「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……

ぽんた

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リン、拉致される

「リン、行こう。ああ、心配ない。わたしには、リンを肩にのせて消えるような器用な真似は出来ない。だから、堂々とエントランスから出て行くから」
「お兄様、そこじゃないわ」

 お兄様って、ちょっとだけ間の抜けたところがあるのよね。そんなお兄様って、ギャップがあって可愛いんだけど。

 わたしってば、何を言っているの?

 お兄様のギャップに萌えている場合じゃないでしょう?

「クロード、ロラン。二人とも、体は動かずとも耳はきこえているだろう?シュエットの催眠効果だ。シュエットは、特殊な波動を出して他者を操ることが出来るんだ。それはともかく、リンは連れて行く。取り返したいなら追ってくるといい。逃げも隠れもせん。堂々と街道を王都へ進むからな」
「だから、いやよ。お兄様、わたしは行かないから」
「リン。『行かない』、ではない。来るんだ」

 抵抗しまくった。だけど、手首をつかまれ文字通り床を引きずられてしまった。

「クロード」

 クロードに助けてって言いたい。お願いよ、クロード。わたしを助けて、と。

 だけど、そうなるとお兄様との戦いは避けられない。いいえ。あのシュエットとかいう使役獣もいる。

 クロードとロランが危ない。それでなくても、ロランはケガをしている。それも、ひどいケガである。

 シュエットに勝てるわけがない。

 二人に何かあったら、わたしは……。

「クロード、わたしは大丈夫。自分でどうにかするから。だから、だから、あなたも……。生きて、お願い。生きて会いましょう。ロラン、あなたもよ」

 廊下をひきずられながら、声がかれてもなお叫び続けた。

 クロードに「助けて」はもちろん、「逃げて」というのもタブーなことはわかっている。

 彼は、そう言われれば意地になるに決まっている。

 だから、「生きて」を強調し、「会いましょう」と言った。

 もしかしたら、わたしにだって逃げだすチャンスがあるかもしれない。

 おとなしくさえしていたら、殺されることはないかも。生きてさえいたら、なんらかのチャンスはあるはず。

 屋敷の前に、馬が一頭いた。

 お兄様によって玄関をひきずりだされると、馬に乗せられてもなお叫び続けた。だけど、クロードとロランから返事はなかった。

 お願い。二人とも、わたしを助けに来ないで。

 そう願わずにはいられない。

 なんて願っているけれど、もしかして二人とも助けに来る気なんてまったくなかったとしたら?

 わたしの独りよがりだとしたら?助けに来て欲しいって、勝手に願っているとか?

 もしかして、小説のヒロインみたいに心や想いが暴走している?

 だったら、訂正してもいいかしら?

 リンわたしを助けに行きたいって意思表示だけ見せて、それからさっさと逃げて欲しい。

 これでどうかしら?

 お兄様越しに屋敷を見ながら、複雑な気分を味わった。


 お兄様とわたしを乗せた馬は、ポクポクと小気味よい音を鳴らしつつ街道をのんびり歩いている。

 お兄様はクロードに宣言した通り、小細工をしたり気をまわしたりせずに堂々と街道を進んでいる。

 わたしはというと、そのお兄様の前に乗せられて居心地の悪い思いをしている。それだけじゃない。めちゃくちゃムカついているし、イライラしている。

 だから、ずっと正面の景色を睨みつけている。

 王都から来たときには、荷馬車でやって来た。

 いまではすっかり見慣れたこの辺りの景色は、はじめて見たとき他の領地や地域の景色と違ってのんびりしていて豊かに感じられた。

 その思いはいまでもかわらない。

 この辺境の地から一歩外へ出れば、景色はガラッとかわってしまう。

 それが王都に近くなればなるほど、景色はさらにかわる。

 もちろん、わたしが見た景色はほんの一部分。領主の中には、わが利益や繁栄などいっさい顧みず、領民を一番にかんがえて経営している人もいる。そういう領地は、豊かとまではいかずとも飢えや退廃とは無縁かもしれない。

 だけど、ほとんどの領主がそうじゃない。みずからの利益を優先とまではいかなくても、経営が厳しい領主は数知れない。

 なぜなら、王都、つまり王族の搾取が年々過剰になるからである。




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