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急変
「妃殿下ーっ!」
「妃殿下っ」
その日、敷地内にある演習場で本格的に戦闘の演習を行うらしい。
始まる前、クロードに手袋を届けに行った。
書斎の執務机の上に置きっぱなしになっているのを、窓を拭いているときに気がついたのである。
演習場には、すでに兵士たちが集まっている。
わたしの姿を見つけた顔見知りの兵士たちが手を振っている。
わたしも手を振り返した。
そんなふうにして兵士たちに手を振りつつ、クロードのいるテントへと向かった。
「妃殿下」
テントのすぐ前で小隊が整列している。
よく見ると、王都からいっしょに来た新兵たちである。
いっしょに馬車に乗って馭者をしてくれた、真っ赤なほっぺの兵士もいる。
「お久しぶり。まぁ、みなさん。立派になって」
いっしょに旅をしたときには、軍服ですら「着用している」というよりかは「着られている」といった感じだった。初々しいというかちょっとだけ頼りなさそうというか、とにかくこの子たち大丈夫なのかしら?なんて、同年齢くらいなのにエラソーに思っていた。
だけど、ちょっと見ない間にすっかりたくましくなっている。
驚いてしまった。
「妃殿下も、立派になられましたね」
「えっ?」
真っ赤なほっぺの兵士に言われた。
ちょっ……。
立派って?どういう意味での立派なの?
「バカだな。そういうときは、お美しくなってとかエレガントになられて、とか言うんだ」
小隊の中のだれかが注意すると、いっせいに笑い声が起った。
もちろん、わたしも笑ってしまった。
他意や悪意はなかったのよ。たぶん、だけど。
彼らに「がんばってね」と伝えると、テントに近づいた。
見張りの兵士に手袋を渡してもらうようお願いしていると、中からロランが顔を見せた。
「ロラン、戻っていたの?」
「妃殿下、お久しぶりです」
彼は北方地域での演習を終えてからずっと、王都に駐在していたのである。
「どうぞ、お入りください」
彼が勧めてくれたので、中に入ることにした。
「将軍、手袋をお忘れですよ」
二人っきりのときにはクロードと呼ぶけれど、だれかがいるときには将軍と呼ぶようにしている。
「ああ、ありがとう」
クロードが近づいて来たので、直接手渡した。
「驚いた」
ロランがクスクス笑いだした。
彼の可愛い顔には、子どもみたいに楽しそうな表情が浮かんでいる。
「あんなに妃殿下のことを邪険にされていたのに。最初から、素直になればよかったじゃありませんか」
「うるさいっ!」
クロードはロランにかぶせ、真っ赤な顔で怒鳴った。
だけど、二人ともすぐに真剣な表情になった。
「何かあったのですか?」
急に胸騒ぎがしはじめた。
クロードとロランの雰囲気が、あまりにも深刻な感じがしたからである。
「王都で反乱が起こったんだ」
「ええっ?」
「ぼくが王都を発ったときにはまだでしたが、おそらくいまごろは民衆も蜂起しているはずです。正確には、オデール国の諜報員たちの仕業です。民衆の蜂起に続き、オデール国軍が侵攻してあっという間に王都を占領するはずです。その、妃殿下。申し上げにくいのですが、あなたの姉君は行方不明に……」
「お姉様が?」
「王族は暗殺されたり行方不明、というよりかは王宮を逃げだしたりしている。残っていて生きている王族は、オデール国軍に捕らえられるだろう。その後は……」
そう言ったクロードを、思わず見てしまった。
彼の美貌に浮かんでいるのは、何とも表現のしようのない表情。
彼は途中で言葉を止めてしまったけれど、続きは容易に想像出来る。
オデール国によって、王都で反乱が起こった。民衆が求めているのは、まぎれもなく王族の死。
捕まった王族は、民衆の前にひきずりだされて斬首されてしまう。
「妃殿下っ」
その日、敷地内にある演習場で本格的に戦闘の演習を行うらしい。
始まる前、クロードに手袋を届けに行った。
書斎の執務机の上に置きっぱなしになっているのを、窓を拭いているときに気がついたのである。
演習場には、すでに兵士たちが集まっている。
わたしの姿を見つけた顔見知りの兵士たちが手を振っている。
わたしも手を振り返した。
そんなふうにして兵士たちに手を振りつつ、クロードのいるテントへと向かった。
「妃殿下」
テントのすぐ前で小隊が整列している。
よく見ると、王都からいっしょに来た新兵たちである。
いっしょに馬車に乗って馭者をしてくれた、真っ赤なほっぺの兵士もいる。
「お久しぶり。まぁ、みなさん。立派になって」
いっしょに旅をしたときには、軍服ですら「着用している」というよりかは「着られている」といった感じだった。初々しいというかちょっとだけ頼りなさそうというか、とにかくこの子たち大丈夫なのかしら?なんて、同年齢くらいなのにエラソーに思っていた。
だけど、ちょっと見ない間にすっかりたくましくなっている。
驚いてしまった。
「妃殿下も、立派になられましたね」
「えっ?」
真っ赤なほっぺの兵士に言われた。
ちょっ……。
立派って?どういう意味での立派なの?
「バカだな。そういうときは、お美しくなってとかエレガントになられて、とか言うんだ」
小隊の中のだれかが注意すると、いっせいに笑い声が起った。
もちろん、わたしも笑ってしまった。
他意や悪意はなかったのよ。たぶん、だけど。
彼らに「がんばってね」と伝えると、テントに近づいた。
見張りの兵士に手袋を渡してもらうようお願いしていると、中からロランが顔を見せた。
「ロラン、戻っていたの?」
「妃殿下、お久しぶりです」
彼は北方地域での演習を終えてからずっと、王都に駐在していたのである。
「どうぞ、お入りください」
彼が勧めてくれたので、中に入ることにした。
「将軍、手袋をお忘れですよ」
二人っきりのときにはクロードと呼ぶけれど、だれかがいるときには将軍と呼ぶようにしている。
「ああ、ありがとう」
クロードが近づいて来たので、直接手渡した。
「驚いた」
ロランがクスクス笑いだした。
彼の可愛い顔には、子どもみたいに楽しそうな表情が浮かんでいる。
「あんなに妃殿下のことを邪険にされていたのに。最初から、素直になればよかったじゃありませんか」
「うるさいっ!」
クロードはロランにかぶせ、真っ赤な顔で怒鳴った。
だけど、二人ともすぐに真剣な表情になった。
「何かあったのですか?」
急に胸騒ぎがしはじめた。
クロードとロランの雰囲気が、あまりにも深刻な感じがしたからである。
「王都で反乱が起こったんだ」
「ええっ?」
「ぼくが王都を発ったときにはまだでしたが、おそらくいまごろは民衆も蜂起しているはずです。正確には、オデール国の諜報員たちの仕業です。民衆の蜂起に続き、オデール国軍が侵攻してあっという間に王都を占領するはずです。その、妃殿下。申し上げにくいのですが、あなたの姉君は行方不明に……」
「お姉様が?」
「王族は暗殺されたり行方不明、というよりかは王宮を逃げだしたりしている。残っていて生きている王族は、オデール国軍に捕らえられるだろう。その後は……」
そう言ったクロードを、思わず見てしまった。
彼の美貌に浮かんでいるのは、何とも表現のしようのない表情。
彼は途中で言葉を止めてしまったけれど、続きは容易に想像出来る。
オデール国によって、王都で反乱が起こった。民衆が求めているのは、まぎれもなく王族の死。
捕まった王族は、民衆の前にひきずりだされて斬首されてしまう。
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