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イアン 4
しおりを挟む夜だけで決まった酒場にしか現れない。
一夜限りの関係のみで雄を喰い荒らしている。
目の前の酒場『ユニュイス』の上にある小さな宿でしか抱けない。
どこから来てどこに帰るのか見た者は居ない。
化粧はしているが一度見たら忘れられないほどの妖美な印象なのに昼間に街で見かけた者は居ない。
特定の相手は絶対に作らない。
雄を手玉に取る悪女と噂される年齢も素性も謎な女。
まるでイアンの女版に近い人物である。
イアンは今入っていった者のようにリアにもう一度会いたくて彷徨く雄を何人も見たことがある。
今までも何度かユニュイスには来たが遭遇したことはない。時間帯もだがイアンは基本日中に相手を選別していたので出逢う機会がなかったということもある。
それに雄を惑わすと言われているくらいだから碌な雌ではないだろうとあまり気にかけてはいなかったが、それでも少しイアンと似通ったリアに勝手に親近感を覚えていたというのも事実だった。
そして今。酒場ユニュイスにどうやらその『リア』なる人物が居るらしい。最近は適当に欲は発散していたが選別していた筈の一人がちょっと面倒臭い相手になりそうなので、あまり日中に仕事以外で動いていなかった。
ちょっと面白そうだと噂の『リア』を見るべく、イアンはユニュイスに向かう。
入る前から中の声が何となく聞こえてくる。
イアンの元々の能力と職業柄、周りの喧騒があっても集中すれば多少の音は拾える。予想通り中では女々しい雄がリアに対し乞い願っているようだ。対してリアの声は淡々としている。
面白いことになりそうだとイアンは中に入っていった。
そこにはカウンターに座る緩やかな波打つ肩下までのバターブロンドの髪。モスグリーンの瞳は大きく目尻が少し切れ長で、妖美さに更に華を添えていた。
腿あたりの短めのワンピースからは細くも女性らしい曲線を描いた美しい脚と、胸が丁度良い大きさと形であることは見て分かる。
しっかり化粧をした顔は、恐らく化粧をしなくてもそこそこ良いのではないかと思うくらいには美しく整っていた。
(この子がリア、か)
イアンは基本娼館以外に同類の相手はしない。大体イアンに憧れているとか一度だけ抱かれたいだとか、こういう酒場にはまず来ない相手ばかりだった。
たまには巷で異名を轟かせている相手を試してみるのも良いかとイアンはちょっとしつこそうな雄を先ずは散らそうと、まるで今夜の相手であるかのような対応でリアと迫っている雄に近づいた。
イアンの行動にリアは目を丸くしながら見ていた。その視線からどうやら彼女もイアンのことは知っているようだ。
そして逃げて行く雄を追う様子も、にこりと微笑むイアンを見て惚ける様子も一切ない。
(へえ…珍しい)
イアンは自分がどう微笑めば、雌がどう反応するかということを熟知していた。それでも目の前のリアには効かないようだ。
かといって傲慢な態度を取ることもなく礼を言い、一杯奢るとは言うがこちらの予定にも気遣う。
そしてカウンターにいるマスターのデュークには付き合いが長いのか気さくな態度を取っている。対してイアンは『それ以外』だ。
しかも雌特有の素振りもなく本当にただお礼として奢るつもりだったらしい。
俄然興味が湧いたイアンは今夜の相手に挙手する。
リアは少し驚きながらも阿婆擦れを相手にするのかと聞いてきた。阿婆擦れと言うのはイアンを犯した雌のような人種だ。
これでも人を見ることに長けているイアンは誘いを冗談だと本気にしないリアは阿婆擦れと同類ではないことを理解する。
リアはイアンと同様自分が周りからどう見られているかも理解しており、イアンの相手には合わないと言う。今まで誘われる側が殆どで、こんな流れになったことが無かったイアンはちょっと煽ってみた。
するとリアの表情がガラリと変わった。
雄を捕食する側、即ちイアンと同じ視線だ。
今までにない好敵手にイアンは舌舐めずりしたくなる。
人から施しを受けることを良しとしないのか、口だけじゃなくちゃんと奢ってくれたリアにイアンは興味が募る。
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