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1章
18 初めての喧嘩①
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ひとしきり泣くと冷静さが戻ってきた。
冷静になるとレイヴンの言葉を考える余裕が出てくる。
レイヴンは孤児院を「危険な場所」だと言った。
危険な場所なんかじゃないわ
反発する気持ちと共に反論の言葉が浮かぶ。
だけどそれでは駄目だ。感情ではなく、理性で考えなければならない。
レイヴンは「アリシアは王太子妃であり、どこに悪意を持つ人間がいるかわからない」とも言った。
これは理解できる。
アリシアが王太子妃であるのは事実であり、アリシアに悪意を持つ人間がいることも事実だ。
アリシアが王太子妃であることを気に入らない人間がいる。
父であるルトビア公爵の政敵に当たる者。
自分の娘や息が掛かった女を王太子妃に据えたい者。
レイヴンに好意を持つ者。
軽く考えただけでも、何人もの顔が浮かぶ。
だけどそれは今に始まったことではない。
アリシアがまだ婚約者だった時から変わらないことだ。
否。
変わったことがある。
レイヴンの寵愛だ。
これまではレイヴンがアリシアに干渉することはなかった。
2人は不仲ではない、
だけど思いあってもいない。
かたち通りの、誰から見ても明らかな政略結婚だった。
これまでは、アダムが強い権力を握ることを警戒していた者は、アリシアがレイヴンの寵愛を受けていないことに安堵していた。
娘をレイヴンに嫁がせたいと望む者は、娘が側妃として寵愛を受ける余地があると喜び、レイヴンに好意を持つ者は、レイヴンの目に留まって側妃として迎えられることを夢見ている。
アリシアを形式上だけの妃だと軽く見ていたとも言える。
それがここ半月程で社交界を駆け巡った噂によって崩された。
アリシアを寵愛するレイヴンが、アダムやレオナルド、そして公爵家の親族を重用することは容易に想像できるし、そんな正妃がいては娘を側妃にしても寵愛を得ることは難しい。
更には、レイヴンに見初めらえて側妃になるなど夢の様な話だ。
彼らは焦りや憎しみを募らせているだろう。
側妃となった娘が生んだ王子を次の王太子にしたい者にとって、今まことしやかに囁かれている噂は致命的である。
アリシアが懐妊し、子を宿した正妃への愛情が増したのだという、あの噂である。
その噂を信じた者が、子を流そうと、もしくはアリシアごと消そうと考えてもおかしくないのだ。
アリシアはゾクリと背筋を震わせた。
「護衛が少なすぎる」と言ったレイヴン。
公爵令嬢だった頃から続けている慰問活動で、これまで危険な目にあったことはない。
郊外へ行くことにも慣れたアリシアは、嫁ぐ前から護衛の数も行程も変えていない。
アリシアの命を狙う者がいたなら、全て調べ尽くしているだろう。
アリシアを害することは簡単なことなのだ。
そこまで思い至るとあとはするっと入ってきた。
毒見をすると言ったルース。
孤児院は人の出入りが多く、入れ替わりも激しいと言ったレイヴン。
実際今日も、初めて見る顔がいくつかあった。
だけどアリシアは、それをいつものことだと思って特に疑問にも思わなかった。
もしかしたら、あの中にアリシアを殺す――子を流す目的の者がいたかもしれない。
あの孤児院のシスターは、アリシアがクッキーを好んで食べると知っている。
彼女たちがアリシアを害する計画に加担するとは思わない。
だけど悪意を隠して巧みに近づいてきた者に、知らずに話してしまうことは十分にあり得ることだ。
レイヴンは、「本当は今までも危ないと思っていた」と言っていた。
本当は……公爵令嬢から王太子妃へと身分が変わった時に、レイヴンへ相談して護衛の数や行程を改めなければならなかったのだ。
王太子妃が王宮の外で出されたものを、そのまま食べたりしてはいけなかった。
身分が変わったばかりのその時に、すべてを改めていればシスターや子どもたちも受け入れてくれただろう。
あんな顔をさせることもなかったのだ。
冷静になるとレイヴンの言葉を考える余裕が出てくる。
レイヴンは孤児院を「危険な場所」だと言った。
危険な場所なんかじゃないわ
反発する気持ちと共に反論の言葉が浮かぶ。
だけどそれでは駄目だ。感情ではなく、理性で考えなければならない。
レイヴンは「アリシアは王太子妃であり、どこに悪意を持つ人間がいるかわからない」とも言った。
これは理解できる。
アリシアが王太子妃であるのは事実であり、アリシアに悪意を持つ人間がいることも事実だ。
アリシアが王太子妃であることを気に入らない人間がいる。
父であるルトビア公爵の政敵に当たる者。
自分の娘や息が掛かった女を王太子妃に据えたい者。
レイヴンに好意を持つ者。
軽く考えただけでも、何人もの顔が浮かぶ。
だけどそれは今に始まったことではない。
アリシアがまだ婚約者だった時から変わらないことだ。
否。
変わったことがある。
レイヴンの寵愛だ。
これまではレイヴンがアリシアに干渉することはなかった。
2人は不仲ではない、
だけど思いあってもいない。
かたち通りの、誰から見ても明らかな政略結婚だった。
これまでは、アダムが強い権力を握ることを警戒していた者は、アリシアがレイヴンの寵愛を受けていないことに安堵していた。
娘をレイヴンに嫁がせたいと望む者は、娘が側妃として寵愛を受ける余地があると喜び、レイヴンに好意を持つ者は、レイヴンの目に留まって側妃として迎えられることを夢見ている。
アリシアを形式上だけの妃だと軽く見ていたとも言える。
それがここ半月程で社交界を駆け巡った噂によって崩された。
アリシアを寵愛するレイヴンが、アダムやレオナルド、そして公爵家の親族を重用することは容易に想像できるし、そんな正妃がいては娘を側妃にしても寵愛を得ることは難しい。
更には、レイヴンに見初めらえて側妃になるなど夢の様な話だ。
彼らは焦りや憎しみを募らせているだろう。
側妃となった娘が生んだ王子を次の王太子にしたい者にとって、今まことしやかに囁かれている噂は致命的である。
アリシアが懐妊し、子を宿した正妃への愛情が増したのだという、あの噂である。
その噂を信じた者が、子を流そうと、もしくはアリシアごと消そうと考えてもおかしくないのだ。
アリシアはゾクリと背筋を震わせた。
「護衛が少なすぎる」と言ったレイヴン。
公爵令嬢だった頃から続けている慰問活動で、これまで危険な目にあったことはない。
郊外へ行くことにも慣れたアリシアは、嫁ぐ前から護衛の数も行程も変えていない。
アリシアの命を狙う者がいたなら、全て調べ尽くしているだろう。
アリシアを害することは簡単なことなのだ。
そこまで思い至るとあとはするっと入ってきた。
毒見をすると言ったルース。
孤児院は人の出入りが多く、入れ替わりも激しいと言ったレイヴン。
実際今日も、初めて見る顔がいくつかあった。
だけどアリシアは、それをいつものことだと思って特に疑問にも思わなかった。
もしかしたら、あの中にアリシアを殺す――子を流す目的の者がいたかもしれない。
あの孤児院のシスターは、アリシアがクッキーを好んで食べると知っている。
彼女たちがアリシアを害する計画に加担するとは思わない。
だけど悪意を隠して巧みに近づいてきた者に、知らずに話してしまうことは十分にあり得ることだ。
レイヴンは、「本当は今までも危ないと思っていた」と言っていた。
本当は……公爵令嬢から王太子妃へと身分が変わった時に、レイヴンへ相談して護衛の数や行程を改めなければならなかったのだ。
王太子妃が王宮の外で出されたものを、そのまま食べたりしてはいけなかった。
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あんな顔をさせることもなかったのだ。
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