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エリック 5
しおりを挟む「シュナが傍に居ると物凄く良く眠れるし居るだけで落ち着くの。物凄く大事にしたいから番縁結んでも良い?」
そんなイアンから薬屋に報告に来た際に聞いた驚愕の言葉。
ここ数月怪しい動きをしていたロンダース国が、新たな媚薬をばら撒こうとしている情報が入り、エリックはイアンに何度か任務を任せていた。
その頃たまたまユニュイスでイアンはリアに出逢ったらしい。
エリックからすると昼と夜それぞれの悪名名高い二人が出逢っていなかったことにも驚いたが、互いに存在だけは知っていたようだ。
シュナがリアであることをたまたま夕方薬屋で会った時に気付いたイアンは、自分に一切靡かないシュナに興味を示したようだった。
エリックはシュナの過去をある程度知っていたので、あまり深く関わるなと警告はしておいた。
イアンは巷では女好きと評されてはいるが、実際は違う。
甘い微笑みに隠された侮蔑の視線はあの時から健在で、いつも紳士的に対応はしているが常に一線を引き、自分の仕事とテリトリーには絶対に入らせない。屋敷を使わず部屋を借りているのもそれが理由だろう。
シュナと思考が似通っているものがあり、その二人が関わるとこうなるのかと思うほどにエリックとしても想定外ではあった。
それでも徐々に二人の時間が日中にかけて増えていることが報告され、ある時イアンからシュナの過去を聞かれるが警告は再度伝えた。
それでも一向にイアンが引く様子はなく、「傷だらけで健気に蹲って身を守るあの子を助けられるのは狡猾で用意周到な僕しか居ないと思うんだよね。そもそも僕がずっと一緒に居たいし僕が一緒に幸せになりたいと思った初めての子だから逃さないけど」と今までにないイアンの言葉を聞いた時には流石に驚いた。
お互いにある意味刹那的に生きる二人が、お互い共に居ることで穏やかに暮らせる未来。
エリック達がしてあげられなかったことをイアンなら出来るのかもしれない。
シュナを囲う頑丈に蔓延る壁は高く相手が入る隙が無かった。
だがその内は傷だらけで脆く、いつ内側から壊れて崩壊してしまわないかと思うほどに懸念していた部分はあった。
それをイアンが少しずつ隙を見つけて穴を開け、そこから手を伸ばしている。
シュナは端に蹲って怯えながらも少しずつ近づき、手を伸ばすか否か悩んでいるのがわかる。
二人の手がもし繋がるならば。
イアンがシュナの内側に飛び込めたのなら。
十五歳とは思えなかったシュナの虚ろな表情が、狡賢くも器の大きい孔雀によって年相応の笑みに変わるならば。
エリックは可愛い妹分のシュナの幸せをいつも願っているのだ。
そしてシュナの壁が少しだけ瓦解され、伸ばした手を掴んだイアンが中に飛び込んだ。
この先二人が共に手を繋ぎ幸せに向かおうとしていた。
「アーロ・オスモ。私の義理父だった人で……トラウマの元凶」
まさかの現時点で追っている首謀者の一人の名前が出るとはエリックも流石に思わず。
しかも十年以上前に出回りそうになった劣悪な媚薬の一番の被害者だったシュナ。
シュナを存分に嬲っていた義理の父。
シュナに虚ろな表情をさせた元凶。
それでもイアンと共に進む為に、自分の傷口を開いて話してくれたことにエリックは感謝し、扉から出て行ったシュナを見つめながら、後ろの僅かな気配の相手に話しかけた。
「…まさかのシュナの身内だと」
「首謀者も首謀者。先日から行き先不明」
「前回のようにはさせん。屋敷にも?」
「居るように見せかけて恐らく留守。理由は不明」
「―――――デューク、探れ」
「御意」
デュークの気配が消え、エリックはデュークが置いていった媚薬を持ち上げる。
諜報中に拷問した首謀者の一人が持っていた悍ましい媚薬。
それは弛緩剤だけでなく、人族を恐怖に陥れる下劣な効果のある毒薬のようなもの。
そして翌日。
デュークからの速便で届いた手紙に書いてあった内容。
己を危険に晒してでもシュナを捕らえる為だけにバロアス国に来たアーロ。
十年以上経ってもなお続くシュナへの異常な執着。
上の部屋から生活音は一切しない。
エリックの表情は能面だ。
状況が状況だけに自ら動くしかないと思った時、寂れたドアベルがけたたましく鳴った。
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