トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

文字の大きさ
63 / 140

エリック 5





「シュナが傍に居ると物凄く良く眠れるし居るだけで落ち着くの。物凄く大事にしたいから番縁結んでも良い?」


そんなイアンから薬屋に報告に来た際に聞いた驚愕の言葉。


ここ数月怪しい動きをしていたロンダース国が、新たな媚薬をばら撒こうとしている情報が入り、エリックはイアンに何度か任務を任せていた。

その頃たまたまユニュイスでイアンはリアに出逢ったらしい。
エリックからすると昼と夜それぞれの悪名名高い二人が出逢っていなかったことにも驚いたが、互いに存在だけは知っていたようだ。

シュナがリアであることをたまたま夕方薬屋で会った時に気付いたイアンは、自分に一切靡かないシュナに興味を示したようだった。

エリックはシュナの過去をある程度知っていたので、あまり深く関わるなと警告はしておいた。


イアンは巷では女好きと評されてはいるが、実際は違う。

甘い微笑みに隠された侮蔑の視線はあの時から健在で、いつも紳士的に対応はしているが常に一線を引き、自分の仕事とテリトリーには絶対に入らせない。屋敷を使わず部屋を借りているのもそれが理由だろう。

シュナと思考が似通っているものがあり、その二人が関わるとこうなるのかと思うほどにエリックとしても想定外ではあった。


それでも徐々に二人の時間が日中にかけて増えていることが報告され、ある時イアンからシュナの過去を聞かれるが警告は再度伝えた。

それでも一向にイアンが引く様子はなく、「傷だらけで健気に蹲って身を守るあの子を助けられるのは狡猾で用意周到な僕しか居ないと思うんだよね。そもそも僕がずっと一緒に居たいし僕が一緒に幸せになりたいと思った初めての子だから逃さないけど」と今までにないイアンの言葉を聞いた時には流石に驚いた。

お互いにある意味刹那的に生きる二人が、お互い共に居ることで穏やかに暮らせる未来。

エリック達がしてあげられなかったことをイアンなら出来るのかもしれない。

シュナを囲う頑丈に蔓延る壁は高く相手が入る隙が無かった。
だがその内は傷だらけで脆く、いつ内側から壊れて崩壊してしまわないかと思うほどに懸念していた部分はあった。


それをイアンが少しずつ隙を見つけて穴を開け、そこから手を伸ばしている。

シュナは端に蹲って怯えながらも少しずつ近づき、手を伸ばすか否か悩んでいるのがわかる。


二人の手がもし繋がるならば。
イアンがシュナの内側に飛び込めたのなら。


十五歳とは思えなかったシュナの虚ろな表情が、狡賢くも器の大きい孔雀によって年相応の笑みに変わるならば。


エリックは可愛い妹分のシュナの幸せをいつも願っているのだ。



そしてシュナの壁が少しだけ瓦解され、伸ばした手を掴んだイアンが中に飛び込んだ。

この先二人が共に手を繋ぎ幸せに向かおうとしていた。





「アーロ・オスモ。私の義理父だった人で……トラウマの元凶」


まさかの現時点で追っている首謀者の一人の名前が出るとはエリックも流石に思わず。

しかも十年以上前に出回りそうになった劣悪な媚薬の一番の被害者だったシュナ。


シュナを存分に嬲っていた義理の父。
シュナに虚ろな表情をさせた元凶。

それでもイアンと共に進む為に、自分の傷口を開いて話してくれたことにエリックは感謝し、扉から出て行ったシュナを見つめながら、後ろの僅かな気配の相手に話しかけた。


「…まさかのシュナの身内だと」
「首謀者も首謀者。先日から行き先不明」
「前回のようにはさせん。屋敷にも?」
「居るように見せかけて恐らく留守。理由は不明」
「―――――デューク、探れ」
「御意」


デュークの気配が消え、エリックはデュークが置いていった媚薬を持ち上げる。


諜報中に拷問した首謀者の一人が持っていた悍ましい媚薬。


それは弛緩剤だけでなく、人族を恐怖に陥れる下劣な効果のある毒薬のようなもの。




そして翌日。

デュークからの速便で届いた手紙に書いてあった内容。

己を危険に晒してでもシュナを捕らえる為だけにバロアス国に来たアーロ。
十年以上経ってもなお続くシュナへの異常な執着。


上の部屋から生活音は一切しない。


エリックの表情は能面だ。


状況が状況だけに自ら動くしかないと思った時、寂れたドアベルがけたたましく鳴った。





あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」