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1章
17 孤児院訪問②
孤児院ではやはり、これまでとは違った様子に皆戸惑っていた。
アリシアは子どもたちを怖がらせないよう、騎士たちに離れた場所で待機するよう言いつけ、距離を取っていたけれど、これまで懐いてくれていた子どもたちも、こちらをチラチラと見るばかりで近づいて来ない。
仕方がないのでまずは大人たちに最近の様子を聞いた。
老朽化が進んでいて修復が必要な場所を確認する。薬や食料は足りているようだ。
そうしている内に、子ども達も遠巻きにしている騎士たちに慣れてきたようで、1人、2人とアリシアに近づいてくる。
「アリシア様」
呼び掛けられると、アリシアはにっこりと笑った。子ども達がホッとしたように集まってくる。
それからは子ども達の宝物を見せてもらい、輪の中心で絵本を読み、1人ずつ勉強の進み具合を見て過ごした。
和やかに過ごしていたおやつの時間。そこでまたひと悶着起きた。
孤児院ではいつもシスターが作ったクッキーを食べる。
このクッキーは運営資金とする為に、孤児院が行うバザーや近くの町で開かれる青空市で売られており、それなりの売り上げを見せている。
王宮で出される上品な菓子とはまた違う素朴な味で、アリシアはいつも楽しみにしていた。
いつもの様に出されたそのクッキーを、護衛としてついて来たルースという男が毒見すると言い出したのだ。
「毒見など必要ありません」
いくらそう言ってもルースは引かない。
それが護衛の仕事だという。
「何が入っているかわからないものを妃殿下に召し上がっていただくわけにはいきません」
言い争う二人に大人たちはおろおろし、子ども達は怯えていた。
それ以上子ども達の前で争うことはできず、仕方なく受け入れた。
申し訳なさに院長へ謝ると「こちらこそ今まで気がつかず、申し訳ありませんでした」と必死に謝られた。
帰り際、大人たちはいつもの様に道に出てきて見送ってくれたけれど、子ども達は出てこない。
これまで築いてきた信頼関係が消えてしまったのだと思うと哀しかった。
だがその気持ちは王宮が近づくにつれて怒りに変わっていった。
これは全てレイヴンのせいだ。
アリシアの外出先に口出ししたことも、余計な護衛を増やしたことも腹立たしい。
これまでの13年、アリシアのすることに関心を見せたこともなかったのに、突然干渉してきてこれまで築いてきたものを壊してしまった。
王宮に帰り着くと、馬車止まりでレイヴンが待っていた。アリシアを見てホッとした表情を見せる。
レイヴンの顔を見た瞬間、怒りが爆発していた。
「あの者を外してください!あの者の顔は二度と見たくありません!」
ルースを指してそれだけ言うと、呼び止めるレイヴンを無視して一直線に自室へ向かった。
「アリシア、入ってもいいかな?」
アリシアが自室に籠ってしばらくすると、扉を叩く音がしてレイヴンの声が聞こえた。
ルースに話を聞いてきたのだろう。
「…どうぞ」
部屋へ入ってきたレイヴンは、アリシアの隣に腰を下ろすと手を取った。
「嫌な思いをさせてごめんね。だけどルースが正しいと思う。毒見をせずに出されたものを食べるのは危険だよ」
「彼女たちが私に毒を盛るなんて、そんなことあり得ませんわ」
「アリシアが孤児院の人たちを信用しているのはわかるよ。だけど孤児院は人の出入りも多いし、入れ替わりも激しい。アリシアに悪意を持つ人間が紛れているかもしれないんだ」
「私はもう何年も、何度も、あそこへ行っているのです。みんな私を信用してくれていたのに…」
子ども達の様子を思い出す。
毒見の後、これまでと同じように一緒のテーブルでクッキーを食べていたけれど、みんな一言も話さず、俯いていてアリシアの方を見ようとしなかった。
見送りに出てきた大人たちも困惑したような、恐れるような顔をしていた。
アリシアはそれを気づかないふりをして、身にしみついた笑顔で何事もなかったように振舞い帰ってきたのだ。
気がつけば涙が溢れていた。
「アリシア!」
レイヴンが慌てた様子で腰を浮かす。
アリシアは取られていた手を振りほどいて顔を背けた。
「出て行ってくださいませ。暫くお顔を見たくありません」
「…ごめんね、アリシア。あとでまた来るよ」
少ししてドアが閉まる音がする。
一人になったアリシアは涙を止めることができなかった。
アリシアは子どもたちを怖がらせないよう、騎士たちに離れた場所で待機するよう言いつけ、距離を取っていたけれど、これまで懐いてくれていた子どもたちも、こちらをチラチラと見るばかりで近づいて来ない。
仕方がないのでまずは大人たちに最近の様子を聞いた。
老朽化が進んでいて修復が必要な場所を確認する。薬や食料は足りているようだ。
そうしている内に、子ども達も遠巻きにしている騎士たちに慣れてきたようで、1人、2人とアリシアに近づいてくる。
「アリシア様」
呼び掛けられると、アリシアはにっこりと笑った。子ども達がホッとしたように集まってくる。
それからは子ども達の宝物を見せてもらい、輪の中心で絵本を読み、1人ずつ勉強の進み具合を見て過ごした。
和やかに過ごしていたおやつの時間。そこでまたひと悶着起きた。
孤児院ではいつもシスターが作ったクッキーを食べる。
このクッキーは運営資金とする為に、孤児院が行うバザーや近くの町で開かれる青空市で売られており、それなりの売り上げを見せている。
王宮で出される上品な菓子とはまた違う素朴な味で、アリシアはいつも楽しみにしていた。
いつもの様に出されたそのクッキーを、護衛としてついて来たルースという男が毒見すると言い出したのだ。
「毒見など必要ありません」
いくらそう言ってもルースは引かない。
それが護衛の仕事だという。
「何が入っているかわからないものを妃殿下に召し上がっていただくわけにはいきません」
言い争う二人に大人たちはおろおろし、子ども達は怯えていた。
それ以上子ども達の前で争うことはできず、仕方なく受け入れた。
申し訳なさに院長へ謝ると「こちらこそ今まで気がつかず、申し訳ありませんでした」と必死に謝られた。
帰り際、大人たちはいつもの様に道に出てきて見送ってくれたけれど、子ども達は出てこない。
これまで築いてきた信頼関係が消えてしまったのだと思うと哀しかった。
だがその気持ちは王宮が近づくにつれて怒りに変わっていった。
これは全てレイヴンのせいだ。
アリシアの外出先に口出ししたことも、余計な護衛を増やしたことも腹立たしい。
これまでの13年、アリシアのすることに関心を見せたこともなかったのに、突然干渉してきてこれまで築いてきたものを壊してしまった。
王宮に帰り着くと、馬車止まりでレイヴンが待っていた。アリシアを見てホッとした表情を見せる。
レイヴンの顔を見た瞬間、怒りが爆発していた。
「あの者を外してください!あの者の顔は二度と見たくありません!」
ルースを指してそれだけ言うと、呼び止めるレイヴンを無視して一直線に自室へ向かった。
「アリシア、入ってもいいかな?」
アリシアが自室に籠ってしばらくすると、扉を叩く音がしてレイヴンの声が聞こえた。
ルースに話を聞いてきたのだろう。
「…どうぞ」
部屋へ入ってきたレイヴンは、アリシアの隣に腰を下ろすと手を取った。
「嫌な思いをさせてごめんね。だけどルースが正しいと思う。毒見をせずに出されたものを食べるのは危険だよ」
「彼女たちが私に毒を盛るなんて、そんなことあり得ませんわ」
「アリシアが孤児院の人たちを信用しているのはわかるよ。だけど孤児院は人の出入りも多いし、入れ替わりも激しい。アリシアに悪意を持つ人間が紛れているかもしれないんだ」
「私はもう何年も、何度も、あそこへ行っているのです。みんな私を信用してくれていたのに…」
子ども達の様子を思い出す。
毒見の後、これまでと同じように一緒のテーブルでクッキーを食べていたけれど、みんな一言も話さず、俯いていてアリシアの方を見ようとしなかった。
見送りに出てきた大人たちも困惑したような、恐れるような顔をしていた。
アリシアはそれを気づかないふりをして、身にしみついた笑顔で何事もなかったように振舞い帰ってきたのだ。
気がつけば涙が溢れていた。
「アリシア!」
レイヴンが慌てた様子で腰を浮かす。
アリシアは取られていた手を振りほどいて顔を背けた。
「出て行ってくださいませ。暫くお顔を見たくありません」
「…ごめんね、アリシア。あとでまた来るよ」
少ししてドアが閉まる音がする。
一人になったアリシアは涙を止めることができなかった。
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