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第百話「剣の選定と、終わらない一日」
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冒険者ギルドで依頼達成の報告を終えると、クェルに連れられて、彼女の家に向かうことになった。
「すぐそこだから!」
その言葉通り、ギルドから歩いて数分で到着したのは、立地の良さが際立つマンションだった。しかも最上階。
「ほらほら、入って入って!」
「お邪魔しま……って、広っ!?」
玄関を抜けると、目に飛び込んできたのは広大なリビング。リームさんの家全体がこのリビング一室に収まってしまいそうな勢いだった。
「広いだけだよ。特に物もないしね」
クェルの言葉通り、リビングは妙に殺風景だった。家具は最低限。ソファにローテーブル、棚が一つ。生活感は希薄で、まるで仮住まいのようにも思える。
「普段の管理はどうしてるんだ?」
クェルがせっせとこの部屋を掃除している姿が想像できない。
「専門の掃除業者が掃除してくれてるはずかな? ギルド経由で契約してるんだけど、よくわかんない」
彼女は肩をすくめた。たまに寝に帰ってくるだけ、とのことだったが、それにしては家のセキュリティがしっかりしている。
特に荷物部屋のドアには厳重な鍵がかかっており、魔力による個人認証まで付いていた。地球の技術より優れてるんじゃないか、これ。
「ちょっと待っててねー」
そう言って部屋に入ったクェルが、ゴソゴソと何かを探し始める。俺はというと、リビングの隅でそわそわと待つばかりだった。
部屋はきちんと整理され、見る限りほこりが積もっている感じもない。きちんと掃除されている感じだ。だけど生活感は皆無だった。
まるで、どこかのモデルルームなのかという感じだ。
「お待たせー」
やがて彼女が戻ってきて、床に剣を三本、並べて見せてくれた。
「この辺の剣でどう?」
鞘に少しホコリをかぶった剣たち。だが、錆びもなく、ちゃんと使えそうだ。一つずつ手に取ってみる。
すると、クェルが簡単に説明をしてくれる。
「それは鉄に魔銀が混じってるんだったかな? 少し軽めかも」
そう言われた一本目は、見た目こそ鈍色だったが、持つとずっしりと重い。これで軽めって、どんだけ力あるんだ。
右手で持ったり、左手で持ったり、両手で持ったりして重さを確かめる。クェルが「重心も確かめてね」というので、なんとなく気にしてみる。が、よくわからない。振りやすさみたいなものを確かめればいいのだろうか?
小さく頷いて、次に二本目。より濃い銀色の刀身が重厚感を放つ。
「鋼鉄の剣かな。さっきのより硬くて重いよ」
うん、確かに。手首にかかる重量が明らかに違った。
見た目はそれほど変わりないが、重い。
肉体強化魔法を使えば気にならないが、普通なら振るのに疲れそうだ。
だがこの重さは、武器になるのだという。
「重い武器は、持ち運ぶのは疲れるけど、重さを利用して威力を高めることができるよ」
なるほど。確かにこの重さなら、鈍器としても使うことは出来そうだ。
さっきと同じように、左右の手で持ち替えたり、ゆっくりと振ったりしながら重さ、重心を確かめる。
だけど、なんとなく重さが原因なのか、h理にくいような感覚を覚える。これが重心の違いというやつか。
続いて三本目。黒い鞘を抜くと、今度は黒光りする刀身が現れた。
「……黒いな」
「黒魔鉄の剣で、魔力を込めることができるよ。重さとしては一番軽いかも」
手に持ってみると、やけに手に馴染むような感覚があった。軽すぎず、でも重すぎず。柄と刀身が一体化しているような造形。これだ。俺の中の厨二心が全力で踊り出す。
何度も繰り返し左右の手に持って、ゆっくりと振ったり、構えをとってみる。
「それが気に入ったみたいだね!」
クェルがにやにや笑いながら言う。バレバレだったらしい。
「これがいい、な」
もう、他の剣は目に入らなかった。
「わかった。いいよ、あげる」
「いいのか?」
「うん。私には軽すぎて扱いづらいし、魔力を込めてもたいして効果がなかったからね」
「ちなみに、魔力を込めるって、どうやるんだ?」
「剣に魔力を流し込むだけ。属性によって効果が変わるらしいけど、私、魔力の属性まるでダメでさ。せいぜいちょっと硬くなるくらい。ケイスケは……光属性だよね? リラちゃん、光の精霊だもんね」
光属性の魔力。魔力をこの剣がどう受け止めるのか、想像するだけでワクワクする。
「やっぱり、これがいいな」
剣から目を離さずに言う。
「うん、いいよ。大事にしてね。ちなみに名前は…………あれ? 忘れちゃった!」
「思い入れないんだな……」
「うん。だから、ケイスケが好きな名前つけたらいいよ」
「……考えとく」
この剣の名前か。俺だけの剣。なんかかっこいい。
「じゃあ、ちょっと町に寄ってから、またギルド行こっか?」
「は? なんで?」
「ん? 依頼探しに行かない?」
「いやいや、俺たち、依頼こなして帰ってきたばっかりだろ!」
「えー? でも、ケイスケが頑張ったからすぐ終わったんだし、まだ日も高いし、もう一件いけるかなーって」
はぁ!? 時間が空いたから仕事って、どんなブラック精神だよ。こっちはもう今日終わった気満々だったのに。
「リームさんに報告したり……」
「この間言っといたよ、修行と依頼でしばらく帰れないこともあるって」
「なんて余計なことを!?」
……そうか、俺が寝てた時か……!
「マジで行くの?」
「うん、マジマジ」
クェルの顔をまじまじと見る。笑顔だが、微塵も折れる気配がない。
俺は肩を落とした。
「せめて、この剣の状態を鍛冶屋で見てもらってからにしたいんだけど?」
「それはそうだよ! じゃあ早速行こうよ!」
「……はーい」
力なく答える俺の手を、クェルは遠慮なく引っ張った。
今日の仕事、もう終わったと思ったのに……。
いや、クェルと一緒にいる限り、きっと「終わり」なんて来ないのかもしれない。
「すぐそこだから!」
その言葉通り、ギルドから歩いて数分で到着したのは、立地の良さが際立つマンションだった。しかも最上階。
「ほらほら、入って入って!」
「お邪魔しま……って、広っ!?」
玄関を抜けると、目に飛び込んできたのは広大なリビング。リームさんの家全体がこのリビング一室に収まってしまいそうな勢いだった。
「広いだけだよ。特に物もないしね」
クェルの言葉通り、リビングは妙に殺風景だった。家具は最低限。ソファにローテーブル、棚が一つ。生活感は希薄で、まるで仮住まいのようにも思える。
「普段の管理はどうしてるんだ?」
クェルがせっせとこの部屋を掃除している姿が想像できない。
「専門の掃除業者が掃除してくれてるはずかな? ギルド経由で契約してるんだけど、よくわかんない」
彼女は肩をすくめた。たまに寝に帰ってくるだけ、とのことだったが、それにしては家のセキュリティがしっかりしている。
特に荷物部屋のドアには厳重な鍵がかかっており、魔力による個人認証まで付いていた。地球の技術より優れてるんじゃないか、これ。
「ちょっと待っててねー」
そう言って部屋に入ったクェルが、ゴソゴソと何かを探し始める。俺はというと、リビングの隅でそわそわと待つばかりだった。
部屋はきちんと整理され、見る限りほこりが積もっている感じもない。きちんと掃除されている感じだ。だけど生活感は皆無だった。
まるで、どこかのモデルルームなのかという感じだ。
「お待たせー」
やがて彼女が戻ってきて、床に剣を三本、並べて見せてくれた。
「この辺の剣でどう?」
鞘に少しホコリをかぶった剣たち。だが、錆びもなく、ちゃんと使えそうだ。一つずつ手に取ってみる。
すると、クェルが簡単に説明をしてくれる。
「それは鉄に魔銀が混じってるんだったかな? 少し軽めかも」
そう言われた一本目は、見た目こそ鈍色だったが、持つとずっしりと重い。これで軽めって、どんだけ力あるんだ。
右手で持ったり、左手で持ったり、両手で持ったりして重さを確かめる。クェルが「重心も確かめてね」というので、なんとなく気にしてみる。が、よくわからない。振りやすさみたいなものを確かめればいいのだろうか?
小さく頷いて、次に二本目。より濃い銀色の刀身が重厚感を放つ。
「鋼鉄の剣かな。さっきのより硬くて重いよ」
うん、確かに。手首にかかる重量が明らかに違った。
見た目はそれほど変わりないが、重い。
肉体強化魔法を使えば気にならないが、普通なら振るのに疲れそうだ。
だがこの重さは、武器になるのだという。
「重い武器は、持ち運ぶのは疲れるけど、重さを利用して威力を高めることができるよ」
なるほど。確かにこの重さなら、鈍器としても使うことは出来そうだ。
さっきと同じように、左右の手で持ち替えたり、ゆっくりと振ったりしながら重さ、重心を確かめる。
だけど、なんとなく重さが原因なのか、h理にくいような感覚を覚える。これが重心の違いというやつか。
続いて三本目。黒い鞘を抜くと、今度は黒光りする刀身が現れた。
「……黒いな」
「黒魔鉄の剣で、魔力を込めることができるよ。重さとしては一番軽いかも」
手に持ってみると、やけに手に馴染むような感覚があった。軽すぎず、でも重すぎず。柄と刀身が一体化しているような造形。これだ。俺の中の厨二心が全力で踊り出す。
何度も繰り返し左右の手に持って、ゆっくりと振ったり、構えをとってみる。
「それが気に入ったみたいだね!」
クェルがにやにや笑いながら言う。バレバレだったらしい。
「これがいい、な」
もう、他の剣は目に入らなかった。
「わかった。いいよ、あげる」
「いいのか?」
「うん。私には軽すぎて扱いづらいし、魔力を込めてもたいして効果がなかったからね」
「ちなみに、魔力を込めるって、どうやるんだ?」
「剣に魔力を流し込むだけ。属性によって効果が変わるらしいけど、私、魔力の属性まるでダメでさ。せいぜいちょっと硬くなるくらい。ケイスケは……光属性だよね? リラちゃん、光の精霊だもんね」
光属性の魔力。魔力をこの剣がどう受け止めるのか、想像するだけでワクワクする。
「やっぱり、これがいいな」
剣から目を離さずに言う。
「うん、いいよ。大事にしてね。ちなみに名前は…………あれ? 忘れちゃった!」
「思い入れないんだな……」
「うん。だから、ケイスケが好きな名前つけたらいいよ」
「……考えとく」
この剣の名前か。俺だけの剣。なんかかっこいい。
「じゃあ、ちょっと町に寄ってから、またギルド行こっか?」
「は? なんで?」
「ん? 依頼探しに行かない?」
「いやいや、俺たち、依頼こなして帰ってきたばっかりだろ!」
「えー? でも、ケイスケが頑張ったからすぐ終わったんだし、まだ日も高いし、もう一件いけるかなーって」
はぁ!? 時間が空いたから仕事って、どんなブラック精神だよ。こっちはもう今日終わった気満々だったのに。
「リームさんに報告したり……」
「この間言っといたよ、修行と依頼でしばらく帰れないこともあるって」
「なんて余計なことを!?」
……そうか、俺が寝てた時か……!
「マジで行くの?」
「うん、マジマジ」
クェルの顔をまじまじと見る。笑顔だが、微塵も折れる気配がない。
俺は肩を落とした。
「せめて、この剣の状態を鍛冶屋で見てもらってからにしたいんだけど?」
「それはそうだよ! じゃあ早速行こうよ!」
「……はーい」
力なく答える俺の手を、クェルは遠慮なく引っ張った。
今日の仕事、もう終わったと思ったのに……。
いや、クェルと一緒にいる限り、きっと「終わり」なんて来ないのかもしれない。
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