「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……

ぽんた

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ムカつくガキをぶん殴る

「兄上、いいのですか?抜けだしたことがバレたら、また叱られます」
「バレるものか。あんなくだらないお茶会におれたちがいようがいまいが、だれも気に留めやしないさ」
「そうだといいのですが」

 二人の会話をきくともなしにきいている。っていうか、きこえてくるので仕方がない。

 あの二人、やはりお茶会を抜けだしてきたのね。

 そっと身を乗りだし、真下をのぞきこんでみた。

 二人とも、この木の幹に背中をあずけて座っている。

 先程の会話から、二人が兄弟だということがわかる。

「ったく、くだらなさすぎだよな」
「そうですね」
「おとなしくして耐え忍ぶってのがつらくなってくる」
「もう少し大きくなれば、状況はかわるでしょうか」
「ムリだろうな。だが、おまえはここから出て軍の幼年学校に入れ」
「兄上はぼくを置いていけないから、軍の幼年学校への入学を諦めたのです。ぼくも兄上を置いていけません」
「バカなことを言うな。ここにいてはダメだ。おれのことは心配いらない。このまま臆病で陰気なふりをし、目立たないようにするからな」

 なんだか、ワケありなわけ?

 どんな子たちなんだろう。

 さらに身を乗りだした瞬間、手がすべって枝葉を揺すってしまった。

 当然、「ガサッ」という大きな音とともに、何枚、何十枚という枝葉がヒラヒラと落ちて行く。

「だれだっ」

 さらに当然だけど、バレるにきまっているわよね。

 二人とも弾かれたように立ち上がり、上を見上げた。

 二人は、枝葉を透視でもしてやろうとでもいうように目を細めて必死に見ている。

「だれかいるだろう?おりて来いっ」

 大きい方の子が叫んだ。

 いまさら小鳥が枝にとまっているふりも出来ない。もちろん、飛ぶことなんて出来ないし。

 観念して木をおりはじめた。

「なっ、なんだ、女?」
「わーっ!女の子だ」

 ええ。一目でそうってわかるわよね。

 ドレスの裾だけでなく、いろいろなところがヒラヒラしているので邪魔だわ。

 ドレスを着用しているからというだけでなく、怒りと不安と焦りでいつものように身軽におりることが出来ない。

 幹のでっぱりにドレスのとこかをひっかけたらしい。

「ビリッ」

 あっ……。

 生地が破けたかひっかけたか、とにかくあきらかに生地がダメージを受けた音がした。

「女が木登りだって?生意気な」

 大きい方の子が、吐き捨てるように言った。

「兄上、レディに対してそんなことを言っては……」
「あれがレディだって?レディは木登りなんてしない。どうせお茶会に来たどこかの子だろう?抜けだすなんて、まずそこがレディじゃないな」

 あいつ、ムカつく。

 頭にカーッと血が上っているのがわかる。

 最後の方は、ジャンプしておりた。

 それから、クルリと大きい方の子へ振り向いた。

 彼があっと驚くまでに、思いっきり殴った。

 自分でも驚いた。

 平手打ちとかではない。拳でぶん殴ったのである。

 一瞬、この世界から音が消えた。

 森の遠くでも近くでも、小鳥の囀りや羽ばたきの音もしない。

 彼らの息遣いどころか、自分のそれすらきこえない。

 と思ったら、息を止めていた。

 苦しくなってはじめて、そのことに気がついた。

 慌てて息をした瞬間、大きい方の子が泣きだした。

 ビービーと、それこそみっともないくらいに。

「あ、兄上、大丈夫ですか?」

 小さい方の子がなだめたりすかしたりするけれど、大きい方の子はただ泣き叫ぶだけである。

「ふんっ!男のくせに泣くなんて、みっともなさすぎよ。あんただってお茶会を抜けだしてきたんでしょう?わたしをバカにしたバツよ」

 そう怒鳴ると、さっさと歩きはじめた。

 ジンジンする拳を、彼の泣き声を背中でききつつギュッと握りしめてしまった。

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