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1 ジェレミー ーダイアナに何があったのか?
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「一体何があったの?どうしてこんなことになったのかしら?」
庭園に取り残されて呆然としていたジェレミーだったが、フラフラと自室に戻ろうとしているところを母の侍女に呼び止められた。
二人だけのお茶会といっても、庭園に二人しかいなかったわけではない。近くにはお茶やお菓子を用意した侍女がいたし、他にも数人の侍女が控えていた。
ジェレミーは気づかなかったが、ダイアナが立ち去ってすぐに侍女が母へ伝えに行ったのだろう。そしてジェレミーは母の部屋へ呼ばれたのだ。
「やっぱり急ぎ過ぎたのかしら。やる気のある娘だから大丈夫だと思ったのだけど、詰め込みすぎたのね……」
母ーー公爵夫人であるエレナは頬に手を当てて溜息をついた。
ダイアナは婚約の解消を希望する理由として、次期公爵夫人としての教育についていけないと言っていたので、主にダイアナの教育を担当しているエレナは気にしているのだろう。
実際のところ、ダイアナは学園の成績も良いので教養の部分ではそれ程時間を割く必要はなかった。
オースティン公爵家の家系図を覚え、姻戚となる貴族や家門貴族の関係性を覚えるのに苦労していたが、ジェレミーと一緒に舞踏会に出たり季節の催し物をエレナに付いて差配する内に完全に覚えてしまっていた。
ダイアナが最も苦労していたのは礼儀作法を身につけることだ。
これはダイアナの生家での立場に問題があった。
ダイアナには三人の姉と一人の弟がいる。
この国では女性の爵位継承が認められているが、制度が変わったのは三十年程前のことで、女性の当主はまだ数人しかいない。
男子を優位とする思想はまだまだ根強く、ダイアナの両親も伯爵家はどうしても息子に継がせたいと、息子の誕生を強く願っていた。
だけど生まれたのは続けて四人、女の子である。
ダイアナが生まれてから四年、年齢的にももう懐妊は難しいだろうと両親は半ば諦めていた。
長女はもう十二歳になる。後継者にするなら跡継ぎ教育を始めなければならない。
長女を跡継ぎとして届けるしかないーー。
そう思い切った伯爵が国に届けを出そうとした矢先に夫人の懐妊が発覚。そうして生まれたのが待望の男の子である。
この年ダイアナは五歳になった。
貴族子女の五歳といえば、教育を始める歳である。
だけど伯爵夫妻は生まれたばかりの息子に夢中でダイアナのことなど目に入っていなかった。
とは言っても何も教育を施さなかったわけではない。
ただ当たり障りのない家庭教師とマナー講師を雇ってすべてを一任。彼女たちから提出された報告書や成績表も軽く目を通しただけだった。
結果としてダイアナが身につけられたのは伯爵令嬢として最低限の礼儀作法だけ。学園の成績が良かったのは、将来一人で生きていけるようにダイアナが独学で学んだからである。
「そんなことありませんよ。ダイアナは学び直せることを喜んでいました」
エレナはダイアナを傷つけないよう、公爵家と伯爵家では付き合う家門が違うので作法を学び直すようにと伝えていたが、ダイアナは自身の作法が拙いことに気がついていた。
恥ずかしいと思いながらも伯爵家では学び直す機会なんてなかったのだ。
「教育が辛いというのは嘘だと思います。本当は……、言えないような理由があるのでしょう」
あの時はジェレミーも慌ててしまってダイアナの言葉をそのまま受け止めてしまった。
だけど冷静に考えるとおかしい。
ダイアナはこれまで学べなかったことを身につけられると喜んでいたし、公爵夫妻から向けられる心遣いを理解して受け止めていたのだ。
結婚式の予定を受け入れてくれたのも、ジェレミーと夫婦になりたいという気持ちとは別に早く公爵夫妻の義娘になりたいという気持ちもあったはずだ。
庭園に取り残されて呆然としていたジェレミーだったが、フラフラと自室に戻ろうとしているところを母の侍女に呼び止められた。
二人だけのお茶会といっても、庭園に二人しかいなかったわけではない。近くにはお茶やお菓子を用意した侍女がいたし、他にも数人の侍女が控えていた。
ジェレミーは気づかなかったが、ダイアナが立ち去ってすぐに侍女が母へ伝えに行ったのだろう。そしてジェレミーは母の部屋へ呼ばれたのだ。
「やっぱり急ぎ過ぎたのかしら。やる気のある娘だから大丈夫だと思ったのだけど、詰め込みすぎたのね……」
母ーー公爵夫人であるエレナは頬に手を当てて溜息をついた。
ダイアナは婚約の解消を希望する理由として、次期公爵夫人としての教育についていけないと言っていたので、主にダイアナの教育を担当しているエレナは気にしているのだろう。
実際のところ、ダイアナは学園の成績も良いので教養の部分ではそれ程時間を割く必要はなかった。
オースティン公爵家の家系図を覚え、姻戚となる貴族や家門貴族の関係性を覚えるのに苦労していたが、ジェレミーと一緒に舞踏会に出たり季節の催し物をエレナに付いて差配する内に完全に覚えてしまっていた。
ダイアナが最も苦労していたのは礼儀作法を身につけることだ。
これはダイアナの生家での立場に問題があった。
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この国では女性の爵位継承が認められているが、制度が変わったのは三十年程前のことで、女性の当主はまだ数人しかいない。
男子を優位とする思想はまだまだ根強く、ダイアナの両親も伯爵家はどうしても息子に継がせたいと、息子の誕生を強く願っていた。
だけど生まれたのは続けて四人、女の子である。
ダイアナが生まれてから四年、年齢的にももう懐妊は難しいだろうと両親は半ば諦めていた。
長女はもう十二歳になる。後継者にするなら跡継ぎ教育を始めなければならない。
長女を跡継ぎとして届けるしかないーー。
そう思い切った伯爵が国に届けを出そうとした矢先に夫人の懐妊が発覚。そうして生まれたのが待望の男の子である。
この年ダイアナは五歳になった。
貴族子女の五歳といえば、教育を始める歳である。
だけど伯爵夫妻は生まれたばかりの息子に夢中でダイアナのことなど目に入っていなかった。
とは言っても何も教育を施さなかったわけではない。
ただ当たり障りのない家庭教師とマナー講師を雇ってすべてを一任。彼女たちから提出された報告書や成績表も軽く目を通しただけだった。
結果としてダイアナが身につけられたのは伯爵令嬢として最低限の礼儀作法だけ。学園の成績が良かったのは、将来一人で生きていけるようにダイアナが独学で学んだからである。
「そんなことありませんよ。ダイアナは学び直せることを喜んでいました」
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「教育が辛いというのは嘘だと思います。本当は……、言えないような理由があるのでしょう」
あの時はジェレミーも慌ててしまってダイアナの言葉をそのまま受け止めてしまった。
だけど冷静に考えるとおかしい。
ダイアナはこれまで学べなかったことを身につけられると喜んでいたし、公爵夫妻から向けられる心遣いを理解して受け止めていたのだ。
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