「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……

ぽんた

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いいのは顔だけね

 あのときのムカつくガキ、もとい将軍と睨み合っている。

 彼といい、小さい方の子、つまりロランといい、どちらもそうと意識しなければその面影を見つけることは難しい。

 ロランだって、あのときはほんとうに小さな男の子だった。彼がわたしと同年齢だということを、先日知った。
 あのとき、四、五歳の男の子のわりには彼は小柄だった。

「くそっ!くそっ!」

 将軍が先に沈黙を破り、目の前で足を踏み鳴らしはじめた。

 床板がギシギシと悲鳴をあげる。

 この建物は古い。まだ住むことは出来るけれども、そこかしことガタがきている。

 近い将来、補修、それから改修が必要になる。

 そんな状態だから、せっかくきれいにしたわたしの部屋の床に穴をあけられたらたまらないわ。

 あっ、そうか。

 ここから放り出されるんだった。

 だったら、床に穴が開こうと抜けてしまおうと関係ないわよね。

「あのときのガキめ。おれを、おれを殴りやがって」
「時効よ」

 美貌を真っ赤にして怒鳴ってきた彼に、冷静な口調で知らせてあげた。

 彼が鼻白んだ。

 あっ、こんな屁理屈を真に受けるんだ。

 ちょっだけ笑いそうになった。

「それに、忘れたの?あなたがわたしをバカにしたんじゃない。ほんっとにムカつくやつだわ。昔もいまもまったくかわっていないわね」
「なんだとっ、このお転婆娘っ!いいや、暴力娘っ!おまえが殴ったせいで、歯が折れたんだぞ。しかも、二本だ」

 えっ、マジで?

 ああ、だからね。いつまででも拳がジンジンと痛かったわ。

 いったん記憶の糸がほつれると、どんどんあのときの記憶が脳内に溢れ出てくる。

「乳歯だったからよかったようなものの、永久歯だったらとんでもないことになったぞ」

 そうならなくってよかったわ。

 それにしても、わたしってばあのとき王子を殴り飛ばしたのね。

 笑っちゃうわ。

 だけど……。

 どんな理由があろうとも、カッときて他人ひとに暴力をふるうなんて人間ひととしてどうよって言いたくなる行動だわ。

 だれがどうかんがえたってわたしに非がある。

 あーっ、イヤだわ。

 それを認めるのはともかく、認めた上で謝罪するなんて、ぜったいにしたくない。

 あーっ、もうっ!

 なんでこんなことになるのよ?

「ごめん」

 これ以上なにも思わずかんがえず、さらには感情を持たずに無心のまま言葉を出した。

 心からの謝罪というわけではない。だって、感情がないのだから。

 それでも、自分の中では一万歩以上は譲歩しているつもり。

「なんだと?なんて言った?」

 自分の中で妥協している最中に、エラソーに問われてしまった。

「ごめんって言ったのよ」

 こんなこと、何度も言わせないでほしいわ。

「何に対する謝罪だ?『ごめん』だけでわかるものか」

 カチンときた。

 わかっていてわざと尋ねている。

 意地悪しているのだ。

 こいつ、いいのは顔だけね。

 ぶん殴ってやりたいどころか、殺意までわいてしまいそうになる。

 拳を握りしめ、彼の美貌をあらためて睨み付けようとした。

 その瞬間、急に冷めた。なぜかはわからない。

 彼の美貌に浮かぶ表情を見たからかもしれない。

 そこにあるのは、いままで一度も見たことのないやわらかくてやさしい表情ものだった。

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