トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

文字の大きさ
105 / 140

害悪の全ては虚構也 1






エリックとスーランは共に地下牢のアーロの元に来ていた。
牢番が一つ頷き牢の鍵を開け、スーランが「エリックは入らないで。万が一かかったら困るからね」と言いながら中に入っていくのをエリックは首を傾げて見ていた。

アーロは自白剤の効果が強かったようで気を失っているようだ。


「何するの?」
「事が始まる前に先に私が報復させてもらう。こいつの雄は不要。シュナを見て勃ちでもしたら滅多に使わない攻撃魔術ぶっ放しそうだし」


コツコツと緩慢に歩きながらスーランがアーロの目の前で止まり、綺麗に一纏めにしてあった腰までの美しい琥珀色の髪を解く。

ゆっくりと首を回したスーランの瞳が突如爛々とした輝く藍色の瞳に変化し、体から淡い色の禍々しい魔力がぶわりと顕現しエリックと牢番の全身の肌が総毛立つ。

あまりの魔力の蠢きにアーロも目を覚まし、目の前に居た見知らぬ女の顔が美しくも不穏な魔力を纏っている様に腫れ上がった顔が驚愕する。

解いた髪が魔力で揺らめき、殊更ゆっくりと手をアーロに翳したスーランの口からいつもの声が何重にも重なるように聞こえてきた。


《我が魔の力を以て汝の昏く不束なる欲望の芽を摘みてみせむ。汝の腐りし心根がいづればかり絶望の声を上ぐるや目の前に見せよ》


翳した手から放たれた夥しい魔力がアーロの全身を包んだ。


「―――っ!う、ぅう…」


猿轡をされているアーロの顔は歪み腕を縛る鎖がガチャガチャと不快な音を奏でる。

アーロを纏っていた魔力の織が下半身に集中し濃くなってからじゅわりと消えていった。

その様子を瞠目しながら見ていたエリックが呟く。


「あんた…とんでもないものを…それって禁呪の類じゃ…」


その言葉にスーランが一息吐いてからゆっくりと振り返る。その姿はいつもの彼女だ。


「最大魔力の半分持っていかれたけどギリ手前。国王にはこの前の式典の私とバウデンのもらってない褒章代わりってことで一回だけ許可もらった」
「褒章使ったの…」
「バウデンもかなりご立腹だから。私の大事な友人、そして彼女の作る香油は公爵家では必需品の一つになってるからね」


スーランは首を回しながら「部屋はこの真上あたりって言ってたよね」と言い、目を閉じながら指先を巧みに動かし魔術を編み始めた。

式典の件で魔力の器が小さくなってしまったスーランだが、エリックは改めて彼女の魔術の能力の高さと精巧さに目を見張る。

スーランはアーロの前にある鉄格子付近に薄く光る円形のものを顕現させた。そこにはまだ誰も居ない寝台がある一室が見える。


「よし、おっけー。エリック、牢番はちょっとだけで良いから離れてもらって。音無しだけど二人のあれこれ見えたら彼消されちゃうから」


エリックは頷き、顎で振ると一礼した牢番が入口付近に移動した。


「スーランはここに?」
「直接見はしないよ―――――私はこれが悶え苦しむ様の一部始終を見たいんだ」


スーランのアーロを見る表情はまるで汚物でも見るように蔑んでいる。

そしてそれはエリックも同じだ。


「良いわね。良い見世物が見れそう」
「でしょ。あとで面白可笑しく教えてあげるんだ」
「私も参加ね」
「美味しい酒飲みながらやろう」
「乗った」


エリックが牢番に手振りで指示し、警備用に使用する椅子が二つ用意された。



*****************




「ここだ。音が漏れる心配はない」


デュークが扉の前で視線で部屋を示した。


「ありがと、デューク」
「お前は強いな」


マンダリン色の瞳が僅かに揺らめく。


「それはデューク始め皆のおかげ。私は皆に見守られてここまでこれたって実感してる。これが集大成。巷で轟かせた異名を以てやり遂げて見せましょう」


そう言って艷やかに微笑みくびを僅かに傾げたシュナにデュークも僅かに首を傾げた。


「仕留めてこい。二度と浮上できないように」
「ふふ。了解」
「よーし、シュナとどめ刺そー」
「了ー解」


イアンが扉を開けシュナは共に中に入った。


部屋の中は大きな寝台があり、他にはシンプルな机やソファのみ。


「ここって外と中の雰囲気が違うって感じた」
「そうだね。ここはとある専門の施設。ちゃんと国の手が入っているから安心して良いよ」


シュナが知るものはほんの一部であり、バロアス王国を守っているのは三強部隊だけではないということだろう。





あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。