57 / 142
2章 ~過去 カールとエリザベート~
34
しおりを挟む
葬儀の日から1年目を境にエリザベートは黒いドレスを着るのをやめた。
気持ちの整理がついたわけではない。顔を合わせる人たちが気を遣っているのを感じるからだ。
それにルイの存在は公にされていない。
この国の王族として、公表されていない王子の存在を主張し続けることはできなかった。
他にも理由はある。
エリザベートがいつまでも沈んだ顔をしていては、カールに側妃を薦めようとする重臣たちの邪魔をすることになるからだ。
エリザベートはカールの気持ちを疑っているわけではない。
エリザベートを愛してくれているのも、他の女性はいらないというのも本心だろう。
だからこそエリザベートが後押ししなくてはならない。
他の女性は必要なくても、世継ぎは必ず必要なのだ。
カールはマクロイド公爵の子息を養子に迎えようと考えているのだろう。
だけどマクロイド公爵はあくまでカールの子に王位を継がせたいと考えているはずだ。それが一番争いを生まなくて済む。
カールに生殖能力がないならともかく、相手がエリザベートでなければ子を儲けることができるのだ。
カールは国王として側妃を娶る義務があり、エリザベートには王妃として国王が恙なく世継ぎを儲けられるよう心を砕く義務があった。
『おとしゃま、だっこ』
『ああ。おいで』
ふいにいつかの会話が蘇る。
2人の笑い声が頭の中で木霊している。
カールはいずれ同じ様に己の子を抱くのだろう。
だけどエリザベートが「おかしゃま」と呼ばれる日はもう来ないのだ。
エリザベートはルイのシャツを抱き締め嗚咽を漏らした。
そんな本心を繕いながら日々をやり過ごしていたある日、奇跡が起きる。
エリザベートがまた懐妊したのだ。
「嘘でしょう……?」
「いえ、間違いございません。王妃様」
侍医長の言葉にエリザベートは体を震わせた。
確かに最近熱っぽさを感じていたし、吐き気をもよおすこともあった。月のモノの来ていない。
だけどルイを亡くして以来あまり食べられず良く眠れないので、その為の不調だと思っていたのだ。
「安静に……、安静にしよう、リーザ。このまま横になっていた方が良い」
付き添っていたカールがオロオロしながらじっとしているように言う。
ルイを懐妊していた時、流産してしまわないように半年以上をベッドの上で過ごしたことを覚えているのだ。だけどその顔には喜びが滲んでいる。
「公務はすべて代わるから心配いらない。何か食べられそうなものを……」
「ルイよ」
「え?」
侍女に指示を出そうと振り返っていたカールは驚いてエリザベートを見る。
エリザベートは腹に両手を当ててぽろぽろと涙を零していた。
「ルイよ!ルイちゃまが、帰って来てくれたんだわ……っ!」
「!!」
誰もが固まったように動きを止める。
――生まれ変わり。
そんな大それたことを考えているわけではないだろう。
ただルイを亡くしたことを受け止めきれず、ルイが戻って来たと思いたいのだ。
カールは腹を抱くようにしてさめざめと泣くエリザベートを強く抱き締めた。
気持ちの整理がついたわけではない。顔を合わせる人たちが気を遣っているのを感じるからだ。
それにルイの存在は公にされていない。
この国の王族として、公表されていない王子の存在を主張し続けることはできなかった。
他にも理由はある。
エリザベートがいつまでも沈んだ顔をしていては、カールに側妃を薦めようとする重臣たちの邪魔をすることになるからだ。
エリザベートはカールの気持ちを疑っているわけではない。
エリザベートを愛してくれているのも、他の女性はいらないというのも本心だろう。
だからこそエリザベートが後押ししなくてはならない。
他の女性は必要なくても、世継ぎは必ず必要なのだ。
カールはマクロイド公爵の子息を養子に迎えようと考えているのだろう。
だけどマクロイド公爵はあくまでカールの子に王位を継がせたいと考えているはずだ。それが一番争いを生まなくて済む。
カールに生殖能力がないならともかく、相手がエリザベートでなければ子を儲けることができるのだ。
カールは国王として側妃を娶る義務があり、エリザベートには王妃として国王が恙なく世継ぎを儲けられるよう心を砕く義務があった。
『おとしゃま、だっこ』
『ああ。おいで』
ふいにいつかの会話が蘇る。
2人の笑い声が頭の中で木霊している。
カールはいずれ同じ様に己の子を抱くのだろう。
だけどエリザベートが「おかしゃま」と呼ばれる日はもう来ないのだ。
エリザベートはルイのシャツを抱き締め嗚咽を漏らした。
そんな本心を繕いながら日々をやり過ごしていたある日、奇跡が起きる。
エリザベートがまた懐妊したのだ。
「嘘でしょう……?」
「いえ、間違いございません。王妃様」
侍医長の言葉にエリザベートは体を震わせた。
確かに最近熱っぽさを感じていたし、吐き気をもよおすこともあった。月のモノの来ていない。
だけどルイを亡くして以来あまり食べられず良く眠れないので、その為の不調だと思っていたのだ。
「安静に……、安静にしよう、リーザ。このまま横になっていた方が良い」
付き添っていたカールがオロオロしながらじっとしているように言う。
ルイを懐妊していた時、流産してしまわないように半年以上をベッドの上で過ごしたことを覚えているのだ。だけどその顔には喜びが滲んでいる。
「公務はすべて代わるから心配いらない。何か食べられそうなものを……」
「ルイよ」
「え?」
侍女に指示を出そうと振り返っていたカールは驚いてエリザベートを見る。
エリザベートは腹に両手を当ててぽろぽろと涙を零していた。
「ルイよ!ルイちゃまが、帰って来てくれたんだわ……っ!」
「!!」
誰もが固まったように動きを止める。
――生まれ変わり。
そんな大それたことを考えているわけではないだろう。
ただルイを亡くしたことを受け止めきれず、ルイが戻って来たと思いたいのだ。
カールは腹を抱くようにしてさめざめと泣くエリザベートを強く抱き締めた。
4
あなたにおすすめの小説
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる