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プロローグ
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「婚約を解消して欲しいのです」
ダイアナにそう告げられた時、ジェレミーは耳を疑った。
ここはオースティン公爵邸の庭園である。
ジェレミーは婚約者のダイアナを迎え入れたばかりだった。
ジェレミーとダイアナは18歳。王立学園の三年生である。
二人の婚約が結ばれたのは二学年に上がる直前だった。
それ以来ダイアナは放課後毎日公爵邸を訪れている。だけどそれは次期公爵夫人としての執務を学ぶ為で、二人で過ごせる時間はほとんど無い。だから今日は久しぶりに二人でゆっくり過ごせると楽しみにしていたのに。
「………どうして?僕が何か悪いことをしたかな?」
思わず声が上ずってしまう。
二人の婚約はジェレミーの強い希望で結ばれた。
ダイアナは当初この婚約に乗り気ではなく、ジェレミーが何度も説得して受け入れてもらったのだ。
だけどジェレミーは分かっていた。
ダイアナは身分の違いを気にしているだけで、ジェレミーを想ってくれている。
だからこの婚約も決して無理矢理というわけではなく、婚約を結んでからは恋人として仲睦まじく過ごしていたのだ。
だけどダイアナは哀しそうに首を振る。
「ジェレミー様は何も悪くありません。私がいけないのです。公爵夫人はとても良くして下さいますが、毎日教えて下さることについていくのに必死で……。もう、疲れてしまいました」
「それは………っ」
二人の結婚式は、卒業式の三ヶ月後に決まっていて、あと一年も残っていない。
本来この日程は、ジェレミーと前の婚約者との間で決められたものだった。
だが、幼い頃から婚約していて準備を進めていた前の婚約者とは違って、ダイアナが次期公爵夫人としての教養を身につけるには時間が足りない。一年程予定を遅らせた方が良いのではないか、という両親の言葉を押し切り、話を進めたのは早くダイアナと結婚したいというジェレミーの我儘だった。
以前話した時はダイアナも「私も早く結婚したいので頑張りますわ」と言ってくれていたけれど、毎日公爵邸に通う日々は想像以上に過酷なものだったのかもしれない。
「わかった。結婚式の予定を遅らせるように両親に話してみるよ。一年くらいなら延ばせると思う。それ以上遅らせるのは……」
「いいえ、いいえ!もう無理なんです!本当に、もう無理なんです……っ!」
ジェレミーの言葉はダイアナの悲鳴混じりの声に遮られた。
「大きな声を出してしまってごめんなさい。だけど今日はこれを伝える為に来たのです。もちろん、身分の低い我が家から婚約の解消を願い出るなんて無礼なことはわかっています。両親もきっと許してくれないでしょう。ですが、このまま続けることはできません」
ダイアナは小刻みに体を震わせ、何かに耐えるようにして首を振る。
「今日はもう帰ります。どうかお咎めは私だけに。アドラム伯爵家はお見逃し頂けますようお願い致します」
その言葉にジェレミーの頭は真っ白になった。
ダイアナをどのように見送ったのかも覚えていない。
気がついたら一人、庭園で立ち尽くしていた。
ダイアナにそう告げられた時、ジェレミーは耳を疑った。
ここはオースティン公爵邸の庭園である。
ジェレミーは婚約者のダイアナを迎え入れたばかりだった。
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二人の婚約が結ばれたのは二学年に上がる直前だった。
それ以来ダイアナは放課後毎日公爵邸を訪れている。だけどそれは次期公爵夫人としての執務を学ぶ為で、二人で過ごせる時間はほとんど無い。だから今日は久しぶりに二人でゆっくり過ごせると楽しみにしていたのに。
「………どうして?僕が何か悪いことをしたかな?」
思わず声が上ずってしまう。
二人の婚約はジェレミーの強い希望で結ばれた。
ダイアナは当初この婚約に乗り気ではなく、ジェレミーが何度も説得して受け入れてもらったのだ。
だけどジェレミーは分かっていた。
ダイアナは身分の違いを気にしているだけで、ジェレミーを想ってくれている。
だからこの婚約も決して無理矢理というわけではなく、婚約を結んでからは恋人として仲睦まじく過ごしていたのだ。
だけどダイアナは哀しそうに首を振る。
「ジェレミー様は何も悪くありません。私がいけないのです。公爵夫人はとても良くして下さいますが、毎日教えて下さることについていくのに必死で……。もう、疲れてしまいました」
「それは………っ」
二人の結婚式は、卒業式の三ヶ月後に決まっていて、あと一年も残っていない。
本来この日程は、ジェレミーと前の婚約者との間で決められたものだった。
だが、幼い頃から婚約していて準備を進めていた前の婚約者とは違って、ダイアナが次期公爵夫人としての教養を身につけるには時間が足りない。一年程予定を遅らせた方が良いのではないか、という両親の言葉を押し切り、話を進めたのは早くダイアナと結婚したいというジェレミーの我儘だった。
以前話した時はダイアナも「私も早く結婚したいので頑張りますわ」と言ってくれていたけれど、毎日公爵邸に通う日々は想像以上に過酷なものだったのかもしれない。
「わかった。結婚式の予定を遅らせるように両親に話してみるよ。一年くらいなら延ばせると思う。それ以上遅らせるのは……」
「いいえ、いいえ!もう無理なんです!本当に、もう無理なんです……っ!」
ジェレミーの言葉はダイアナの悲鳴混じりの声に遮られた。
「大きな声を出してしまってごめんなさい。だけど今日はこれを伝える為に来たのです。もちろん、身分の低い我が家から婚約の解消を願い出るなんて無礼なことはわかっています。両親もきっと許してくれないでしょう。ですが、このまま続けることはできません」
ダイアナは小刻みに体を震わせ、何かに耐えるようにして首を振る。
「今日はもう帰ります。どうかお咎めは私だけに。アドラム伯爵家はお見逃し頂けますようお願い致します」
その言葉にジェレミーの頭は真っ白になった。
ダイアナをどのように見送ったのかも覚えていない。
気がついたら一人、庭園で立ち尽くしていた。
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