悠久の放浪者

神田哲也(鉄骨)

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第四十四話「魔力を感じるために」

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「あれだな! あとはもう慣れと感覚の問題だ!」
「わかりました!」

 そう言われてわかったと答えたのだが――。

「……わからん」

 結局のところ、なんとなく全身に力を籠めれば肉体強化魔法が使えるのはわかったが、魔力が体を流れる感覚というのがわからない。
 魔力の感覚を掴むために、モンドの言う通り瞑想を試してみたものの、正直よくわからなかった。
 何となく「これかな?」という感覚はあるのだが、確信は持てない。
 それでも何度も瞑想を繰り返したが、進展なし。

『魔力の流れ? 今も流れてるよー』
「マジで?」
『うん、マジでー』

 夜になって、納屋でリラに聞いてみても、俺に魔力は流れてるらしいがやはり感覚がわからなかった。

「ねえ、ケイスケは何してるの?」
「つんつん」

 寝る前にも試してみたが、ロビンとリエトと一緒では集中できない。

「……魔法のことは、やっぱり専門家に聞くかあ……」

 モンドは戦士としての経験が豊富だけど、魔法の理論を学んできたわけではない。もっと体系的に魔法を理解している人に相談するべきだろう。
 そこで思いついたのは、一人の人物だった。

 翌朝、書類仕事を片付けた後、俺は教会へ向かった。
 魔法について聞くなら、やはりあの人しかいない。

「おや、どうしました?」

 教会に入ると、司祭さまが穏やかな笑みを浮かべて迎えてくれる。  
 ちなみにだが、司祭さまの名前はイネハギート=デルブネラというらしい。庶民出身だそうで、ファミリーネームのデルネブラとは、デルブネラ教会出身という意味だそうだ。

「すみません、魔法について教えてほしいんですけど」
「ふむ……構いませんよ。どうぞ中へ」

 司祭さまに誘われて、教会の奥へと進む。そこで俺は、昨日のモンドさんとの訓練の話をした。
 特に、魔力を感じることができないのに魔法が使えてしまうという点について、相談する。
 俺の話を聞いた司祭さまは言った。

「そうですか……。しかし、魔力を感じることができないのに魔法を行使できるというのは、稀にですが実例があります」
「実例があるんですか?」
「はい。それは、大抵の場合、魔力量が非常に多い人に見られる現象です」

 魔力量が多いと、無意識に魔法を発動できることがあるらしい。逆に、魔力量が少ない人は魔力を繊細に感じ取る能力が高くなることが多いという。

「ちなみに、先日教えた光球の魔法ですが、使ったときに疲れたりはしましたか?」
「いえ、全く疲れなかったです」

 俺は正直に答えた。
 司祭さまは少し驚いた様子で頷く。

「だとすると、やはり魔力量がかなり多いのかもしれませんね。普通は基礎魔法といえど、初めてなら少しは疲れるものですから」
「そうなんですね」

 ひとまず、俺が異常というわけではなさそうで安心する。

「では、別の魔法を試してみましょうか。詠唱を教えますよ」
「おお! やってみたいです」

 新しい魔法を学べるなんて、願ってもない機会だ。
 司祭さまは俺の前で手を掲げ、穏やかに詠唱を始めた。

『輝ける精霊たちよ、集って害なすものから守る光の幕を張れ……キオール』

 すると、司祭さまの前に淡く輝く光の幕が広がった。
 この前俺が間違って発動した光のカーテンに似ているが、こちらには揺らぎはなく、ピンと張られた光の幕のようだった。

「これが光の魔法の防壁です。物理的な衝撃には耐えられませんが、他者の魔法を防ぐ効果があります」

 興味深く、俺はそっと光の幕に手を伸ばしてみた。
 すると、俺の手は水の中に手を入れるときのような感覚で特に抵抗もなく光の幕をすり抜ける。

「不思議な感じですね……触れることができない」
「そうでしょう? では、ケイスケさんも試してみてください」
「はい!」

 司祭さまに詳しく詠唱を教わり、それから魔法を実践してみることに。

『輝ける精霊たちよ、集って害なすものから守る光の幕を張れ……キオール!』

 すると、俺の前方1メートルほどの場所に、淡い光の幕が出現した。

「おお! 一発で成功するとは……!」

 司祭さまが感心したように声を上げる。  

「さすがですね。やはりあなたには光の魔法の適性があります」

 俺はしばらく光の幕を眺めた後、魔法を解除する。
 魔法の解除はなんとなく解除と意識することでできることはわかっている。

「それで、どうですか? 魔力は感じられましたか?」

 司祭さまに尋ねられ、俺は少し考え込んだ。
 確かに発動の瞬間、何かが体を通ったような気はする。だが、それが魔力なのかと言われると、まだ自信がない。

「……一回じゃわからないですね、もう何回か試してみてもいいですか?」
「もちろんですよ。ただし、使いすぎて倒れることのないように気をつけてください。魔力を使い果たすと、とても辛いですから」
「わかりました」

 その後、俺は5回ほどキオールを使ってみた。
 繰り返すうちに、確かに体を何かが流れているような感覚を掴めるようになってきた。

 これが魔力……なのか?

 俺が感覚を確かめていると、司祭さまが俺の様子をじっと見つめていた。

「……これだけ光の防壁を張っても平気な顔をしているとは……」

 彼の呟きは小さく、俺には聞こえなかった。

 それから司祭さまは、また神学校への入学を強く勧めてきたのだった。
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