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害悪の全ては虚構也 1
しおりを挟むエリックとスーランは共に地下牢のアーロの元に来ていた。
牢番が一つ頷き牢の鍵を開け、スーランが「エリックは入らないで。万が一かかったら困るからね」と言いながら中に入っていくのをエリックは首を傾げて見ていた。
アーロは自白剤の効果が強かったようで気を失っているようだ。
「何するの?」
「事が始まる前に先に私が報復させてもらう。こいつの雄は不要。シュナを見て勃ちでもしたら滅多に使わない攻撃魔術ぶっ放しそうだし」
コツコツと緩慢に歩きながらスーランがアーロの目の前で止まり、綺麗に一纏めにしてあった腰までの美しい琥珀色の髪を解く。
ゆっくりと首を回したスーランの瞳が突如爛々とした輝く藍色の瞳に変化し、体から淡い色の禍々しい魔力がぶわりと顕現しエリックと牢番の全身の肌が総毛立つ。
あまりの魔力の蠢きにアーロも目を覚まし、目の前に居た見知らぬ女の顔が美しくも不穏な魔力を纏っている様に腫れ上がった顔が驚愕する。
解いた髪が魔力で揺らめき、殊更ゆっくりと手をアーロに翳したスーランの口からいつもの声が何重にも重なるように聞こえてきた。
《我が魔の力を以て汝の昏く不束なる欲望の芽を摘みてみせむ。汝の腐りし心根がいづればかり絶望の声を上ぐるや目の前に見せよ》
翳した手から放たれた夥しい魔力がアーロの全身を包んだ。
「―――っ!う、ぅう…」
猿轡をされているアーロの顔は歪み腕を縛る鎖がガチャガチャと不快な音を奏でる。
アーロを纏っていた魔力の織が下半身に集中し濃くなってからじゅわりと消えていった。
その様子を瞠目しながら見ていたエリックが呟く。
「あんた…とんでもないものを…それって禁呪の類じゃ…」
その言葉にスーランが一息吐いてからゆっくりと振り返る。その姿はいつもの彼女だ。
「最大魔力の半分持っていかれたけどギリ手前。国王にはこの前の式典の私とバウデンのもらってない褒章代わりってことで一回だけ許可もらった」
「褒章使ったの…」
「バウデンもかなりご立腹だから。私の大事な友人、そして彼女の作る香油は公爵家では必需品の一つになってるからね」
スーランは首を回しながら「部屋はこの真上あたりって言ってたよね」と言い、目を閉じながら指先を巧みに動かし魔術を編み始めた。
式典の件で魔力の器が小さくなってしまったスーランだが、エリックは改めて彼女の魔術の能力の高さと精巧さに目を見張る。
スーランはアーロの前にある鉄格子付近に薄く光る円形のものを顕現させた。そこにはまだ誰も居ない寝台がある一室が見える。
「よし、おっけー。エリック、牢番はちょっとだけで良いから離れてもらって。音無しだけど二人のあれこれ見えたら彼消されちゃうから」
エリックは頷き、顎で振ると一礼した牢番が入口付近に移動した。
「スーランはここに?」
「直接見はしないよ―――――私はこれが悶え苦しむ様の一部始終を見たいんだ」
スーランのアーロを見る表情はまるで汚物でも見るように蔑んでいる。
そしてそれはエリックも同じだ。
「良いわね。良い見世物が見れそう」
「でしょ。あとで面白可笑しく教えてあげるんだ」
「私も参加ね」
「美味しい酒飲みながらやろう」
「乗った」
エリックが牢番に手振りで指示し、警備用に使用する椅子が二つ用意された。
*****************
「ここだ。音が漏れる心配はない」
デュークが扉の前で視線で部屋を示した。
「ありがと、デューク」
「お前は強いな」
マンダリン色の瞳が僅かに揺らめく。
「それはデューク始め皆のおかげ。私は皆に見守られてここまでこれたって実感してる。これが集大成。巷で轟かせた異名を以てやり遂げて見せましょう」
そう言って艷やかに微笑みくびを僅かに傾げたシュナにデュークも僅かに首を傾げた。
「仕留めてこい。二度と浮上できないように」
「ふふ。了解」
「よーし、シュナとどめ刺そー」
「了ー解」
イアンが扉を開けシュナは共に中に入った。
部屋の中は大きな寝台があり、他にはシンプルな机やソファのみ。
「ここって外と中の雰囲気が違うって感じた」
「そうだね。ここはとある専門の施設。ちゃんと国の手が入っているから安心して良いよ」
シュナが知るものはほんの一部であり、バロアス王国を守っているのは三強部隊だけではないということだろう。
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