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「ひきこもり王子」について
馭者台でフードを目深にかぶり、街の様子をうかがってみた。
噂は、本当なのだとつくづく噛みしめた。
石畳上に寝転んだり物乞いをしている人たち。ボロボロの衣服に身を包んでいる子どもたち。無気力な様子で通りすぎてゆく多くの人たち……。
わたしのいた世界とはまったく異なる世界……。
周囲を行軍する兵士たちの向こう側に見える世界は、わたしのいた世界などよりずっとずっと現実的な世界なのね。
「このクソガキッ!また盗みやがったな」
「ひったくりだぁっ!」
「おまえからぶつかってきたんだろうがっ」
きくに耐えない言葉の数々や悲鳴や怒号が、いたるところで起こっている。
上流階級が襲われたりするということがわかるような気がする。
目を閉じ、耳をふさぎたくなってきた。
だけど、それではダメ。この光景をしっかりと目に焼き付け、耳に入れておくのよ。
王都を出るまで、何度も自分に言いきかせねばならなかった。
王都を出、たくさんの町や村を通過したけれど、状況は王都とさほどかわらない。
国全体がこんな感じなのかしら?生活に困らず、それどころか贅をつくしているのは、わたしたち上流階級やひと握りの特権階級だけだわ。
そうかんがえると、急に恥ずかしくなってきた。同時に、腹立たしくなってきた。
道中は、兵士たちが親切にしてくれたのでとくに困ったこともなく移動することが出来た。
いっしょに食事をしたり、語り合ったりと楽しかった。
ロランはわたしのことを気にかけ、気遣ってくれた。
道中、荷馬車に愛馬を寄せて来てあれやこれやと話しかけてくる。
バロワン王国軍の副将軍とは思えないほど、気さくで穏やかである。
なにより、可愛らしすぎる。
えくぼのある彼の可愛らしい顔を見るたび、癒される?キュンキュンもしてしまう。
もう間もなく目的の地に着くという頃、ロランにクロード・ノディエ、つまりこれから嫁ぐ夫になる人のことについて尋ねてみた。
噂できいている彼は、「ひきこもり王子」としてあらゆる人たちから蔑まれているということ。
お母様がメイドで、いわゆるお手つきの子どもらしい。だけど、国王陛下はお母様を側妃に迎え、たいそう寵愛なさった。
弟のロランが生まれているのだから、異例と言えば異例よね。
だけど、国王陛下は愛する側妃との子どもである兄弟については、そこまで大切になさらなかった。
よくある話である。正妃やその子どもたち、他の側妃やその子どもたちだけでなく、王宮中の人々から蔑まれ、ときには虐待された。
弟は、逃げるようにして軍の幼年学校に入学した。だけど、兄のクロードはすでに精神を病んでいたので幼年学校に入学することが出来なかった。
王宮の自分の部屋にひきこもってしまった。自室から滅多に出なくなってしまった。
国王陛下はそれを不憫に思い、というよりかは体裁をかんがえ、貴族令嬢をつぎつぎにあてがった。が、当然、貴族令嬢は嫌がる。
結局、強制的にあてがうことすら出来なくなった。
そして、お姉様である。控え目にいってもお姉様は美しい。外面がいい。
だけど、気が多すぎる。お姉様を気に入る貴族子息はたくさんいて、お姉様は適当に遊んでいた。たまたま、宰相の子息と浮名を流しているときに、わたしがマリユスに嫁がねばならなくなった。王家との約束があったからである。
そのとき、お姉様は国王陛下にクロードはどうかと勧められ、驚くべきことに了承した。
じつは、お姉様はずっとわたしの夫であるマリユスといい仲だった。
二人は結託し、クロードを永久にひきこもらせてやろうと思いついたのである。
そう。それはまさしく、思いつきだった。
マリユスと二人で、「ただちょっと揶揄ってみる」的に思いついたのだ。
気の毒に。クロードはお姉様に散々振りまわされた挙句、思いっきり婚約破棄を叩きつけられた。
国王陛下も、これまでの経緯がある。お姉様から婚約を破棄したことも不問に付された。
クロードは、王宮にいることが困難になった。
そこで表向きは国境地域を防衛する将軍として任命され、王宮から放り出されてしまった。
それが二年前の話である。
それ以降、彼の噂話ですらほとんど出なくなった。ほんとうにときどき、「ひきこもり王子」なんていたよな程度に言われる程度である。
噂は、本当なのだとつくづく噛みしめた。
石畳上に寝転んだり物乞いをしている人たち。ボロボロの衣服に身を包んでいる子どもたち。無気力な様子で通りすぎてゆく多くの人たち……。
わたしのいた世界とはまったく異なる世界……。
周囲を行軍する兵士たちの向こう側に見える世界は、わたしのいた世界などよりずっとずっと現実的な世界なのね。
「このクソガキッ!また盗みやがったな」
「ひったくりだぁっ!」
「おまえからぶつかってきたんだろうがっ」
きくに耐えない言葉の数々や悲鳴や怒号が、いたるところで起こっている。
上流階級が襲われたりするということがわかるような気がする。
目を閉じ、耳をふさぎたくなってきた。
だけど、それではダメ。この光景をしっかりと目に焼き付け、耳に入れておくのよ。
王都を出るまで、何度も自分に言いきかせねばならなかった。
王都を出、たくさんの町や村を通過したけれど、状況は王都とさほどかわらない。
国全体がこんな感じなのかしら?生活に困らず、それどころか贅をつくしているのは、わたしたち上流階級やひと握りの特権階級だけだわ。
そうかんがえると、急に恥ずかしくなってきた。同時に、腹立たしくなってきた。
道中は、兵士たちが親切にしてくれたのでとくに困ったこともなく移動することが出来た。
いっしょに食事をしたり、語り合ったりと楽しかった。
ロランはわたしのことを気にかけ、気遣ってくれた。
道中、荷馬車に愛馬を寄せて来てあれやこれやと話しかけてくる。
バロワン王国軍の副将軍とは思えないほど、気さくで穏やかである。
なにより、可愛らしすぎる。
えくぼのある彼の可愛らしい顔を見るたび、癒される?キュンキュンもしてしまう。
もう間もなく目的の地に着くという頃、ロランにクロード・ノディエ、つまりこれから嫁ぐ夫になる人のことについて尋ねてみた。
噂できいている彼は、「ひきこもり王子」としてあらゆる人たちから蔑まれているということ。
お母様がメイドで、いわゆるお手つきの子どもらしい。だけど、国王陛下はお母様を側妃に迎え、たいそう寵愛なさった。
弟のロランが生まれているのだから、異例と言えば異例よね。
だけど、国王陛下は愛する側妃との子どもである兄弟については、そこまで大切になさらなかった。
よくある話である。正妃やその子どもたち、他の側妃やその子どもたちだけでなく、王宮中の人々から蔑まれ、ときには虐待された。
弟は、逃げるようにして軍の幼年学校に入学した。だけど、兄のクロードはすでに精神を病んでいたので幼年学校に入学することが出来なかった。
王宮の自分の部屋にひきこもってしまった。自室から滅多に出なくなってしまった。
国王陛下はそれを不憫に思い、というよりかは体裁をかんがえ、貴族令嬢をつぎつぎにあてがった。が、当然、貴族令嬢は嫌がる。
結局、強制的にあてがうことすら出来なくなった。
そして、お姉様である。控え目にいってもお姉様は美しい。外面がいい。
だけど、気が多すぎる。お姉様を気に入る貴族子息はたくさんいて、お姉様は適当に遊んでいた。たまたま、宰相の子息と浮名を流しているときに、わたしがマリユスに嫁がねばならなくなった。王家との約束があったからである。
そのとき、お姉様は国王陛下にクロードはどうかと勧められ、驚くべきことに了承した。
じつは、お姉様はずっとわたしの夫であるマリユスといい仲だった。
二人は結託し、クロードを永久にひきこもらせてやろうと思いついたのである。
そう。それはまさしく、思いつきだった。
マリユスと二人で、「ただちょっと揶揄ってみる」的に思いついたのだ。
気の毒に。クロードはお姉様に散々振りまわされた挙句、思いっきり婚約破棄を叩きつけられた。
国王陛下も、これまでの経緯がある。お姉様から婚約を破棄したことも不問に付された。
クロードは、王宮にいることが困難になった。
そこで表向きは国境地域を防衛する将軍として任命され、王宮から放り出されてしまった。
それが二年前の話である。
それ以降、彼の噂話ですらほとんど出なくなった。ほんとうにときどき、「ひきこもり王子」なんていたよな程度に言われる程度である。
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