞爵を全て断っているほどだ。

イアンはその血筋を色濃く受け継いでおり、息を吸うように知能策略を積み上げ、状況を把握し俊敏に動き、先を見据えることに長けていて任務を円滑にいつも遂行していた。

そして甘く整った美しい顔を保ちながら淡々と行う拷問は、周りも戦慄くほどの凄惨さを併せ持つ。


そんなイアンの兄、ローアン・ピーフォックは宰相ギュスターの右腕だ。

華やかで遊び歩いているイアンとは対照的なローアンは顔の造りも共に生真面目に見えるが、その実しっかりと孔雀族の狡猾な部分を受け継いでいる。でなければ癖しかないギュスターの側近を務めることは不可能だからだ。

そんなローアンの元婚約者から襲われたイアンの件は国王始め若干名だけが知る所だ。


「本当にあの雌の血が混ざらなくてラッキー」


にこにこしながら話すイアンはそこまでダメージを受けていない印象ではあった。しかしローアン曰く元々眠りが浅いのが更に酷くなったとは聞いていた。

そして雌とはそういう生き物であるというように、数年後には『正統派クズ』という異名まで轟いた。





あなたにおすすめの小説

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。