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イアン 8
しおりを挟む「イアンは今こっちがメインに動いているんだろ?媚薬は十年前のと同じ?」
「未確定。密偵からの情報だと濃厚。それとどうにも前回のものより更に質が悪いって」
「前のは確か弛緩剤入りだよね?」
「うん。その時点でもう駄目だよね」
弛緩剤入りの媚薬。飲ませた相手を無抵抗にすると同義である。それに併せて媚薬効果があるということは使い道が何かなんて言わずとも予想できるものだ。
「何でそう悪辣なものを世に生み出すかねぇ」
「その分そこに薄汚い欲が存在するからでしょ」
「人の欲は底無しだからね」
過ぎた欲は人を惑わせ狂わせる。スーランが目を擦り欠伸を噛み殺しながら尋ねてくる。
「最新じゃない媚薬は手に入ったの?」
「うん。十年前のと同じかは分からないけど、昔関わっていた一人を見つけてちょっと強引にね」
「出た。イアンの拷問はえげつないからな」
「あは。今回は多少優しめ。前の首謀者の一人のお抱えの魔術師でさ。ずっと潜んでたみたいで気を抜いてのこのこ出てきたところをね。似たようなまがいものは幾らでもロンダース国内で出回っているけど弛緩剤効果が圧倒的に高いのはそれだけ。あとは残党がどれだけいるかだなー」
「そいつ生きてんの?」
「本人の作品に自白剤も混ぜてあげて尋問でもしてるんじゃないかな」
「えぐ」
「まずはリグリアーノ宛に送るって。ある程度解析したらスーランに移行って感じで」
「だから王子だけで十分な気が」
「スーランご指名なんだよ。二人の方がより良い成果が出るってことで」
「エリックか」
「そうだね」
「専属料ふんだくらないと」
「俺もー」
その後少し談笑したあと別れ、特殊部隊で残っていた仕事を終えたイアンは、その足で王都の外れにあるエリックが営む薬屋に向かい寂れたドアベルを鳴らし扉を開けた。
「やあ。エリック。この前頼まれたことなんだけど―――」
この薬屋に客が居ることはあまりないが、今日は珍しく先客がいた。
そもそもここは薬屋という看板を掲げてはいるが実際はあまり稼働しておらず、エリックの本業の方がメインである。
カウンターに上半身を乗せてエリックと話していたであろう客にイアンはふと首を傾げた。
(…髪の色が同じ)
水色のシンプルな膝下のワンピースに紺色のブーツ。そしてイアンが目についたバターブロンドの髪は後ろで一つにまとめ丸めてある女。
「あら。イアン。もう分かったの?」
「あれくらいなら仕事の合間に余裕。―――っと、ごめん。お客がいたんだね」
まさかなと思いながら二人に近づいていくと、エリックと気さくに話していた女は帰るようでくるりと振り向く。
女の顔は整っていて可愛い部類ではあるが、化粧をしておらず口元のリップ程度。とても若くは見えるのだが。
(あれ?…声―――)
その女は「失礼します」とイアンと目も合わさずに横を通り過ぎて出て行った。
その時ふわりと香った匂いに、イアンは少し目を見開いてしまった。
「イアン?どうしたの」
「…いや。ちょっと、…吃驚したかも」
まさかとは思ったが。
こんなに近くに居たとは。
通り過ぎた時にふわりと香ったラベンダーと併せて爽快感のある香り。イアンはつい最近その香りを間近で嗅いでいる。
先日会った時とはあまりにも風貌も態度も異なり過ぎていた『闇夜だけに現れる悪女』。
「ねえ、今の子…シュナ?って僕初めて会ったんだけど知り合い?」
「そうだけど。イアンが女を気にするなんて驚き」
エリックの色眼鏡から見える目が僅かに丸くなる。
「仲良さそうだったから僕からするとそっちが驚き」
「ああ。昔からの付き合いで後見人なの」
「エリックが後見人?」
「そ」
「珍しい。僕何度もここに来てるけど会ったことなかったよ」
「時間帯とかじゃない?」
「近くに住んでるの?」
「この上の空き部屋貸してるわね。何でそんなに気になるの?それこそ珍しい」
対話するエリックはいつも通りだ。彼もデューク同様なかなかに読み取り辛い一人だ。
「最近会ったんだよ―――ユニュイスで」
「あんな清純そうな子が?」
「うん。エリックが後見人なのと上の部屋を提供してる。そしてあの子がユニュイスでしか見かけないって噂で同一人物確定って感じ」
イアンがにこりと微笑むと、エリックはやれやれと言う風に肩を諌めた。
「言わないとあんたあれこれ調べそうだし。頼んでる依頼が滞ったら困る」
「あは。流石に優先順位は弁えてるよ」
イアンはカウンターの一つに座る。シュナが立っていた場所だ。
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