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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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エリザベートは結婚してからの毎日を幸せに暮らしていた。
カールが即位してしまえば、国王の私生活の場となる「鳳凰の宮」と王妃が暮らす「薔薇の宮」に分かれて住むことになるが、王太子の間は「黎明の宮」と呼ばれる王太子宮で夫婦一緒に暮らすことができる。
「黎明の宮」の敷地内には側妃用の離宮もあるが、カールからは建物を維持する為の最低限の管理をするだけで良いと言われていた。
その言葉を聞いた時、エリザベートは内心ホッとしたものだ。
それはカールに側妃を迎えるつもりがないということである。
子を生めないだろうエリザベートを正妃にした時点でいずれ側妃が迎えられることはわかっているけれど、できるだけ遅ければ良い。
「妃殿下、殿下からのご伝言です。もうすぐこちらへ戻られると」
「そう。ありがとう」
カールからの言付けを受け取った侍女がエリザベートへ告げる。
この侍女はダシェンボード公爵家から連れてきた者で、エリザベートが幼い頃から世話をしてくれていた。他にも熱を出しやすくなったエリザベートの為に、カールは多くの侍女を用意してくれている。
執務を補佐する女官も複数配置されていて、そのおかげでエリザベートは日々の業務を無理せずこなせていた。
無理の利かない体を後ろめたく思わないわけではない。
だけどカールは悩む暇がない程たくさんの愛を注いでくれる。それに結婚に反対していた国王と王妃も、個人としては義娘として可愛がってくれているのだ。
エリザベートは今、間違いなく満ち足りた生活を送っていた。
「まあ、それではまた……?」
「ああ。あいつには本当に煩わされるよ」
カールが溜息を吐く。
話を聞いていたエリザベートも困ったように視線を下げる。
今は夕食の時間だ。カールは結婚してから必ず朝食と夕食をエリザベートと一緒に食べる。
忙しくて中々顔を合わせられない時もあるが、食事の時間だけは2人でじっくり話をすることにしていた。
ここの所よく話題になるには第二王子のことだ。第二王子は来年学園を卒業する。
学園の卒業と同時に独立することになるが、国王は彼に与える爵位を伯爵と決めた。
通常王籍を離れる王子に与えられるのは公爵位だ。
だけど第二王子はどれだけ注意を受けても行いを改めず、王子としての公務をほとんど行っていない。
王族としての責務を果たさない者に王族としての待遇を与えることはできない。それが国王の決定だった。
だが第二王子はそれを素直に受け入れるような人間ではない。烈火のごとく怒り狂い、所構わず暴れているという。
生母の側妃は国王に取り縋ろうと連日鳳凰の宮へ押し掛け、対面できずに追い返されていた。
「陛下がこの時期に伝えたのは、せめてのチャンスを与える為だ。これまでの行いを反省して身を正せば、爵位は変わらなくても実り多い領地を与えようとされていた。だけどもうそれも叶わないだろう」
最近第二王子の振る舞いはエスカレートして、カールの執務室まで押し掛けてくるようになっていた。だけどカールが相手にするはずがなく、すぐに護衛の騎士に追い出される。
その鬱憤を晴らす為に偶然行き会った第三王子が絡まれたりして、誰も彼もがうんざりしていた。
「陛下がお決めになったことをカール様が撤回できるはずがありませんのにね……?陛下への執り成しを望むのであれば、下手に出そうなものですが」
「どんなことであっても我らに頭を下げるのが嫌なのだろう。脅して言う事を聞かせようとしているのだ。我らが従うはずがないものを」
カールも第三王子も声高に罵倒されたからといって恐れるような者ではない。むしろ冷酷になって叩き潰すタイプだ。
それがわかっていないだけで第二王子の資質が窺い知れるというものである。
「どちらにしろあれに煩わされるのもあと少しだ。度が過ぎると判断されれば卒業を待たずに追い出される」
「そうでしょうね……」
結局第二王子は卒業まで王族でいることを許された。
だが与えられた領地は王都から遠く離れた痩せた地で、ほとんど追放と変わらない形で卒業の翌日王宮から旅立った。
カールが即位してしまえば、国王の私生活の場となる「鳳凰の宮」と王妃が暮らす「薔薇の宮」に分かれて住むことになるが、王太子の間は「黎明の宮」と呼ばれる王太子宮で夫婦一緒に暮らすことができる。
「黎明の宮」の敷地内には側妃用の離宮もあるが、カールからは建物を維持する為の最低限の管理をするだけで良いと言われていた。
その言葉を聞いた時、エリザベートは内心ホッとしたものだ。
それはカールに側妃を迎えるつもりがないということである。
子を生めないだろうエリザベートを正妃にした時点でいずれ側妃が迎えられることはわかっているけれど、できるだけ遅ければ良い。
「妃殿下、殿下からのご伝言です。もうすぐこちらへ戻られると」
「そう。ありがとう」
カールからの言付けを受け取った侍女がエリザベートへ告げる。
この侍女はダシェンボード公爵家から連れてきた者で、エリザベートが幼い頃から世話をしてくれていた。他にも熱を出しやすくなったエリザベートの為に、カールは多くの侍女を用意してくれている。
執務を補佐する女官も複数配置されていて、そのおかげでエリザベートは日々の業務を無理せずこなせていた。
無理の利かない体を後ろめたく思わないわけではない。
だけどカールは悩む暇がない程たくさんの愛を注いでくれる。それに結婚に反対していた国王と王妃も、個人としては義娘として可愛がってくれているのだ。
エリザベートは今、間違いなく満ち足りた生活を送っていた。
「まあ、それではまた……?」
「ああ。あいつには本当に煩わされるよ」
カールが溜息を吐く。
話を聞いていたエリザベートも困ったように視線を下げる。
今は夕食の時間だ。カールは結婚してから必ず朝食と夕食をエリザベートと一緒に食べる。
忙しくて中々顔を合わせられない時もあるが、食事の時間だけは2人でじっくり話をすることにしていた。
ここの所よく話題になるには第二王子のことだ。第二王子は来年学園を卒業する。
学園の卒業と同時に独立することになるが、国王は彼に与える爵位を伯爵と決めた。
通常王籍を離れる王子に与えられるのは公爵位だ。
だけど第二王子はどれだけ注意を受けても行いを改めず、王子としての公務をほとんど行っていない。
王族としての責務を果たさない者に王族としての待遇を与えることはできない。それが国王の決定だった。
だが第二王子はそれを素直に受け入れるような人間ではない。烈火のごとく怒り狂い、所構わず暴れているという。
生母の側妃は国王に取り縋ろうと連日鳳凰の宮へ押し掛け、対面できずに追い返されていた。
「陛下がこの時期に伝えたのは、せめてのチャンスを与える為だ。これまでの行いを反省して身を正せば、爵位は変わらなくても実り多い領地を与えようとされていた。だけどもうそれも叶わないだろう」
最近第二王子の振る舞いはエスカレートして、カールの執務室まで押し掛けてくるようになっていた。だけどカールが相手にするはずがなく、すぐに護衛の騎士に追い出される。
その鬱憤を晴らす為に偶然行き会った第三王子が絡まれたりして、誰も彼もがうんざりしていた。
「陛下がお決めになったことをカール様が撤回できるはずがありませんのにね……?陛下への執り成しを望むのであれば、下手に出そうなものですが」
「どんなことであっても我らに頭を下げるのが嫌なのだろう。脅して言う事を聞かせようとしているのだ。我らが従うはずがないものを」
カールも第三王子も声高に罵倒されたからといって恐れるような者ではない。むしろ冷酷になって叩き潰すタイプだ。
それがわかっていないだけで第二王子の資質が窺い知れるというものである。
「どちらにしろあれに煩わされるのもあと少しだ。度が過ぎると判断されれば卒業を待たずに追い出される」
「そうでしょうね……」
結局第二王子は卒業まで王族でいることを許された。
だが与えられた領地は王都から遠く離れた痩せた地で、ほとんど追放と変わらない形で卒業の翌日王宮から旅立った。
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