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変異種 3
「私は、…イアンという存在が欲しい。イアンじゃなきゃ嫌。今目の前で涙を流しながら精一杯私と同等になる為に言わなくて良いことまで提示してくれる―――不器用なその心が一等に欲しい。顔と身体はついでなの」
イアンの目がこれでもかと見開かれる。
「狡猾でも残虐でも非情でも、……優しくて幼い部分も纏めて私は愛しい。―――イアンが良い。イアンじゃなきゃ駄目。全部ひっくるめてのイアンが好き」
恋愛したことがないシュナなりの精一杯の告白だ。
「イアン―――助けに来てくれて、…ありがとう」
あの時の耳に届いた凄まじい咆哮はイアンのものだったのだろう。
激昂と――悲痛の混ざった咆哮。
「私もまた、汚れちゃっ…、けど、もう一度、頑張、るから、嫌いにな、らな、いで」
シュナはあれほどの惨状を見られたことに思わず顔を歪め言葉が詰まるが、即座に今度はイアンが頬を包み何度も口づけを施してくれる。
深くても情欲の入らない温かい口づけだ。
「僕にとって嫌う理由の微々たるにもならない。僕の方がずっと傍に居たいの」
口付けをしながらイアンがシュナが望む言葉を紡いでくれる。
「でも僕は巷でもそうだけど、裏社会でも人種としてもクズだよ?良いの?」
「ふふ。それなら巷もだし、クズと知って大好きと宣言する私もクズ。一緒一緒」
思わず泣きながら笑ってしまうと、イアンはいつもの柔らかい微笑みに戻り額を合わせ目を閉じた。
「良かった…シュナがクズ嗜好で」
「ふふ。イアンがクズで助かった」
イアンがシュナをぎゅっと抱き締めて心からの言葉を吐露する。
「本当に―――良かった…」
シュナから言わせれば己をクズだと微塵にも思わず分からずに厚かましく生きている奴なんて幾らでもいる。
それは例えばアーロのように。
ジュリアのように。
自身を微々たるもそう思ってない人種こそがシュナにとっては一番悍ましい。
そんな奴らが自分の『家族』であったことが本当に嘆かわしい。
対してイアンの本質を知ってても愛してくれた家族が羨ましい。
「イアンの家族は変異種だとわかっても変わらず慈しんでくれたんだね」
「そうだね。僕は恵まれていた。それに母はちょっと特殊だったかな…煌めき系ラッキーって喜んでた」
「…煌めき系ラッキー」
シュナのぽかんとした返しにイアンが思わず噴き出した。
「ふはっ。うん。寒色系じゃなく暖色系珍しくて格好良いってそれだけ。変異種だろうが兄と同じにたっぷり愛情くれた変人。父も同じく母と一緒で変人」
なんて素敵な家族だろうか。
変異種だとしても家族の愛情に包まれていたことでイアンはそれが前面に出たとしても、大切な人に向けることは一切無かったのだろう。
「素敵な家族」
「そんな家族にシュナも入るんだよ?」
その言葉にシュナは驚き、突如不安に駆られてしまう。
「…イアン、あの」
「シュナ」
イアンがお見通しとばかりににこりと微笑む。
「エリック同様、僕の両親にも番縁の話は伝えてあるんだ。僕の過去から伴侶を持つことそのものが無いと思っていたから大喜びしてた」
その言葉に驚きもあり嬉しくも思う。それでもと思うシュナの口を人差し指で押さえたイアンが片眉を上げて面白そうに微笑んだ。
「明日間違いなく母あたりが突撃してくると思う。その時に昔何をしていた人だったかって聞いてご覧」
「何をしていた人…?」
それは一体何だろうと想っていると、先ほどからイアンが撫でてくれている身体が段々火照ってくる。そして背中を擦られているイアンの手にぴくりと反応してしまった。
「っ、イアン」
「そろそろだね。シュナ、媚薬効果が発動するよ」
「あ…」
そうだ。スーランが一時的に魔術で止めていてくれたことを思い出す。
「自慰なんかさせないよ。僕って優秀な雄がいるでしょ?―――――それとね」
ふと真面目な表情でイアンがシュナを見据えた。
「荒療治しよ」
「…荒療治?」
「うん。今ここで僕と一緒に克服しよう。トラウマ」
「!」
シュナはあの時、媚薬で朦朧としている中トラウマの内容も話していた。
それは勿論イアンも聞いていたということで。
瞠目するシュナにイアンがにやりと――――優しくない、害のある妖艶な微笑みに変わる。
「シュナ。ここに巷を騒がせたクズが二人。対して愚かで無能な外道が一匹。ここで一気にカタをつけよう?」
イアンの手の動きが優しいものだけでなく、艶めかしく背中から、脇、腰に綺麗な指を這わせ始める。
「ん、…は、…イアンが一緒に、仕留めて、くれる?」
「勿論。シュナが望む変異種の僕がそんな害悪を上回るトラウマを刻んであげる。シュナが今後見る夢は僕だけ。ついでに僕にしか感じなくなって、もう他の雄じゃ物足りなくなる。結構なトラウマでしょ?」
なんて魅力的なトラウマなんだろう。
イアンはシュナの未来まで救ってくれる。
今まで強く在れと自分を鼓舞してきたことを、今やらずにいつ出すと言うのだ。
勿論恐怖はある。
でも克服出来るのは今しかないとシュナの直感がいっている。
それに誰よりも頼りになるイアンがいる。
じわりと這い上がる媚薬の効果が徐々に顕著に反応を示し始める。
一つ深呼吸したシュナが化粧っ気のない顔で、魅惑的な微笑みを返す。
「それなら変異種のイアンにも多大なるトラウマを植え付けてみせましょう。私以外にその凶悪な雄が勃たなくなると言うのは如何?」
「良いねぇ。乗った」
イアンが子供のように微笑んで顔を寄せた。
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