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まったく違う関係
翌日から、将軍のわたしに対する態度がかわった。これまでとは、真逆の態度になったのである。
戸惑いを覚えずにはいられない。
調理は、宿舎の厨房ではなく屋敷の台所で行うようになった。しかも将軍と二人で、である。
ロランが言っていたように、彼はこれまで自分で作っていたらしくてすごく手際がいい。しかも、食材じたいのことやレシピの知識も豊富である。
食事を作り終えると、当然それを食べる。
食堂の長テーブルで向かい合わせになって食事をするけれど、彼は終始機嫌よく話をしている。
料理のこと、この辺りのこと、ロランや調理兵長たちのこと。
これはいったい、どういう意図があるわけ?
なんの罠?
先夜は、つい自分の本性をさらけだしてしまったけれど、いまはまた感情と本性を隠している。
失礼にならない程度に笑ったり相槌を打ったりしつつ、彼とすごした。
掃除や洗濯も、彼もいっしょにやると言ってきかない。
必要などないのに、ムダに絡んでくる。
家事が終ると、遠乗りに出かけたりする。
あるいは、自分の足で周辺の野山や村や町を訪れる。
二人ともシャツにズボン姿。わたしは髪が短い為、一見したら男二人に見えなくもない。
夜、夕食が終ると居間や彼の書斎で読書をする。
けっして強制ではない。自然とそんな流れになってしまう。
さすがはずっとひきこもっていただけあり、彼の所有している本の数は半端ない。しかも、ジャンルが多岐に渡っている。
ちょっとした図書館のようなもの。
読書好きなわたしとしては、この夕食後の時間は至福のときである。
そして、夜更かしをして屋根裏部屋へと戻っていく。
そんな生活がどのくらい続いただろう。
気がついたら、そんな生活を楽しんでいる自分がいる。
自分でも驚きである。
食事の準備、食事、掃除や洗濯といった家事、大工仕事、花や木の手入れ、乗馬やハイキング、夕食後の読書、ただのお喋り。
それらすべてが、いつの間にか楽しくなっていた。
たしかに、ケンカをしたり言い合いをしたりもする。仲良くしているのと同じくらいはケンカになる。
そのケンカも、自分の本性をさらけだしていた。
装うことも隠すことも演じることもなく、わたしのままで振る舞った。地のままで接した。
それもまた、自分にとって驚き以外のなにものでもなかった。
そんな日々を重ね、彼は軍の演習をすることが多くなった。屋敷をあけることがしょっちゅうになり、そんなときはわたし一人ですごさねばならない。
寂しくてならない。一人ですごすことが多く、慣れているにもかかわらず。さらには、それが当たり前で大好きだったにもかかわらず。
将軍が戻ってくるのを心待ちにし、帰還する前日にはうれしさと緊張でウキウキした。眠れぬ夜を迎え、眠れないからといつもより手の込んだ料理を作ったり屋敷を飾ったりした。
その度、そんな自分にも驚いた。
いつしか、彼のことをクロードと呼んでいた。
将軍でも王子でもなく、クロードと呼んだ。
それにも驚きだった。
彼のわたしへの態度の大変化に驚き、自分の彼に対する大変化に驚きと、驚きの連続である。しかし、それをこえると今度は不安に襲われるようになった。
いつかこの生活が奪われるのではないか。彼がまた、わたしへの態度をかえるのではないか。
このしあわせがなくなってしまうのではないか……。
そして、いまをしあわせと感じていることに驚いた。
わたしにはしあわせなど無縁だったはずなのに、それを噛みしめている。
戸惑いを覚えずにはいられない。
調理は、宿舎の厨房ではなく屋敷の台所で行うようになった。しかも将軍と二人で、である。
ロランが言っていたように、彼はこれまで自分で作っていたらしくてすごく手際がいい。しかも、食材じたいのことやレシピの知識も豊富である。
食事を作り終えると、当然それを食べる。
食堂の長テーブルで向かい合わせになって食事をするけれど、彼は終始機嫌よく話をしている。
料理のこと、この辺りのこと、ロランや調理兵長たちのこと。
これはいったい、どういう意図があるわけ?
なんの罠?
先夜は、つい自分の本性をさらけだしてしまったけれど、いまはまた感情と本性を隠している。
失礼にならない程度に笑ったり相槌を打ったりしつつ、彼とすごした。
掃除や洗濯も、彼もいっしょにやると言ってきかない。
必要などないのに、ムダに絡んでくる。
家事が終ると、遠乗りに出かけたりする。
あるいは、自分の足で周辺の野山や村や町を訪れる。
二人ともシャツにズボン姿。わたしは髪が短い為、一見したら男二人に見えなくもない。
夜、夕食が終ると居間や彼の書斎で読書をする。
けっして強制ではない。自然とそんな流れになってしまう。
さすがはずっとひきこもっていただけあり、彼の所有している本の数は半端ない。しかも、ジャンルが多岐に渡っている。
ちょっとした図書館のようなもの。
読書好きなわたしとしては、この夕食後の時間は至福のときである。
そして、夜更かしをして屋根裏部屋へと戻っていく。
そんな生活がどのくらい続いただろう。
気がついたら、そんな生活を楽しんでいる自分がいる。
自分でも驚きである。
食事の準備、食事、掃除や洗濯といった家事、大工仕事、花や木の手入れ、乗馬やハイキング、夕食後の読書、ただのお喋り。
それらすべてが、いつの間にか楽しくなっていた。
たしかに、ケンカをしたり言い合いをしたりもする。仲良くしているのと同じくらいはケンカになる。
そのケンカも、自分の本性をさらけだしていた。
装うことも隠すことも演じることもなく、わたしのままで振る舞った。地のままで接した。
それもまた、自分にとって驚き以外のなにものでもなかった。
そんな日々を重ね、彼は軍の演習をすることが多くなった。屋敷をあけることがしょっちゅうになり、そんなときはわたし一人ですごさねばならない。
寂しくてならない。一人ですごすことが多く、慣れているにもかかわらず。さらには、それが当たり前で大好きだったにもかかわらず。
将軍が戻ってくるのを心待ちにし、帰還する前日にはうれしさと緊張でウキウキした。眠れぬ夜を迎え、眠れないからといつもより手の込んだ料理を作ったり屋敷を飾ったりした。
その度、そんな自分にも驚いた。
いつしか、彼のことをクロードと呼んでいた。
将軍でも王子でもなく、クロードと呼んだ。
それにも驚きだった。
彼のわたしへの態度の大変化に驚き、自分の彼に対する大変化に驚きと、驚きの連続である。しかし、それをこえると今度は不安に襲われるようになった。
いつかこの生活が奪われるのではないか。彼がまた、わたしへの態度をかえるのではないか。
このしあわせがなくなってしまうのではないか……。
そして、いまをしあわせと感じていることに驚いた。
わたしにはしあわせなど無縁だったはずなのに、それを噛みしめている。
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