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イアン 15
「イアン様。最近ちょっと外泊が多すぎませんか」
長めの遠征を終え、久しぶりに伯爵家の離れに戻った時にイアン専属のメイド、ターニャから帰宅直後に恨みがましい声色で一言。
「ん?そんなに空いてたっけ?」
「私が何度借りてる部屋を片付けたと?」
「いつもありがとねー」
「……ミイラ取りがミイラになっていませんか?」
ターニャの言葉にイアンがゆっくりと振り向く。
「何が?」
「同じ方の匂い」
「お。流石にターニャは鋭いね」
蠍族は元々人数も少ないが個々突出した能力の持ち主が多いと言われている。だからこそ過去狙われ囚われて奴隷にされていたくらいなのだ。
ターニャの能力は伯爵家に近しいものが多く、嗅覚や聴覚に敏感で俊敏さも一流だ。戦闘能力も高く今では伯爵家の精鋭と良い勝負をするくらいだ。
始めこそイアンのメイドとしての役割だけで良いと言っていたのに、「イアン様が弱った時に誰が助けるんですか」とターニャは自ら伯爵家の精鋭達に請うて指導してもらっていた。
「ミイラ取りではないかなー」
「今までに無かったことなので心配はしてます、一応」
「あは、ありがとー。心配尽きないなら一度相手と話してみれば?」
その言葉にターニャが目を見張る。
「近寄るなとは言わないんですね。それかそこまでの相手でもないか」
「うーん…ターニャなら直接会えば、僕が今行動している意味がわかるかなと思って」
「…」
「明らかに攻撃的な言葉で相手を傷つけたり、僕から離そうとしなければ好きにして良いよ」
「そこまでですか」
「そこまでだよ」
被せるように答えたイアンに信じられないという風に表情に出さないターニャが目を丸くした。
「きっとターニャも気に入ると思うよ。二十四年生きてきた僕の初めての試みだから絶対失敗したくないしね。何が何でも包囲網でちゃんと固めておかないと逃げちゃうかもしれない猛者だから」
「………怖」
「あはは」
無表情でわざとらしく肩を擦るターニャにイアンはおかしくて笑ってしまった。
******************
「何で俺も一緒なんだ」
「まあたまには違う場所で食べようよ」
イアンはその日特殊部隊施設でフェリウスと模擬戦をこなし、シャワーを浴びた後に魔術隊の食堂に赴いた。ごねるフェリウスにへらへら笑いながらイアン達が食堂に行くと、スーランは同じ治療魔術師でスーランの伴侶、魔術隊統括総帥のバウデン・ホークルの嫡男キリウと一緒に居た。
「お待たせー」
「あ。お疲れ様です」
「キリウ君お疲れー」
「遅いけど。もうトマトは成敗したよ」
「あはは。何よりじゃない」
「成敗したのは僕ですけどね」
「うんうん。わかってる」
「キリウ。何でバラすの」
わいわいしながらイアン達も食事を摂る。
「…ん?」
スーランが不意に首を捻り、イアンの方に少しだけ体を伸ばし嗅ぐ仕草を見せる。
「何か匂う?さっきシャワー浴びてるけど」
イアンが自分の匂いを嗅ぐが、シャワーで使った石鹸の香りだけだ。キリウも首を傾げて尋ねる。
「スーランさん?」
「…んー私の知り合いの匂い」
鋭いスーランの嗅覚に驚くがイアンは素知らぬ顔をする。
「本当かい?スーランの知り合い知らないからなぁ。誰か分からないよ」
「んーまあ今度飲みに行くから直接聞く」
明らかにシュナと分かっているだろうスーランは次にフェリウスを見た。
「フェリウスは面構え変わったね」
黙々と食べていたフェリウスが無表情で首を僅かに傾げる。
「…そうか?」
「うん。良い意味で丸くなった。伴侶に満たされてるんだね。そして向こうも同じって匂い」
その言葉にフェリウスが目を僅かに丸くする。スーランはあまり周りに興味がないのにとイアンは不思議そうに尋ねた。
「スーランは統括総帥と婚姻してから周囲も見るようになったの?」
「ううん全然。匂い」
「匂い?」
「うん。前はそこまでではなかったんだけど。式典の後色々あって魔力の器が小さくなっちゃった分、匂いというか感覚?それが前より顕著になった。意味分からん」
「へえ。そんなこともあるんだね」
「フェリウスのは本当に幸せっていう匂いの感覚。良かったね」
「ああ」
未だにイリエ以外には表情を殆ど動かさないフェリウスだが、イリエを思い出したのか僅かに目元が緩んだ。
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