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あたらしい夫のもとへ
辺境の地には、軍の補充兵とともについて行くことになった。
その辺境の地に、あらたな嫁ぎ先があるからである。
「王子妃殿下」
軍の宿舎まで行かなければと思っていたところに、将校服姿の青年が訪ねてきた。
「ロラン・ノディエと申します。クロードの同腹の弟です。妃殿下、どうぞよろしくお願いします」
嘘でしょ?
声に出しそうになり、慌てて口を閉じた。
まるで少年なのである。しかも、めちゃくちゃ可愛らしい。小柄だけど、将校服の上からでも筋肉質なことがわかる。
クロードの同腹の弟ということは、彼も王子よね。
「一応王子の端くれですが、兄同様自覚はありません。それに、あちら側でも王子としての自覚がない方が都合がいいようですから」
ロランは、わたしの心を読んだかのようにそう言った。可愛らしい顔には、少年っぽい笑みが浮かんでいる。
「リン・オリヴィエです。離縁されたのですから、生家の名を名乗ってもいいですよね?」
オリヴィエ伯爵家は、この国に古くから続く名家だった。
だったというのは、つい最近両親が事故で亡くなり、嗣子である兄は行方知れずになっている。その為、後継者不在のまま王家が定める管理人に管理を任せているからである。
お姉様かわたしに子どもが出来れば、その子に継がせることになるはず。
「ですが、妃殿下。すぐにまた、ノディエの姓を名乗ることになりますね」
そうなのよね。
だけど、正直なところ結婚なんてもうたくさんだわ。
これ以上、自分を隠し、演技を続けるのはうんざり。
出来れば、どこか遠くの村でのんびり生活がしたい。
だけど、それも難しいのよね。
「ええ。そうですね」
わたしのその返答は、諦めの気持ちが存分にこもっていた。
ロランに促され、軍の宿舎へ向かった。
すでにわたしの荷物は馬車に積み込まれている。
とはいえ、トランクが山ほどあるわけではない。
「愛する人は複数人いる。その中におまえは入っておらず、この先もけっして加わることはない。父上の命だからこそ従っているが、ほとぼりが冷めればさっさと追いだしてやる。ちなみに、おまえの姉も愛人リストに入っている。彼女は、クソ異母弟のクロードに婚約破棄を突きつける。その後は、リストのトップに躍りでるだろう」
前夫のマリユスには、一番最初に恥も外聞もないような、理不尽かつ非常識なことをきかされていた。
だから、いつ追いだされてもいいように、物は出来るだけ持たないようにした。
生家に帰ることは出来ない。それがわかっている。だから、出来るだけ物はすくなくして、いつでも移動できるようにしておきたい。
結果、最低限の衣服やお気に入りの本が入っているトランクが三つだけになった。
荷造りしたら、トランク三つ分だけだったのでわれながら驚いてしまった。
「本来なら妃殿下には、ちゃんとした馬車に乗っていただきたいのですが……。兵士を二百名ほど連れて行きますので、荷馬車になって……」
「いいのです。どのような馬車でも、乗せてもらえるだけありがたいですから」
王宮から、一刻もはやく出て行きたい。
手段なんてどうでもいい。馬車であろうと荷馬車であろうと、どうせおなじなのだから。
「すでに荷物は積んであります」
「少ないのに驚いたのでしょう?」
「え、ええ」
ずばり当てられ、彼ははにかんだ笑みを浮かべた。
「妃殿下、これを」
軍の宿舎は、王宮に隣接している。演習場があり、そこで行事がある度に行軍が行われる。わたしも、前夫の横に立ち、何度か観覧したことがある。
ロランは、その演習場に兵士たちが集まっているのが見えたタイミングで、腕にかけている将校用のフードを差し出してきた。
「王都は物騒です。念のため、これを頭からすっぽりかぶっていてください」
「わかりました」
受け取り、さっそく肩にかけてみた。
王都が物騒なことは知っている。
多くの人々が、いまの世の中、つまり政治や経済に不満を抱いている。
貴族も、王都を移動中に石を投げられたり襲撃されたりしている、ときいている。
いったいどうなってしまうのから。
ずっと不安ではある。
そんなことをかんがえながら、荷馬車の馭者台に乗り込んだ。
馭者は、真っ赤なほっぺをしているこれまた可愛らしい兵士である。
出発をした。
これでおさらばね。
戻ってくることなんてあるのかしら。
演習場から街へ出ても、二度と王宮を振り返ることはなかった。
その辺境の地に、あらたな嫁ぎ先があるからである。
「王子妃殿下」
軍の宿舎まで行かなければと思っていたところに、将校服姿の青年が訪ねてきた。
「ロラン・ノディエと申します。クロードの同腹の弟です。妃殿下、どうぞよろしくお願いします」
嘘でしょ?
声に出しそうになり、慌てて口を閉じた。
まるで少年なのである。しかも、めちゃくちゃ可愛らしい。小柄だけど、将校服の上からでも筋肉質なことがわかる。
クロードの同腹の弟ということは、彼も王子よね。
「一応王子の端くれですが、兄同様自覚はありません。それに、あちら側でも王子としての自覚がない方が都合がいいようですから」
ロランは、わたしの心を読んだかのようにそう言った。可愛らしい顔には、少年っぽい笑みが浮かんでいる。
「リン・オリヴィエです。離縁されたのですから、生家の名を名乗ってもいいですよね?」
オリヴィエ伯爵家は、この国に古くから続く名家だった。
だったというのは、つい最近両親が事故で亡くなり、嗣子である兄は行方知れずになっている。その為、後継者不在のまま王家が定める管理人に管理を任せているからである。
お姉様かわたしに子どもが出来れば、その子に継がせることになるはず。
「ですが、妃殿下。すぐにまた、ノディエの姓を名乗ることになりますね」
そうなのよね。
だけど、正直なところ結婚なんてもうたくさんだわ。
これ以上、自分を隠し、演技を続けるのはうんざり。
出来れば、どこか遠くの村でのんびり生活がしたい。
だけど、それも難しいのよね。
「ええ。そうですね」
わたしのその返答は、諦めの気持ちが存分にこもっていた。
ロランに促され、軍の宿舎へ向かった。
すでにわたしの荷物は馬車に積み込まれている。
とはいえ、トランクが山ほどあるわけではない。
「愛する人は複数人いる。その中におまえは入っておらず、この先もけっして加わることはない。父上の命だからこそ従っているが、ほとぼりが冷めればさっさと追いだしてやる。ちなみに、おまえの姉も愛人リストに入っている。彼女は、クソ異母弟のクロードに婚約破棄を突きつける。その後は、リストのトップに躍りでるだろう」
前夫のマリユスには、一番最初に恥も外聞もないような、理不尽かつ非常識なことをきかされていた。
だから、いつ追いだされてもいいように、物は出来るだけ持たないようにした。
生家に帰ることは出来ない。それがわかっている。だから、出来るだけ物はすくなくして、いつでも移動できるようにしておきたい。
結果、最低限の衣服やお気に入りの本が入っているトランクが三つだけになった。
荷造りしたら、トランク三つ分だけだったのでわれながら驚いてしまった。
「本来なら妃殿下には、ちゃんとした馬車に乗っていただきたいのですが……。兵士を二百名ほど連れて行きますので、荷馬車になって……」
「いいのです。どのような馬車でも、乗せてもらえるだけありがたいですから」
王宮から、一刻もはやく出て行きたい。
手段なんてどうでもいい。馬車であろうと荷馬車であろうと、どうせおなじなのだから。
「すでに荷物は積んであります」
「少ないのに驚いたのでしょう?」
「え、ええ」
ずばり当てられ、彼ははにかんだ笑みを浮かべた。
「妃殿下、これを」
軍の宿舎は、王宮に隣接している。演習場があり、そこで行事がある度に行軍が行われる。わたしも、前夫の横に立ち、何度か観覧したことがある。
ロランは、その演習場に兵士たちが集まっているのが見えたタイミングで、腕にかけている将校用のフードを差し出してきた。
「王都は物騒です。念のため、これを頭からすっぽりかぶっていてください」
「わかりました」
受け取り、さっそく肩にかけてみた。
王都が物騒なことは知っている。
多くの人々が、いまの世の中、つまり政治や経済に不満を抱いている。
貴族も、王都を移動中に石を投げられたり襲撃されたりしている、ときいている。
いったいどうなってしまうのから。
ずっと不安ではある。
そんなことをかんがえながら、荷馬車の馭者台に乗り込んだ。
馭者は、真っ赤なほっぺをしているこれまた可愛らしい兵士である。
出発をした。
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戻ってくることなんてあるのかしら。
演習場から街へ出ても、二度と王宮を振り返ることはなかった。
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