「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……

ぽんた

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死にたくない

 王都でのわたしは、無気力に近かった。夢や希望を持たず、ただ一日一日がすぎるのを待っていた。いろんなことに耐え忍び、やりすごし、見てみぬふりをして保身に徹していた。

 離縁されずに王宮に残っていたとしたら、さっさと囚われてその場で斬られるか、民衆の前にひきずりだされて処刑されるかしたかもしれない。

 あくまでもいる場所が違ったから、ことなきを得ているにすぎない。

 それも、これ以降はわからないけれど。

「ディアーヌ、わが妹よ」

 お兄様は、長椅子の横をまわってこちらに向かってきた。わざとらしく、腕を広げている。

 そのタイミングで、クロードがわたしの前に立った。

 わたしを守るかのように。

「それは誤解だよ、ディアーヌ。王太子と王太子妃を殺すのは、わたしが行うことではない。それは、民衆が決め、斬首人が実行する。わたしは、そのお膳立てをするだけさ」

 やわらかいと思っていた笑みは、いまでは鋭く陰湿なものにかわっている。

 って、ちょっと待って。

 いまさっき、お兄様は「王太子と王太子妃を殺すのは」って言わなかった?

 嘘っ!マリユスって王太子になっていたの?いつの間に?

 そういえば、演習場のテントで調理兵長も言っていたわね。
 物乞いが「おれは、王太子だぞ」って言っているって。

 そのときには、完全にスルーしていたわ。

 そうだったんだ。王太子と王太子妃ね。

 うらやましいなんて、まーったく思わない。

 それどころか、離縁されなかったらと思うとゾッとした。

 あのままだったら、死んでもいい、殺されてもいいとすぐに諦念したかもしれない。
 もっとも、それもいまだからそんな強がりが言えるのかもしれない。いざそのときになったら、全力で命乞いするかもしれないし、さらに全力でムダな抵抗をしたかもしれない。
 だけど、すくなくともいまほど生きたい、生き残りたいと生に執着はしていなかった。

 またしても驚きだけれども、いまは夢や希望を持っている。生きたいと強く思っているし、いろんな可能性を見出したいと願っている。

 なにより、大ゲンカしながらでもクロードと楽しくすごしたいと切望している。

 とはいえ、そのクロードが望むなら、命を賭けてもいい。死んでくれと言われれば了承する覚悟はある。

 もちろん、犬死にはごめんだけど。

 出来れば、二人で最後までしぶとく生き残りたい。それでだめなら仕方がない。

 ほんと、わたしってば強くなったわよね。

 つくづく実感してしまう。

「どうして?どうしてなの、お兄様?」

 お姉様は泣いている。

 それが嘘泣きだってことは、わたしは知っている。

 いつだってそう。彼女は、よりドラマチックに、より同情を買う為に、涙を操ることが出来るのである。

 凄いスキルだって、いつも感心してしまう。

 涙なんて見せてやるもんかって、ムダに意地をはるわたしにはぜったいにムリな技ね。

「どうして、だって?わかりきったことを尋ねるんだな。本気で尋ねているんだったら、おまえはそうとうバカか権力に溺れきっているというわけだ」

 昔のお兄様なら、人をバカにするようなことはなかった。

 いったい、何がお兄様をこんなにかえてしまったのかしら?

 心の中でそう問わずにはいられない。

「バカだなんてひどいわ。はっきり言ってちょうだい。言葉にださないとわからないことだってあるでしょう?」

 お姉様が言い返した。

 お兄様がこんなことをする理由がわからないのね。

 わたしはそう思った。お兄様もおなじことを思ったんでしょうけど、この際お姉様のバカさ加減は問題ないと判断したのね。

 お姉様のバカについてはまったく触れなかった。

 それよりも、お兄様はすぐ目の前にいるクロードと視線を合わせた。

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