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第二十九話「朝の教会」
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朝の静けさを破るように、遠くから鶏の鳴き声が聞こえてきた。
空の端がうっすらと朱に染まり、夜の名残を押しのけるように光が差していく。
「……おはよー」
「おはようございます」
俺と同時にロビンとリエトも目を覚ます。二人とも寝起きはいいらしく、寝坊助はいないようだ。
ロビンが木の窓を開けると、まだ薄暗い空の下、朝霧がうっすらと村を包み込んでいた。ひんやりとした空気が流れ込み、肌に触れた瞬間、頭の芯まで澄み渡るような感覚になる。
朝露をまとった木々の匂い。かすかに漂う土の香り。
遠くで牛の鳴き声がして、どこかの家の煙突から白い煙がゆらゆらと立ち上っていた。
「んー、気持ちいい風ね」
ロビンが深呼吸をして、頬をほころばせる。
その無邪気な姿に、俺もつられて微笑んだ。
そういえば、どの家も窓ガラスを使っていない。今更ながらにそのことに気がつく。
ガラスという素材がこの世界では高価なのか、それともあまり普及していないのか。
領都や王都などの都会に行けば違うのだろうか?
身支度を済ませ、朝食の時間になる。テーブルには温かいスープとパンが並べられていた。
「おはよう。昨日はよく眠れたか?」
リームさんが声をかけてくる。
「うん、久しぶりにちゃんとした寝具で眠れた気がするよ」
「良かったな」
ポンと肩を叩かれる。リームさんの優しさが伝わってくる。
「お父さん、今日は教会に行ってくるわ!」
「僕も行きます!」
ロビンとリエトがオーブリーさんに元気よく報告している。
「そうか。では司祭さまに届けるものを、ついでに持っていってもらえるかい?」
「いいわよ!」
ロビンが胸を張って答える。
どうやら、教会に行くことはできそうだ。それと同時に、ちょっとしたお使いも頼まれたらしい。
「俺も行っていいですか?」
「ケイスケもか。もちろんいいぞ」
リームさんが快く頷く。
彼の目は「見てくるといい」と言っていた。
朝食を済ませた後、俺たちは早速教会へ向かうことになった。
道中、ロビンが「そういえば」と言いながら、水浴びの頻度について話してくれた。どうやら毎日する習慣ではなく、今の時期は2、3日に一度程度。夏場は毎日、朝夕にすることもあるらしい。
「へぇ……そうなんだ」
日本ではほぼ毎日風呂に入るのが普通だったが、ここでは水の使用量や環境の違いが影響しているのかもしれない。
しばらく歩くと、 やがて道の先に、目的地である教会が見えてきた。
木造の建物で、外壁は丁寧に磨かれている。
勝手に石造りを想像していたが、意外にも温かみのある造りだった。
他の家々より一回り大きく、屋根の上には小さな尖塔が立ち、その中には青銅の鐘が吊るされているのが見える。
朝日を受けて、鐘がかすかに光を返していた。
「そういえば、昨日遠くで鐘の音を聞いた気がするけど、ここで鳴らしてたのか?」
「そうよ。朝とか昼とか、あとは何か特別なことがある時に鳴らすの。お祭りや、誰かが亡くなったときにも鳴るわ。村の人みんな、鐘の音で時を知るのよ」
ロビンの声が少し誇らしげだった。
それは、村の心臓の音を語るようでもあった。
そして、教会の入り口には、蝶々のような、あるいは丸が二つ横に並んだようなシンボルが掲げられていた。十字架のような宗教的なシンボルなのだろう。
木製の観音扉を押し開けると、僅かに軋む音が響いた。
「おはようございまーす!」
「おはようございます!」
ロビンとリエトが元気よく挨拶をする。
まず目に入ったのは、奥の祭壇に置かれた燭台と、そこに輝く銀色のシンボル。そして、その後ろには──。
「ステンドグラスだ……」
自然と口をついて出た言葉。
なんだ、普通にガラスはあるのか。
縦横2メートルほどのステンドグラスには、先ほど外で見たのと同じ二重丸のシンボルが中央に描かれ、幾何学模様が彩られていた。朝の光が差し込み、その模様を幻想的に輝かせている。
「あのガラス、綺麗よね! 私、あれ大好きなのよ! 特にこの朝の時間にちょうどお日様の光で輝いて、とっても素敵なの!」
「たしかに、すごい綺麗だな」
「そうよね!」
ロビンの目はステンドグラスに負けないくらいキラキラと輝いている。
よっぽど好きなんだな。
その笑顔に、こちらまで不思議と笑顔になる。
天井は高く、見上げると力強い木製の梁が走っていた。その上には、蜂の巣のような蜘蛛の巣が広がっている。
「おやおや、元気なお客さんだね」
見上げていると、祭壇の奥から声が響いてきた。
姿を現したのは、濃紺に白い縁取りが施されたゆったりとしたローブをまとった老齢の男性だった。深い皺の刻まれた顔に、穏やかな笑みを浮かべている。
「おはようございます、司祭さま!」
「おはようございます!」
ロビンとリエトが元気に挨拶する。
「やあ、ロビン、リエト。それに、見慣れない顔がいるね」
司祭は俺に視線を向ける。
「初めまして。ケイスケといいます」
「ケイスケ君か……良い名だね」
ゆっくりと頷きながら、司祭は微笑む。
「今日は何か用事かい?」
「はい、お父さんから届け物を頼まれて……それと、ケイスケが教会を見てみたいって!」
ロビンが俺の方をちらりと見ながら言う。
「ふむ、そうか。よろしければ、中をゆっくり見ていくといい。教会のこと、そして神の教えについても、できる限りお話ししようかな」
司祭の言葉に、俺たちは顔を見合わせて頷いた。
教会の中を見渡しながら、俺はふと、ステンドグラスの輝きに目を奪われる。
そこから差し込んだ色とりどりの光が、司祭に降り注いでいた。
なるほど、如何にも神職者といわんばかりの光景だ。
この世界の宗教……そして、光の魔法を使える司祭さま、か。どんな話が聞けるのだろうか。
俺は、自然と期待に胸を膨らませていた。
空の端がうっすらと朱に染まり、夜の名残を押しのけるように光が差していく。
「……おはよー」
「おはようございます」
俺と同時にロビンとリエトも目を覚ます。二人とも寝起きはいいらしく、寝坊助はいないようだ。
ロビンが木の窓を開けると、まだ薄暗い空の下、朝霧がうっすらと村を包み込んでいた。ひんやりとした空気が流れ込み、肌に触れた瞬間、頭の芯まで澄み渡るような感覚になる。
朝露をまとった木々の匂い。かすかに漂う土の香り。
遠くで牛の鳴き声がして、どこかの家の煙突から白い煙がゆらゆらと立ち上っていた。
「んー、気持ちいい風ね」
ロビンが深呼吸をして、頬をほころばせる。
その無邪気な姿に、俺もつられて微笑んだ。
そういえば、どの家も窓ガラスを使っていない。今更ながらにそのことに気がつく。
ガラスという素材がこの世界では高価なのか、それともあまり普及していないのか。
領都や王都などの都会に行けば違うのだろうか?
身支度を済ませ、朝食の時間になる。テーブルには温かいスープとパンが並べられていた。
「おはよう。昨日はよく眠れたか?」
リームさんが声をかけてくる。
「うん、久しぶりにちゃんとした寝具で眠れた気がするよ」
「良かったな」
ポンと肩を叩かれる。リームさんの優しさが伝わってくる。
「お父さん、今日は教会に行ってくるわ!」
「僕も行きます!」
ロビンとリエトがオーブリーさんに元気よく報告している。
「そうか。では司祭さまに届けるものを、ついでに持っていってもらえるかい?」
「いいわよ!」
ロビンが胸を張って答える。
どうやら、教会に行くことはできそうだ。それと同時に、ちょっとしたお使いも頼まれたらしい。
「俺も行っていいですか?」
「ケイスケもか。もちろんいいぞ」
リームさんが快く頷く。
彼の目は「見てくるといい」と言っていた。
朝食を済ませた後、俺たちは早速教会へ向かうことになった。
道中、ロビンが「そういえば」と言いながら、水浴びの頻度について話してくれた。どうやら毎日する習慣ではなく、今の時期は2、3日に一度程度。夏場は毎日、朝夕にすることもあるらしい。
「へぇ……そうなんだ」
日本ではほぼ毎日風呂に入るのが普通だったが、ここでは水の使用量や環境の違いが影響しているのかもしれない。
しばらく歩くと、 やがて道の先に、目的地である教会が見えてきた。
木造の建物で、外壁は丁寧に磨かれている。
勝手に石造りを想像していたが、意外にも温かみのある造りだった。
他の家々より一回り大きく、屋根の上には小さな尖塔が立ち、その中には青銅の鐘が吊るされているのが見える。
朝日を受けて、鐘がかすかに光を返していた。
「そういえば、昨日遠くで鐘の音を聞いた気がするけど、ここで鳴らしてたのか?」
「そうよ。朝とか昼とか、あとは何か特別なことがある時に鳴らすの。お祭りや、誰かが亡くなったときにも鳴るわ。村の人みんな、鐘の音で時を知るのよ」
ロビンの声が少し誇らしげだった。
それは、村の心臓の音を語るようでもあった。
そして、教会の入り口には、蝶々のような、あるいは丸が二つ横に並んだようなシンボルが掲げられていた。十字架のような宗教的なシンボルなのだろう。
木製の観音扉を押し開けると、僅かに軋む音が響いた。
「おはようございまーす!」
「おはようございます!」
ロビンとリエトが元気よく挨拶をする。
まず目に入ったのは、奥の祭壇に置かれた燭台と、そこに輝く銀色のシンボル。そして、その後ろには──。
「ステンドグラスだ……」
自然と口をついて出た言葉。
なんだ、普通にガラスはあるのか。
縦横2メートルほどのステンドグラスには、先ほど外で見たのと同じ二重丸のシンボルが中央に描かれ、幾何学模様が彩られていた。朝の光が差し込み、その模様を幻想的に輝かせている。
「あのガラス、綺麗よね! 私、あれ大好きなのよ! 特にこの朝の時間にちょうどお日様の光で輝いて、とっても素敵なの!」
「たしかに、すごい綺麗だな」
「そうよね!」
ロビンの目はステンドグラスに負けないくらいキラキラと輝いている。
よっぽど好きなんだな。
その笑顔に、こちらまで不思議と笑顔になる。
天井は高く、見上げると力強い木製の梁が走っていた。その上には、蜂の巣のような蜘蛛の巣が広がっている。
「おやおや、元気なお客さんだね」
見上げていると、祭壇の奥から声が響いてきた。
姿を現したのは、濃紺に白い縁取りが施されたゆったりとしたローブをまとった老齢の男性だった。深い皺の刻まれた顔に、穏やかな笑みを浮かべている。
「おはようございます、司祭さま!」
「おはようございます!」
ロビンとリエトが元気に挨拶する。
「やあ、ロビン、リエト。それに、見慣れない顔がいるね」
司祭は俺に視線を向ける。
「初めまして。ケイスケといいます」
「ケイスケ君か……良い名だね」
ゆっくりと頷きながら、司祭は微笑む。
「今日は何か用事かい?」
「はい、お父さんから届け物を頼まれて……それと、ケイスケが教会を見てみたいって!」
ロビンが俺の方をちらりと見ながら言う。
「ふむ、そうか。よろしければ、中をゆっくり見ていくといい。教会のこと、そして神の教えについても、できる限りお話ししようかな」
司祭の言葉に、俺たちは顔を見合わせて頷いた。
教会の中を見渡しながら、俺はふと、ステンドグラスの輝きに目を奪われる。
そこから差し込んだ色とりどりの光が、司祭に降り注いでいた。
なるほど、如何にも神職者といわんばかりの光景だ。
この世界の宗教……そして、光の魔法を使える司祭さま、か。どんな話が聞けるのだろうか。
俺は、自然と期待に胸を膨らませていた。
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