婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat

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第24話 真実の裁きの日

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王都に春の兆しが訪れようとしていた。  
長い冬が明け、冷たい空気が光に溶けるように柔らかく変わりはじめたころ。  
王城の正門には、集まる民衆の列が続いていた。  

「今日、“王国裁定”が開かれるらしいぞ。」  
「リリアナ様の無実が正式に証される日だって聞いた。」  
「公爵様もおいでになるとか……。」  

誰もがその瞬間を見ようとしていた。  
王家の権威を揺るがした北方の事件と、それに関係する人々の運命。  
それはこの国の未来を決定づける一日になると誰もが理解していた。  

***

王城の大広間では、重厚な扉の前に集まる人々の緊張が張りつめていた。  
壇上に立つのは、玉座に座した国王の代理として執務を行う王太子アルベルト。  
その姿は以前のような傲慢な輝きではなく、静かに苦悩を滲ませている。  

殿下の前へと、白い衣をまとったリリアナが進み出た。  
彼女の傍らにはセドリック・エルシャルト公爵が控え、凛とした気配を放っていた。  
場内にざわめきが走る。  

リリアナは深く一礼し、王太子へと視線を向けた。  
「アルベルト殿下。私はこの場で、貴方のお言葉をお伺いします。」  

「……よい。」  
アルベルトの声は低く、しかしはっきりと響いた。  
「リリアナ・アーデルハイト。  
お前を誤って罪人のように断罪したこと、そして多くの恥辱を与えたことを、王家の名において詫びたい。  
私は己の愚かさゆえに真実を見誤った。」  

場が静まりかえる。息を呑む気配が広がった。  

リリアナは首を横に振った。  
「それはもう、過ぎたことです。  
私がここに来たのは、過去を責めるためではありません。  
この国が再び、誰かを同じように傷つけぬようにするためです。」  

「……どういうことだ?」  
リリアナは壇上を見上げたまま続ける。  

「明確な罪がなくても、人は噂で殺されます。言葉ひとつで名誉を奪われます。  
私はそれを身をもって知りました。  
お願いです。どうかこの国に、真実を守るための機関を設けてください。  
力ある者が下した“言葉”だけで人の価値を決めないように。」  

その声は決して高くはなかったが、確固たる信念が籠っていた。  
集まる貴族たちは顔を見合わせ、誰も安易に口を開けない。  
アルベルトの拳が震えた。  

「……確かに、お前の言う通りだ。」  
彼は俯き、静かに息を吐いた。  
「この国の“権威”は、いつしか“真実”よりも重くなっていた。  
だが、それを変えるには、剣よりも重い勇気が必要だ。  
リリアナ……お前はその勇気を持っている。」  

王太子は椅子から立ち上がると、一歩彼女の前に進み出た。  
その姿に場内の空気が震えた。  
「今後、“名誉保全審理会”を設立する。  
無実の罪を被った者を再び裁けるようにするためだ。  
――その初代代表として、リリアナ・アーデルハイト。お前に任せたい。」  

大広間に驚きの声が広がる。  
リリアナはしばし目を見開いたが、やがて落ち着いた微笑みを浮かべた。  
「……恐れながら、私は公爵家の庇護民としてこの国でようやく居場所を得た身。  
そんな大役、務まるかどうか……。」  
「それでも構わん。お前の言葉はこの国を救う。」  

リリアナの隣で、セドリックが静かに頷いた。  
「断る理由はない。彼女ほど相応しい者はいない。」  

アルベルトはわずかに寂しげに笑みを浮かべた。  
「……お前にはいつも気づかされる。  
俺が“王”ではあっても、“人”ではなかったと。」  

リリアナはゆっくり首を振る。  
「違います。それは貴方がようやく“人”になった証です。」  
彼の目に涙が浮かんだ。  

「ありがとう、リリアナ。」  
「殿下、どうか。今度こそ国を導いてください。」  

彼女の言葉が終わると、場内から自然と拍手が起こった。  
それは、かつての侮蔑や嘲笑とは対極の、真心のこもったものだった。  

***

式が終わると、王城の中庭に柔らかな陽光が降り注いでいた。  
冬の名残りがまだわずかに残る冷たい風の中、リリアナはセドリックと並んで歩いていた。  
遠くの街に鐘の音が響く。  
人々の顔には不安よりも希望の影が宿っている。  

「……これで、終わりましたね。」  
「いや、始まりだ。」  

セドリックは立ち止まり、振り返った。  
高くそびえる王城の塔を見上げながら言う。  
「お前の声は、この国の風を変える。  
俺が剣で守ることができなかった“理想”を、お前は言葉で守った。」  

彼の言葉に、リリアナは胸に温かいものを感じた。  
「私があの日、公爵様に出会っていなかったら、きっと今日の自分はいないでしょう。」  
「同じだ。あの日、雪の宿で出会わなければ、今の俺もいない。」  

二人は顔を見合わせ、ふと笑った。  
その瞬間、遠くから白い花びらが風に舞う。  
春の訪れを告げる“雪解花”の花だった。  
かつて氷の大地を照らしてきた花が、今、都の空を飾る。  

「……リリアナ。」  
「はい?」  
「お前がこの街に留まりたいのならそれでいい。  
だが、もし望むなら――一緒に北へ帰ろう。」  

リリアナは目を瞬かせ、そして微笑んだ。  
「帰る場所があるって、幸せですね。」  

彼女の言葉にセドリックが頷く。  
その眼差しには、深い穏やかさが満ちていた。  

「共に歩むと誓った。その誓いは変わらない。」  
「私も、最後までこの手を離しません。」  

手と手が触れる。  
二人の間に、確かな温もりが芽生える。  

鐘が再び鳴る。  
人々の歓声が響く王都の中で、セドリックは小さく呟いた。  
「今日のこの光景を、彼女の笑顔を、決して忘れまい。」  

空には柔らかな風が吹き、花びらが舞い上がる。  
それは祝福の風のように、二人の肩にそっと触れて消えた。  

春は始まったばかりだった。  

続く
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