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小さな希いが特大に 2
シュナは涙で歪む視界を何度も瞬きさせながらイアンとこれから二人で住む家をじっと見つめる。
カチャリと大きくない扉を開けると、中はとても陽当たりが良く日中は灯りが要らないくらいに明るい。
平屋だが屋根裏部屋が多く、部屋としても使えるらしい。
裏側の庭も広く家を拡張しやすそうな造りだ。家から少し離れた場所に小さな小屋まである。
居間の一番奥にある寝室に入るとそこには大きな寝台。何故かそこだけすぐ使えるようにものが揃っている。
「今日中に引っ越しても良いようにここだけはすぐ使えるようにしておいたんだーエリックには事前に言ってあるしねー」
知らぬ間に周りを巻き込んでいるイアンに相変わらず用意周到だなとシュナは笑ってしまう。
「ふふ。何だか凄すぎて早すぎて驚きっぱなし」
「まあまあ使えるでしょ?僕」
「有能な旦那様過ぎる」
その言葉にイアンは目を丸くさせ、ほろりとそれは幸せそうに微笑んだ。
「…それ嬉しいな。早く番絆の申請行かなきゃー」
「―――イアン。ありがとう」
シュナは頬を包んで軽い口づけをすると、イアンは微笑みながら珍しく頬が僅かに赤らむ。
「ヤバい。何だろう…凄く嬉しい」
「私もヤバい。幸せ過ぎて」
額を合わせながら二人でくすくすと笑い合っていると、寝室の扉がノックされた。
「あ、ターニャかな。入って良いよー」
扉がゆっくりと開きイアンの予想通り外出着のターニャが居た。
「準備は?」
「はい。手筈通りに」
「準備?」
「うん。今日から暮らせる最低限のものは揃ってるよ」
「え」
驚いてターニャを見ると、一つ頷いている。
「外に小屋あったでしょ?」
「え、うん」
「あれ人一人住めるように急いで作らせたんだ」
「え」
確かに物置小屋にしては広いとは感じていた。
「伯爵家お抱えの職人に三日で作らせた」
「ぇ」
「基本私が住みます」
シュナが驚いてターニャを見る。
「でも、ターニャは伯爵家の…」
「ターニャは僕専用のメイドなの。僕以外の命令一切聞かないし」
「はい。イアン様専属―――今後はシュナ様と二人の専属です」
「え、ちょっとマジで様とか止めて!」
「無理です」
問答無用で返されたターニャにイアンを見ると少し眉を下げて微笑む。
「ターニャはその辺の暗殺者より強いんだよ」
「ぇ」
シュナは本日何度この一文字を発するのだろう。
「僕が今後遠征とかで居ない場合はターニャがシュナの傍に居る。小屋の方には伯爵家の暗部ね。これで警備は完璧ー」
シュナはもう言葉が出ない。
それで良いのかとターニャを見ると「私の仕事が失くなってしまいますので」と言われてしまえば断れないではないか。
「本当は遠征も行かずにずっと定時に帰りたいけどねー」
その言葉にシュナはこてんと首を傾げる。
「…イアンは遠征が好きって思ってた」
「え?」
「何ていうか外であれこれ仕事してる方が楽しいのかなって。好きな仕事を止めて欲しいとは思わないし、遠征先の色々な話も聞ける」
頬を撫でながらそう伝えると、目を丸くしたイアンがふわりと微笑む。
「…確かにそうかも。でもシュナが僕の一番最優先なんだよ」
「うん。最優先にしてくれる私の願いはイアンが好きなことをすることだよ」
イアンが瞠目し、ぎゅっとシュナを抱き締めてくる。
「僕の伴侶は最高峰。遠征行っても短めのにしよー。我慢出来なくなってさっさと終わらせようと無駄に死人増えちゃうかもしれないし」
それは是非そうしてもらおう。毎度無駄に死人が増えたら色々大変だ。
「じゃあ、この後は買い物と引っ越しね」
「え、本当に今日中に?」
「勿論。ターニャ、あと頼むねー」
「承知いたしました」
シュナは結局一度も足を下ろすことなく、イアンに抱っこされたまま外に出た。
****************
「行動早過ぎよ」
エリックが呆れたように肩を竦める。
「一つ屋根の下に雄が居るんだから当然」
「あんたねぇ…身内でしょうに」
「そうだけど僕に匹敵する身内は同等かなー」
堂々と身内を敵だと認定するイアンにシュナは苦笑するしかない。
「やれやれね。――――シュナ、香油の方はちゃんとよろしくね」
「それは当然!私の大事な収入源だからね―――あ、今度新しく石鹸も作ってみようと思うんだ。まだ試作品も作ってないから確定ではないけど」
「あら。良いじゃない。シュナなら肌だけでなく香りも良いもの作ってくれそう」
「うん。そうなれるようにちょっと頑張ってみる」
エリックはゆっくりとシュナの頭に手を乗せて優しく撫でてくれる。彼の大きな手はいつも温かかった。
「シュナの幸せを願う」
「エリック、ありがとう。お世話になりました!」
エリックは眉を下げながら少し寂しそうに…でも嬉しそうに微笑んでくれた。
「そのうちデュークにも挨拶してやって」
「ふふ、勿論。イアンと一緒に行ってくるよ」
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