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第四十六話「ロビンの追想」
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私がケイスケと初めて会ったのは、村の宴会の夜のことだったわ。
その日、リームさんたちが村にやってきて、みんなで歓迎の宴を開いたの。リームさんたちはよくこの村に来てくれる行商人の夫婦で、私は彼らが好きだった。
行商人の中には、ずる賢くて嫌な人もいる。高く売りつけたり、品物を誤魔化したりする人もいるし、女の人をいやらしい目で見る人だっている。でも、リームさんたちは違った。いつも正しい値段で品物を売ってくれるし、お金が足りない人には、次の機会に払えばいいと猶予をくれることもあった。
だから、私だけじゃなく、村のみんなもリームさんたちのことは好きだったと思うの。
「いい商人との縁は大事にしなければいけないよ」
お父さんがよくそう言っていたのを覚えている。
そんなリームさんたちが、珍しく子供を連れてきた。
今までも冒険者だったり、行商人仲間だったり一緒なことはあったけど、子供は初めて。
なんだか不思議な子だった。
黒い髪に黒い瞳で、着ている服はぼろぼろで、見た目はまるで森の中から出てきたばかりの野生児みたいだったわ。
でもそんな見た目の子供はすごい落ち着いていて、大人しくリームさんの馬車に乗っていたのよ。
顔はきょろきょろ色んなところを見ているけど、でもなんだか落ち着いてるようで、なんだかちぐはぐで私は気になったの。
宴会には、その子の姿はなかった。
私はその子のことが気になっていたから、話すのを楽しみにしてたのに。
だから、宴会の途中で私たち子供はもう寝るように言われたけど、私はこっそり抜け出して、外へ出たの。
いけないことだってわかっていたけど、大人はみんなお酒を飲んでいて誰も私がこっそり外に出るのを見てる人はいなかった。
私は多分、あの子はリームさんたちの馬車のところにいるだろうって思った勘は当たってた。
馬車の近くの、焚火の明かり。それに照らされている、男の子。炎が揺らめき、影が揺れていた。私の目に映ったその子のその瞳にはなぜか真剣な色が宿っていたみたいだった。
なんでかな、私はそれを綺麗だって、そう思ったの。
だから、声をかけようとしてたんだけど、どう声をかければわからなくなっちゃった。
でも、声をかけなくちゃ何も始まらない。
「ねえ、何をしているの?」
ちょっとどきどきしながら、私は頑張って声をかけた。
その子は私を見て、少し驚いたような顔をした後、「特に何もしてない」と答えた。でも、絶対に何かを考えていたと思う。じゃなきゃ、あんな真剣な顔なんてできないわ。
でも、私は何もしてないなら、丁度いいって思って。
「そうなの? じゃあ、少しお話しましょうよ!」
そうやって話しかけたんだ。
その子は少し考えてから「言葉があまり上手く話せないかも」と言いながらも、ちゃんと話をしてくれたわ。
名前を教え合った。名前はケイスケ。旅人だというケイスケは、私と年は同じくらい。多分だけど。
……確かにあのときのケイスケは言葉があまり上手じゃなかったわね。今では考えられないけど。
「だってケイスケ、私と年は同じくらいでしょ?」
「……え?」
だからそう聞くと、ケイスケはなんでか驚いていたの。もしかしたら、ケイスケはもう少し年上なのかもしれなかった。でもケイスケ自身、自分の年齢がわからないって言ってたから、結局どうなんだろう?
それで、ケイスケは鏡を見たいと言ったから、私は持っていた小さな手鏡を貸してあげた。ケイスケはじっと自分の顔を見つめていた。
「どうしたの?」
何が気になってるのか気になって、鏡を横からのぞき込む私。でもそのとき、私はケイスケがなんだか臭うことに気がついた。
だから、つい言っちゃった。
「ケイスケ、あなた、臭いわ」
「…………」
ケイスケは私に言われたことにびっくりしてた。
「え、何?」
「臭いのよ!」
気になっちゃえば、もう気にしないことなんてできなくて、私は思わず鼻をつまんだ。
だって、本当にゴブリンみたいな臭いがしたもの。
本当のゴブリンを見たことはないけど、きっと同じくらい。それくらい臭かったの。
「ずっと旅をしてたんでしょ? ずいぶんと匂うわよ!」
だからケイスケに井戸で体を洗うように言ったんだけど、嫌だっていうから、それでその日は体を洗うことを約束して、さようならを言った。
後でお父さんに話したら、「旅をしていたなら仕方がない」と言ってたけど、私は臭いのは嫌だった。
私とケイスケの出会いはこんな感じ。
それから、ケイスケは村に残ることになったわ。
村に残ってから、私はケイスケとよく話をするようになったの。
ケイスケには記憶がなかった。
旅をしていたことは覚えているみたいだけど、それまでのことは何も覚えていないみたい。
「どうして覚えていないの?」
「わからない……」
不思議なことだった。記憶が無くなるって、どういう感じなんだろう? 私だったら、言葉も忘れちゃうのはとても困ると思う。
でも、ケイスケは頭が良かった。
私もお父さんや司祭さま、いろんな人から勉強を教わっているけれど、ケイスケのほうが計算は得意だった。
文字も最初は私やリエトが教えていたのに、すぐに父さんの仕事を手伝えるくらいになってしまった。
それに、魔法も。
司祭さまがケイスケに教えてくれた光の魔法。
ゆらゆらと輝く光は、とても綺麗だった。
私は火の魔法を使えるようになるまで一ヶ月もかかったのに、ケイスケはたった一度でできてしまった。
――ずるい。
そう思った。
私は負けたくなくなった。
だから、勉強も魔法も頑張ったの。
私の魔法の適性は火。
領都で調べてもらったから間違いないわ。
「ケイスケは?」
「……火の魔法は、使えないみたいだ」
ケイスケが火の魔法を試したことがあった。でも、何も起きなかった。
「そっか」
それがわかったとき、ほっとした。
光の魔法だけじゃなくて、もし火の魔法まで使えたら、私は何もケイスケに勝てなくなってしまうから。
負けたくない。
私は火の魔法の練習を頑張った。
炎の玉を出す魔法を習って、毎日練習した。
「ロビン、また練習?」
「うん! 今度こそ、大きな火の玉を作るんだから!」
何度も何度も、魔力が尽きるまで。
魔力が切れると、頭がくらくらしてとても辛かった。でも、それでも私は頑張ったわ。
だって、ケイスケに負けたくないから。
でも、私は気づいていなかった。
最初はケイスケに負けたくなくて頑張っていたはずなのに、いつの間にかケイスケと一緒にいるのが楽しくなっていたことに。
勉強を教えてもらったり、魔法の練習を見てもらったり。
リエトと一緒に遊んだり、村の仕事を手伝ったり。
ケイスケが来てから、私の日常は少しずつ変わっていった。
その日、リームさんたちが村にやってきて、みんなで歓迎の宴を開いたの。リームさんたちはよくこの村に来てくれる行商人の夫婦で、私は彼らが好きだった。
行商人の中には、ずる賢くて嫌な人もいる。高く売りつけたり、品物を誤魔化したりする人もいるし、女の人をいやらしい目で見る人だっている。でも、リームさんたちは違った。いつも正しい値段で品物を売ってくれるし、お金が足りない人には、次の機会に払えばいいと猶予をくれることもあった。
だから、私だけじゃなく、村のみんなもリームさんたちのことは好きだったと思うの。
「いい商人との縁は大事にしなければいけないよ」
お父さんがよくそう言っていたのを覚えている。
そんなリームさんたちが、珍しく子供を連れてきた。
今までも冒険者だったり、行商人仲間だったり一緒なことはあったけど、子供は初めて。
なんだか不思議な子だった。
黒い髪に黒い瞳で、着ている服はぼろぼろで、見た目はまるで森の中から出てきたばかりの野生児みたいだったわ。
でもそんな見た目の子供はすごい落ち着いていて、大人しくリームさんの馬車に乗っていたのよ。
顔はきょろきょろ色んなところを見ているけど、でもなんだか落ち着いてるようで、なんだかちぐはぐで私は気になったの。
宴会には、その子の姿はなかった。
私はその子のことが気になっていたから、話すのを楽しみにしてたのに。
だから、宴会の途中で私たち子供はもう寝るように言われたけど、私はこっそり抜け出して、外へ出たの。
いけないことだってわかっていたけど、大人はみんなお酒を飲んでいて誰も私がこっそり外に出るのを見てる人はいなかった。
私は多分、あの子はリームさんたちの馬車のところにいるだろうって思った勘は当たってた。
馬車の近くの、焚火の明かり。それに照らされている、男の子。炎が揺らめき、影が揺れていた。私の目に映ったその子のその瞳にはなぜか真剣な色が宿っていたみたいだった。
なんでかな、私はそれを綺麗だって、そう思ったの。
だから、声をかけようとしてたんだけど、どう声をかければわからなくなっちゃった。
でも、声をかけなくちゃ何も始まらない。
「ねえ、何をしているの?」
ちょっとどきどきしながら、私は頑張って声をかけた。
その子は私を見て、少し驚いたような顔をした後、「特に何もしてない」と答えた。でも、絶対に何かを考えていたと思う。じゃなきゃ、あんな真剣な顔なんてできないわ。
でも、私は何もしてないなら、丁度いいって思って。
「そうなの? じゃあ、少しお話しましょうよ!」
そうやって話しかけたんだ。
その子は少し考えてから「言葉があまり上手く話せないかも」と言いながらも、ちゃんと話をしてくれたわ。
名前を教え合った。名前はケイスケ。旅人だというケイスケは、私と年は同じくらい。多分だけど。
……確かにあのときのケイスケは言葉があまり上手じゃなかったわね。今では考えられないけど。
「だってケイスケ、私と年は同じくらいでしょ?」
「……え?」
だからそう聞くと、ケイスケはなんでか驚いていたの。もしかしたら、ケイスケはもう少し年上なのかもしれなかった。でもケイスケ自身、自分の年齢がわからないって言ってたから、結局どうなんだろう?
それで、ケイスケは鏡を見たいと言ったから、私は持っていた小さな手鏡を貸してあげた。ケイスケはじっと自分の顔を見つめていた。
「どうしたの?」
何が気になってるのか気になって、鏡を横からのぞき込む私。でもそのとき、私はケイスケがなんだか臭うことに気がついた。
だから、つい言っちゃった。
「ケイスケ、あなた、臭いわ」
「…………」
ケイスケは私に言われたことにびっくりしてた。
「え、何?」
「臭いのよ!」
気になっちゃえば、もう気にしないことなんてできなくて、私は思わず鼻をつまんだ。
だって、本当にゴブリンみたいな臭いがしたもの。
本当のゴブリンを見たことはないけど、きっと同じくらい。それくらい臭かったの。
「ずっと旅をしてたんでしょ? ずいぶんと匂うわよ!」
だからケイスケに井戸で体を洗うように言ったんだけど、嫌だっていうから、それでその日は体を洗うことを約束して、さようならを言った。
後でお父さんに話したら、「旅をしていたなら仕方がない」と言ってたけど、私は臭いのは嫌だった。
私とケイスケの出会いはこんな感じ。
それから、ケイスケは村に残ることになったわ。
村に残ってから、私はケイスケとよく話をするようになったの。
ケイスケには記憶がなかった。
旅をしていたことは覚えているみたいだけど、それまでのことは何も覚えていないみたい。
「どうして覚えていないの?」
「わからない……」
不思議なことだった。記憶が無くなるって、どういう感じなんだろう? 私だったら、言葉も忘れちゃうのはとても困ると思う。
でも、ケイスケは頭が良かった。
私もお父さんや司祭さま、いろんな人から勉強を教わっているけれど、ケイスケのほうが計算は得意だった。
文字も最初は私やリエトが教えていたのに、すぐに父さんの仕事を手伝えるくらいになってしまった。
それに、魔法も。
司祭さまがケイスケに教えてくれた光の魔法。
ゆらゆらと輝く光は、とても綺麗だった。
私は火の魔法を使えるようになるまで一ヶ月もかかったのに、ケイスケはたった一度でできてしまった。
――ずるい。
そう思った。
私は負けたくなくなった。
だから、勉強も魔法も頑張ったの。
私の魔法の適性は火。
領都で調べてもらったから間違いないわ。
「ケイスケは?」
「……火の魔法は、使えないみたいだ」
ケイスケが火の魔法を試したことがあった。でも、何も起きなかった。
「そっか」
それがわかったとき、ほっとした。
光の魔法だけじゃなくて、もし火の魔法まで使えたら、私は何もケイスケに勝てなくなってしまうから。
負けたくない。
私は火の魔法の練習を頑張った。
炎の玉を出す魔法を習って、毎日練習した。
「ロビン、また練習?」
「うん! 今度こそ、大きな火の玉を作るんだから!」
何度も何度も、魔力が尽きるまで。
魔力が切れると、頭がくらくらしてとても辛かった。でも、それでも私は頑張ったわ。
だって、ケイスケに負けたくないから。
でも、私は気づいていなかった。
最初はケイスケに負けたくなくて頑張っていたはずなのに、いつの間にかケイスケと一緒にいるのが楽しくなっていたことに。
勉強を教えてもらったり、魔法の練習を見てもらったり。
リエトと一緒に遊んだり、村の仕事を手伝ったり。
ケイスケが来てから、私の日常は少しずつ変わっていった。
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