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拙い孔雀 4
午後になりようやく足腰が動いて来た時、治療後の確認だとスーランが離れに訪れてくれた。
「スーラン…!」
ちょっと足元が覚束ない足取りだが、シュナはスーランに飛びつく。
「シュナ。克服は上手くいったみたいだね」
頭を優しく撫でられながらかけられた言葉にシュナは微笑んで頷いた。
スーランがあの場に共に居たことは僥倖だったとイアンから聞いていた。
遠征から戻ったイアンがポックから事の次第を聞き、駆け出してあのまま一人で行っていたらかなり後々色々と大変なことになっていたと言う。
そしてその場にはイアンの親友のフェリウスも共に居てイアンの暴走を止めてくれたのだと。あの現場を見られたことはそれなりにきついが、そこはもう気にしないことにしていた。
スーランはシュナの全身を隈無く調べてくれた後に「うん。薬の後遺症も無し。まあ私が治したから当たり前なんだけど。一応ね」と頭をよしよしされながら追加の避妊薬と薬漬けになった身体の調子を戻す栄養剤を貰った。
「そうだ。スーランはもう必要ないけど、番避けの薬持ってないかな?」
家に戻ればあるが、毎朝日課のように飲んでいたので聞いてみると、スーランはゆっくりと首を傾げて「必要ないよ、もう」と言われたのでシュナも首を傾げる。
そして今日何度目かの驚きの真実を聞くことになった。
「シュナはそこの狡猾な孔雀と番絆だってわかったから」
「え」
「スーラン!」
イアンが驚いて止めるが、スーランは「けっ」とでも言いたげに失笑した。
「この孔雀はビビリでさ。シュナに色々あっても変わらずこいつが望む理由に番の本能とか僅かにでも思われたくなくて、シュナに内緒で番消しを勝手に飲もうとしてるんだよ」
「ちょっと!何でそこまで勝手に―――」
「言うなって言われてないし。言われても言うし。シュナの方が大事だから」
間髪入れないスーランの返しにイアンが呆然とする。
「今回屋敷内までしか分からなかったのに、すぐにシュナを見つけられたのはイアンが番だと分かって匂いを辿ったからこそ。今後もそういうことがあった時の一番の手段になるのに、この孔雀は捨てようとしたんだ」
「そうならないように前もって手を打つし!」
「絶対大丈夫なんて無いんだよ小心者が。それを聞いてまた壁を作るとか思っている時点でお前はシュナを侮っている。そこまで弱くないんだよ、私の大事な友人は」
確かにイアンからすれば番だからこそと言う何かがもしかしたら根底にあったのかもしれない。
でも番避けの薬を飲んでいた時からイアンは変わらなかったし、今も何も変わらない。強いて言うなら想いが通じて甘えん坊になったくらいで、それが番の影響か否かなんて正直シュナはどちらでも構わない。
スーランは己の中で納得出来ないことは真っ向から対立する術を持ち勝率はほぼ全勝だと聞いていた。狡猾なイアンですら状況によっては苦戦しそうだ。
スーランは帰る際に「番絆でも番縁でもどっちでも良いけど孔雀の能力はそれなりに使えるから番絆の方をお薦めする。それに相手が番であるなら人族にとってある意味最強なだけなんだけどね」と言って去っていった。
容赦ないスーランにボロクソに言われたイアンは寝台で横になり顔を大きなクッションに埋め不貞腐れているようだ。
何だかその姿が今までのイアンからは想像できなく異様に可愛くて仕方がない。
人族のシュナは番への影響が無い。
イアンと出逢って彼の人となりを知ってこうして今共に居たいと望むのだ。
それはイアンも同じだと思っている。
番だから助けた。
番だからどんなに穢れていても問題ない。
番だから共に居たい。
イアンとしては番効果で行動したと思われることが我慢ならないのだろう。
でもその根底にはシュナの気持ちを慮るという前提があるのだ。
出逢いが番からではないのだから気にしないのになぁとシュナは思いながらも不貞寝モードに突入しているイアンの正面に移動するとぷいっと向きを変え背を向けた。起きているようだ。
もう行動そのものが萌え要素満載である。
イアンの変異種の話あたりから時折覗く拙い話し方がシュナとしては堪らない。更に今度はこうして行動に表れているところが堪らなさ上乗せだ。
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