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しおりを挟む翌朝俺が起き出しても子猫はよく眠っていたので、朝市に飯を買い出しに向かうことにした。が…このくらいの小さな子猫は何食べんだ?頭を捻りながらも出した結論は取り敢えず美味そうな肉と魚だろ!だった。
肉と魚を買い込み、柔らかめの離乳食のようなおじやも一応買っておいたので何も食べられないことはない筈だ。そして宿に戻れば少し騒ぎになっていた。
「おい!アンタの部屋すげぇ音するぞ!何連れ込んだんだ!」
「あ?おー…ちょっと見てくる。」
俺がいない間に何かあったのだろうか?
恐る恐る部屋に入れば、飛び散ったベッドや布団、枕の残骸が部屋いっぱいに広がっている。子猫は部屋の隅でこちらを警戒する眼差しで見ていた。
「…こりゃまたすげぇ暴れたな。」
「がるるる…」
威嚇しているようで尻尾の毛が膨らんでいる。扉を閉めてゆっくりと距離を詰める。ある程度近づけたところでしゃがみ、少しでも視線を合わせるようにする。
「おーおー…何怒ってんだ?ってかこんなに暴れて傷開いてねぇか?」
「…みー…」
落ち着いてくれるのを待ってやりたかったが、おそらくそれよりもさっさと距離を詰めて無理矢理でも触れ合ったほうがいいだろう。心音や人肌の体温は落ち着くと思う。これは怯えや不安から来る行動だろうしな。
「がう!!」
「おー…落ち着け。お前に危害を加えたりしねぇから。…っ…」
無理に近づいたので、子猫の鋭い爪に引っ掻かれる。それでも優しく抱き上げれば手を噛まれた。こういうのは忍耐が大事だよな。本当に傷つける事はないって信じてもらえるように。じっと耐える。
冒険者には危険が付きものだし、子猫の爪や牙の攻撃なんかよりも酷い怪我だってしてきた。これくらいなんてことはないのだ。
抱き上げたのとは反対の手で優しく撫でてやれば、噛んでいる力が緩む。完全に口を離して、不安げに俺を見上げた。
「ん、落ち着いたみてぇだな。んじゃあ傷見せてみろ。どのみち包帯替えなきゃだしな。」
「…みー…」
「良い子だな。」
ボロボロになってしまっているベッドにおろしてゆっくりと包帯を解く。出血はそこまでしていなかったが、やはり多少は無理に動いたのだろう。薬を塗って、新しい包帯を巻き直す。
俺に手当をされている間、ずっと申し訳無さげに自分が付けてしまった傷を見ていた。やはり良い子なのだろう。しかしこんなにも小さいのに大人でもトラウマになるような辛い経験をしている。
俺が引き取ったのだ。幸せにしてやるからな!
そんな決意を持って、子猫を育て上げることを決める。そうと決まれば名前が必要だよな。
「お前の名前…どうしような?」
「み…」
返事に元気がない。俺の怪我が気になるらしい。
「お前が謝ってくれてるのはわかってる。大丈夫だ。このくらいの怪我ならすぐ治るからよ。」
「みゃう…」
「分かった分かった。ポーションで治すよ。それでいいだろ?」
「み!」
初級ポーションを取り出して傷にぶっ掛ければ、みるみるうちに消えていく。子猫のも治してやりたいんだけどな…。しかし子供のうちにポーションを頼ると自己治癒力が低下することがあり推奨されていない。
「な!治ったぞ。もう平気だ。おいで」
「みー」
こちらを伺いながら近づいてきて、俺の手をぺろりと舐める。労ってくれているのだろうか?よしよし、と撫でて抱き上げ部屋を出る。
「お!出てきたか。大丈夫なのか?」
「おう、けど部屋は駄目にしちまった。悪いな。部屋を直す為の金はちゃんと支払うからよ。別の部屋貸してくんねぇか?」
「分かった。どうなってんのか見るのが怖えが…取り敢えず部屋は貸してやる。あの部屋の隣だ。ほらよ」
「ありがとよ」
「いつも利用してくれてっからな。」
「席借りるぞ」
「おう、好きにしろ。」
子猫も落ち着いたので、飯を差し出してみれば、がっつくように食べ始めた。口の周りもベトベトにして肉にかぶりついている。よっぽどお腹空いてたんだな。
「美味いか?いっぱい食えよ」
「…っ!」
「お?くれるのか?ははっありがとな。」
声をかけるとびくっとしてこちらを見て、肉を差し出すように鼻先で押し出してくる。
「次の肉や魚もあるからな」
「み!」
嬉しそうに食べているので美味しかったのだろう。腹が膨れるとさっさと寝始めた。やはり子供だからな。こんなものなんだろう。俺は隣の部屋を片付けようと思ったが、子猫を置いていくとまた不安にさせてしまうかもしれない。
長い布で子猫を括り付けて、動きやすいようにして、隣の部屋を片付けた。そのままでいいと宿の主人は言っていたが申し訳ないからな。
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