君を手放した罰は、永遠の溺愛で償う〜冷徹社長の元カノ復讐劇〜

nacat

文字の大きさ
17 / 30

第17話 真実を暴くプレゼン資料

しおりを挟む
月曜の朝、空はどんよりと曇っていた。空気が重く沈み、冬の冷気がビルのガラスに積もるかのようだった。  
持田グループの会議室では、本会議の準備が進んでいる。今日、怜司の去就が決まる。専務側の更迭案が可決されるか、否決されるか。それはこの数時間の戦いにかかっていた。  

紗耶は早朝から会社に入り、最終資料の確認をしていた。  
プレゼンテーションの主担当は怜司、サポートに彼女。  
けれど今回の資料には、誰も知らない最後のページが追加されている。怜司から直接指示されたもの。  
「俺たちの“証拠”として、最後のスライドを見せろ。」  
その一言を受けて、徹夜で作成した。内容を知るのは二人だけ。  

午前九時、役員会が始まる。  
取締役全員、親会社の幹部、そして親会社代表・森園専務も顔を揃えていた。  
円卓の中央には怜司。その隣には紗耶の姿がある。  

「では、これより持田グループ新ブランド統合事業に関する最終審議を開始します。」  
議長の声とともに、会議室のドアが閉じられた。  
怜司は立ち上がり、プレゼン用のリモコンを握る。  
「経営判断に必要なのは恐れではなく、可能性への投資です。今日、私はこの会社の未来を示します。」  
スクリーンに資料が映し出される。  
冒頭のデータは営業統括部と広告統合部が集約した“最新市場分析”。  
グラフの波形が整然と並び、進行とともに数字が上下する。誰もが息を呑んだ。  

「売上低迷は購買層の変動ではなく、広告戦略の“古さ”にあります。」  
怜司の声が低く響く。  
「年齢に合わせて変えなければいけないのは商品ではない。言葉とメッセージだ。人の心を動かす広告を創るために、我々は再構築を行いました。」  
その言葉に一部の役員が頷く。  
次々とデータが切り替わり、社員たちの努力、チームワーク、顧客ヒアリングの映像が流れる。  

最後のページ。  
怜司が静かにリモコンを渡した。  
「水城、頼む。」  
紗耶の手が震えたが、すぐに顔を上げる。  
「はい。」  
一瞬の沈黙のあと、新しいスライドが表示された。  
タイトルは「事実の検証」。  
画面には内部通信の記録と、森園専務の側近から流出した情報経路の図。  
社内から流された“社長失脚計画”のメールログが赤字で浮かんでいる。  

会議室がざわついた。  
「これは……何の意味だ?」  
「証拠です。」怜司の声が響く。  
「森園専務、あなたが私を排除するために親会社の情報部を利用した証拠です。」  
専務が椅子を軋ませる。  
「何を馬鹿なことを……!」  
「発信元アドレスも照合済み。あなたの秘書の端末から今日の未明に削除されたデータです。」  
怜司が画面を指さす。スクリーンには技術部門が抽出したデジタル署名が映し出されていた。  

会議室が沈黙し、空気が変わった。  
誰もが理解する。社長を貶めようとしたのは、森園側だ。  

「私は誰も敵に回すつもりはありません。」怜司の声は静かだった。  
「ただ、守りたい。この会社を、そして社員を。夢を笑う経営陣より、夢を信じる現場を支えたい。それが私の経営方針です。」  

沈黙のなかで、専務の顔色が変わる。  
「証拠がどうした。経営判断の甘さは事実だろう!」  
怜司はゆっくり首を振った。  
「甘さではなく、人間らしさです。」  
その言葉に何人かの役員が息を呑む。  

「この事業を支えてきた社員は、みな一人の理想を信じて動いた。恐れず挑戦する力こそが企業の本質です。」  
スクリーンには一枚の写真が映し出される。  
開発メンバーたちが笑顔で立つ集合写真。  
その中央に、自信ありげに立つ紗耶の姿。  
「彼女は私の秘書であり、仲間であり、夢を守る者の象徴です。私は彼女の提案を採用し、このブランドを完成させる。誰も、誰かの信念を嘲笑うことは許さない。」  

会議室の空気が凍りつき、そして静かに拍手が起こった。  
最初に動いたのは、経理部長だった。  
「社長の案に賛成します。」  
続くように3人、5人と右手が上がっていく。  

森園専務の眉間が歪む。  
「……まだ終わっていない。社長、更迭案の採決だ。」  
議長が確認を取る。だが多数決の結果は明白だった。  
反対9、賛成4。更迭案は否決。  

静まり返る中、怜司がゆっくり頭を下げた。  
「ありがとうございます。これで、ようやく一歩進めます。」  

会議解散後、廊下で森園美沙が待ち構えていた。  
白いスーツ姿、完璧な笑顔のまま、怜司に近づく。  
「素敵な演説だったわ。まるで映画ね。でも、あれで父を敵に回した。もう後戻りはできないわよ。」  
「覚悟している。」  
「その覚悟に、あの子も付き合ってくれるのかしら?」  
美沙の視線が紗耶に向く。  
「あなた、社長の正義感を甘く見ないほうがいい。愛よりも正義を選ぶ男よ。いずれ一番近いあなたが、一番遠くに置かれる。」  
そう囁いて立ち去った。冷たい香水だけが残る。  

怜司は何も言わずに会議室をあとにした。  
廊下を歩きながら、わずかに笑みを浮かべた。  
「勝ったな。」  
そう言いながらも、その声には疲れが混ざっていた。  

エレベーターの中で紗耶が口を開いた。  
「……本当に、これで終わりですか?」  
怜司の横顔が暗い影を帯びる。  
「いや。これからが始まりだ。向こうは必ず報復する。」  
「報復……?」  
「正面の戦いじゃない。もっと静かなやつだ。噂、裏取引、世論操作。どれも俺には効かないが――」  
視線が紗耶に向く。  
「お前には攻撃するかもしれない。」  

紗耶は一歩前に出た。  
「大丈夫です。守ってもらわなくても、私は逃げません。」  
「強くなったな。」  
「あなたが弱音を吐けなくなるほど、私が強く支えます。」  

怜司が一瞬だけ顔をそむけ、笑った。  
「……それは頼もしい反面、怖い言葉だ。」  

外はまだ雨が降っていた。  
窓の外で雫が落ちる音のなか、紗耶はふと彼の横顔を見上げる。  
心の奥で、自分が知ってしまった彼の弱さに触れる。  
誰よりも完璧で、誰よりも脆い。  
そのギリギリの人間らしさが、彼の最大の武器であり、最大の弱点なのだ。  

エレベーターが止まり、扉が開く。  
怜司が歩き出す背中に、紗耶の静かな息が重なった。  

雨音の向こう、遠くで嵐の兆しが鳴る。  
この勝利のあとに訪れる嵐が、二人の関係を新たな段階へ引きずり込もうとしていた。  

(続く)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

処理中です...