「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……

ぽんた

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一頭の馬にお兄様と乗っているんだけど……

 王族をはじめ王都にいる特権階級のほとんどが、国内がこれほどの状況になっていることを知っていながら知らない、あるいは気がついていないふりをしている。

 噂にはきいているが……。

 ほとんどがそれで終わり。それ以上、何かしらするわけではない。

 かくいうわたしもそうだった。

 クロードの元へ行く道中で、すべてを目の当たりにしてショックを受けた。

 だけど、ショックを受けただけで、何かしらしたわけではない。

 たとえば、クロードになんとかしてほしい、と訴えるとか。

 いまさらだけど、訴えようと思えばいくらでも出来た。自分が見たことを伝え、何か出来ることはないかと相談することも出来た。

 自分のことで精一杯だった。自分の居場所を作ったり、クロードに認められ、かまってもらうことに心血を注いでいた。

 ただの言い訳である。

 結局、わたしも多くの特権階級と同じなのだ。

 気がつくと、前後左右木々ばかりの景色になっている。

 これからしばらくの間、広大な森の中を通過することになる。

「リン、何をふくれているんだ?」

 うしろにいるお兄様が、尋ねてきた。

 ムカつくことに、その声に笑いが含まれていた。

 お兄様は、面白がっているのね。何に対してか、はわからないけれど。

 だから、無視することにした。

「あいかわらずだな。小さいときのままじゃないか。ほら、頬をふくらませているところもまったくかわっていない」

 お兄様の指先が、わたしの頬を突っついた。

「もうっ!やめて」

 思わず、怒鳴ってしまった。

「ほらほら、そういうとこ。リンは、見た目も性格もかわっていないよ。だれかさんみたいに姑息で要領がよくって欲が深くなくって、ほんとうにいいだ」
「見た目も性格もかわっていないですって?」

 そこがひっかかった。

 その後の「だれかさんみたいに」ってところは、お姉様のことよね。姑息で要領がよくって欲が深くってってことになったら、お姉様以外にかんがえられないから。

 それよりも、わたしが外見も内面もかわっていない?

 外見もかわっていないの?

 お兄様だからそういう解釈になるのかしら?

 お兄様は、当然わたしが生まれたときから知っている。だから、妹は幾つになってもかわらないって思うのかしら。もしくは、わたしだけは昔のままかわっていないと思い込んでいるの?

 自分はかわってしまっているから、せめてわたしは何もかわっていない。昔のまんまの妹だって自分に言いきかせているの?

 だったら、クロードは?

 彼は、わたしのことがわからなかった。覚えていなかった。

 まぁ、それはわたしもだから責めるつもりはない。

 お兄様の言う通り、わたしの外見がかわっていない、あるいは面影があるんだったら覚えていそうな物よね。最初に会った瞬間、「あっ、おれをぶん殴ったガキだ。あのガキは、一生忘れられるものか」ってことになるわよね。

 クロードは、どうしてわからなかったのかしらね。

 心の中で首を傾げた瞬間、急にお兄様とこんなに近づいていることがいやらしく思えてきた。

 どうしてそういう発想に結び付くのか、はわからない。

 とにかく、なぜかクロード以外の男性と肌が触れ合うほどの距離にいるのが不貞な気がしてならない。

「おろして」

 だから、前を向いたままお願いをした。

「なんだって?」

 お兄様が驚くのはムリはない。

「いいからおろして。どうしても王都に行かなければならないのなら、わたしは歩いて行くわ」
「いきなりどうしたというんだ?」
「いいから、おろしてよ」

 イライラが爆発してしまった。

 あんなに大好きだったお兄様が、いまではただの憎むべき敵になってしまっている。

 自分でもこのイライラの意味がわからない。

 クロードに会いたい。このまま、彼のもとに帰りたい。

 あの屋敷に、軍に、帰りたい。

 ただ無性に帰りたい。帰りたくって、イライラする。

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