トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

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小さな希いが特大に 1





この日、遠征続きがようやく一段落し休暇を取ったイアンから「ちょっと行きたいところが数カ所あるんだー」と言われ手を繋ぎながら、街へ来ていた。


「っ!シュ、シュナさん…!」


一つ目に来たところはシュナがいつも通っていた花屋。

そこにはもう一人前といっても過言ではないくらいに仕事をこなしていたポックが店頭に立ち、祖母のデリカは奥のカウンターに座っていた。


「こんにちは、ポック。デリカさん、もう一人で店任せられるんじゃない?」


シュナが微笑みながら、涙ぐんでいるデリカに話しかける。


「シュナちゃん…!」
「ふふ。デリカさんもポックも感動し過ぎ。無事イアンに捕獲されました!」
「あはは。しっかり捕まえてきたー」


シュナはイアンに何も起こらずに無事だったということにしておいて欲しいと頼み、彼も賛成し話を合わせてくれている。


「シュナさん…!僕、僕本当に最低なことに――――」
「ポックのおかげで隣国の極悪人が捕まったの」
「!」
「ありがとう。私ようやく解放された」
「っ…うぅ、シュナ、さん…」


ポックはぼろぼろと涙を溢すも、自分が泣くべきではないと袖で何度も拭っている。


「シュナちゃん、良かった…」
「ふふ。デリカさんも心配かけちゃってごめんなさい」
「何言ってるのよ…!本当に…っ、良かった」


デリカもポックから聞いていたのだろう。目元を覆いながらも何とか笑顔を見せようとしてくれることに、シュナは温かい気持ちになる。


「さてさて、ポック君、頼み事はもう出来てるかい?」
「っ、はい!今朝全て終えてます!」
「良いねー仕事早いなぁ」
「少しでもお役に立てたなら!」
「うん。これからもシュナの好きな花の入荷よろしくね」
「はい!」
「頼み事?」


シュナの疑問にイアンは「これから案内するよ」と微笑み花屋を後にした。

手を繋ぎ機嫌良さそうな足取りで歩くイアン。


「薬屋からも伯爵家からもそんなに遠くないかなー」


花屋から伯爵家に戻る道のりの途中で逸れた道を歩きながらイアンが口に人差し指を当てシュナを見てくる。何だかとても楽しそうなので、きっとシュナも楽しいことに違いない。

少しわくわくしながらついていくと、家と家との間隔が離れた少し閑静な住宅街に出た。

更に少し歩いた先。

シュナはまさかと思いながらも、イアンに手を引かれながらついて行った場所は。


近づく家の一つ―――――シンプルな造りで、まるでシュナの理想とするような大きくない屋根裏部屋がある平屋の家。


ノスタルジック風な少し古めの造りに敢えて見せているのに、可愛らしい出窓や少し広めの庭。

花を一望できるだろうテラス。

アンティークな柵に囲まれた沢山の花壇。



そしてその一画には。

色とりどりのアネモネの花。

シュナの大好きな花々。



シュナは思わず足を止め、その光景に魅入られてしまう。


シュナが脳内だけで思い描いていた家そのものだった。


「ターニャに幾つか候補を探してもらっててさ。全部観に行ったんだけど、ここが一番ピンときたんだ。ここからだと薬屋も伯爵家にも然程遠くない」


瞬きすら忘れて見ているシュナ。
愛しくて仕方ないという風に微笑むイアンが固まっているシュナをふわりと抱き上げる。

それでもシュナはそのまま家を見続けている―――――口元を震わせて目元を潤ませながら。


「ポック君にちょっと急がせちゃったけど花壇にアネモネだけ無理言ってお願いしたの。喜んで引き受けてくれた。彼かなりセンス良いかも。後はシュナの好きな花を好きに育てていこうね」


シュナの頬に雫が落ちる。


「花壇は取り敢えずテラス側だけなんだけど、裏側も同じくらい作れるくらい広さはある。花壇でも…子が生まれた時に家を拡張しても良い」


叶うことなんて夢のまた夢だと思っていた―――小さな夢が大きくなり、希っていた以上の素敵な家と庭となって。

その先…家族が増えるかもしれない未来まで考えてくれて。

シュナは喉を震わせながら家と庭から目が離せない。


「早くシュナと暮らしたくて僕の独断で褒章使って買っちゃった。許してくれる?」


抱き上げたイアンが首を傾げシュナを見る。
シュナだけに見せる優しく慈しみ深い表情で。


シュナはイアンの顔を見ながらぼろぼろと涙を流す。


「っ、…こん、な、理想以、上の、家が…びっく、り…嬉し過ぎて言葉、が―――」


シュナはイアンの前で何度幼子のように泣いてしまうのだろう。

だがイアンはそんなシュナの顔をそれは愛しそうに見つめ頬を撫でながら涙を拭ってくれる。


「じゃあ、ここ。僕達の家にしても良い?」
「う、…ん、…うん!」
「決まりー。数十年――よぼよぼになる頃までには律儀に半分返していってね?」
「っ、うん…!」


シュナは顔を歪ませてまるで子供のように嗚咽してしまう。

子供のように―――――昔から住みたかった家を体現したような理想の小さめの素敵な家だ。


「あー本当にかーわい」


イアンが優しく抱き締めてくれる。


「シュナがさ。そうやって僕の前でだけ感情剥き出しにしてくれるのが好き。これからも出してもらえるように頑張ろーっと」


イアンがシュナの頬に顔を寄せながら、夢のような家に近づいていく。





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